人生に乾杯!

Konyec
困窮に追い込まれた老夫婦の選んだ人生の選択。軽妙、コミカルに描く老人ハードボイルド(ほんとか?)
人生に乾杯!

元々はお役人の仲間だった主人公たち、国があのままならきっと贅沢すぎる恩給で悠々自適な老後が送れるはずであった。妻との出会いもドラマチック。この出会いのシーンから映画は始まります。
しかし世の中は変わった。年金で暮らす貧乏な老夫婦になっちまった。しかもその年金、そんな額じゃぜんぜん足りないよ。家賃も払えない。日本の近い将来と被るハンガリー事情。多分、日本のほうがよりひどくなるのは確実ですけど。

ただの貧乏老人じゃないところがポイントです。この老夫婦は知的で育ちの良い人たちです。人間にはプライドっちゅうもんがあるんだよー。と叫びたくなるような設定です。
この冒頭の状態、ガルシア・マルケスの「大佐に手紙は来ない」という短編小説を彷彿とさせます。同じく、誇り高い夫婦が貧困のどん底に陥っていく様を描いた小説です。文字通り何もかもを失い、このまま死ぬのかというところまで追い詰められます。誇り高い人間だからこその苦悩もあります。
もうこうなったらどうしようか。ここまで追い詰められたら、大佐のように大便を食うまで落ちぶれるか、それがいやならやるしかないのです。

よーし。いっちょやってやれ。夫は起ち上がります。

妻の大事なイヤリング。「これだけは絶対に手放さない。私にも誇りがあります」と言っていたのに、手放して支払に充てるしかなくなった。これは妻の辛さ、それを見る夫のつらさ、わかりますね。O・ヘンリばりですね。
ここまで来ても夫はある種の駄目人間です。妻はつねに現実的で気高いのですが、夫はふにゃふにゃしております。大事な車も手放すもんかっ、とがんばります。
大事な車はグラン・トリノ。じゃありません。なんでしたっけ。何とかというクラシックカーですね。若い頃、立派だった頃の自分の象徴でもあります。

一人考え込む夫。
車を手放すのか。糞を食うのか。どちらも御免だ。
よーし。いっちょやってやれ。夫は起ち上がります。

このブログでも何度か書いていますが、私は駄目人間の映画が好きなんです。老人映画も好きなんです。それから、犯罪をテーマにした映画も好きで、知的でプライドの高い人間の映画も好きなんですね。
駄目人間には大抵プライドの高さがあります。知的な部分もあります。だからこそ自分の理想と現実の乖離に耐えきれなくなったり、社会に対して恨みを持つようなことにもなります。知的な部分が足りないとよーし大統領を暗殺してやるぜみたいな極端なことにもなったりします。何か書いていて人ごととは思えなくなりそうですが、それはともかく、しかしこの映画は駄目人間の映画ではなくて老人の映画です。プライドが高いだけじゃない。知的で優しいんです。どちらかというとそっち側をより強調しています。ハートウォーミングなう。

話は変わりますが邦題「人生に乾杯」はいけません。ポエミーな邦題シリーズなわけですが、あまりにもこっ恥ずかしすぎる。照れます。痛すぎます。原題は「KONYEC」ですね。はて。なんて意味でしょう。「人生に乾杯」でないことだけは確かです。
大体、若造が知ったような顔で老人を理想の姿の中に押し込むのは好ましくありません。
駄目な老人映画というのは、老人を若者目線でしか脚色、演出できない作品です。そういうのわりと多いです。
この「人生に乾杯」も、ちょっと危ういんですけど、まあ、気高くてプライド高くてわがままで駄目人間というふうに多角的に老人を描いている点でギリギリセーフです。
軽いタッチの作品ですから、少々の無茶はOKでしょう。

話を戻しまして、夫は決意して、よーし。いっちょ←もうやめろ
はい。すいません。
そうです。銀行強盗やっちまいます。なかなか、かっこいいシーンです。老人の犯罪。絵になりますよね。

 

主人公の老夫婦に対応する形で、若いカップルが登場します。
こちらも彼氏が駄目人間の駄目刑事、彼女はしっかりさんでやっぱり刑事さんです。この若いバカップルと老夫婦がどのように絡むのか、犯罪を犯した夫はどうなっていくのか、それはみなさま、見てのお楽しみですよ。でも大体ご想像通りだと思います。即ち、「ハートフル社会派愛情コミカル泣き笑いスリリング絆もありのラストでぎょ。おいおい。でもつっこむのは野暮ですよ」の展開でございます。これネタバレ?
いいんです。程よく抑制がきいていて、くだらない映画にはなっていません。それは私が保証します。
この映画、好きですよ。これはどなたでも楽しめるでしょう。

日本のみんなも、国に人生を潰されそうになったら落ち込む前に犯罪に走りましょう。

2010.05.28

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