イノセント・ボイス 12歳の戦場

Voces Inocentes
イノセント・ボイス 12歳の戦場
公開年:
2004
製作国:
監督:
脚本:
原案:
撮影:
  • ファン・ルイス・アンチア
音楽:
  • アンドレ・アブハムラ
主演:
  • カルロス・パディジャ
出演:

内戦下にあるエルサルバドル、戦場と化している小さな村を舞台に、12歳になると徴兵される少年チャバの身に降りかかる過酷な現実。実話ベースの物語。戦争と恐怖と貧しい村の日常と非日常。

イノセント・ボイス 12歳の戦場

どろどろの道を兵隊にこつかれて連行される少年たち。「もう死ぬのだな」と覚悟をしているようにも見えるし、怖くて怖くて仕方がないようにも見えます。そんなショッキングな冒頭から「イノセント・ボイス」は始まります。

エルサルバドルの内戦については詳しく描かず、局地戦の舞台となる小さく貧しい村の住民たちを中心に描きます。少年チャバのちびっ子映画でもあります。
よくあるちびっ子戦争映画のような、戦争と無関係な子供が巻き込まれる悲劇だけを描いた映画ではなく、子供たちがもっと戦争に直接関わります。「イノセント・ボイス」が描いた戦争は、直接の戦闘行為や戦争の原因といった事柄ではなく、ズバリ徴兵制です。

子供たちは、12歳になると徴兵されます。学校に兵隊がやってきて連れ去るんです。
子供たちは12歳になることを心の底から畏れています。戦争も怖いが徴兵がもっと怖いのです。この恐怖は小松左京の「お召し」に近い恐怖です。徴兵はまるで人さらいや人消しのように受け取られています。理不尽極まりない出来事です。自分は消されるという思いです。また同時に、ちゃんとリアルに兵隊になることの恐怖もあります。兵隊は人を殺す。徴兵されれば洗脳され自分も人を殺す。その恐怖です。「お召し」と同時に「ゾンビ」の恐怖にも近いのです。12歳になるとゾンビの世界に連れ去られ自分もゾンビになってしまうのです。

年端もいかぬ少年が戦争に怯え、徴兵に恐怖し、また馴染んでいく姿が痛ましい映画です。ですが真面目なだけの映画ではありません。
この映画の魅力は細部に宿っています。少年チャバやそのお友達や家族や住民たち、悲惨な暮らしですが悲惨なだけの暮らしを強調しません。そこには日常があり楽しいこともあります。なんとファンタジーの印象すら受けるのです。つまりそのファンタジー感こそが子供の目線による故郷エルサルバドルの日常です。
この映画のいいところはそこです。

貧しいし戦闘はあるし人は死ぬし徴兵制はあるし、たしかにメタメタです。でもおならのお姉ちゃんやバスの運転手、いろんな人々の個性が少年を力づけます。また兵隊から逃げた子供たちが屋根に上り息を殺してほとぼりが去るのを待ちますが、その時に星を数えたりします。「10万まで数えた」とかでたらめも言います。
過酷な現実とファンタジーの心が完全に同居しています。
そしてだからこそ、観ているこちらはその不憫さにコテンパンにやられるのです。

さてエルサルバドルの内戦といえばオリバー・ストーンの「サルバドル」をどうしても思い出します。この内戦について「イノセント・ボイス」では深く語りません。政府軍とゲリラたちがいますが当然ながらアメリカが後ろで糸を引いています。というかむしろ原因そのものと言ってもいいくらいです。でもそんな話は少年にとっては判らない話です。でも観ている大人たちにはわかります。だからこそ野蛮な殺戮を観ながら、こちらは身が凍るのです。

神父さんが出てきます。徳を説くだけでは我慢ならなくなってきます。彼の心境を思うとまた身をよじります。

少年チャバの恋心のエピソードがあります。少年少女の恋というのは、これはもう永遠のピュア、誰しもが心に沁みる大人キラーなテーマだったりします。このエピソードは辛すぎて死にます。

母親がとてもいいです。父親がどこかに行ってしまったため、少年チャバに「お前が私たちを守っておくれ」と言います。強い母は少年をより強くするんです。このかーちゃん良すぎて胸が張り裂けます。
母親ケラを演じた素晴らしい女優はレオノア・バレラという人で、他の作品知らないなあと思っていたら「サイレント・ウェイ」に出てるんですと。なんということ。全然印象違う映画でんがな。

少年たちがいろいろ出てきますが彼らもそれぞれユニークな面々です。目立たないところでとてもいい味を出したりしています。いろんな細部の描写が光っており、ただ筋を追うだけの作品ではありません。細部に命を吹き込む描写にあふれていて、メキシコ出身でハリウッドの普通の映画なんかを撮ってるルイス・マンドーキ監督の力の入れようも感じ取れます。この監督の映画は「コール」しか知りませんが、そういえば「コール」も細部の人間の描き方がユニークでとても面白かったのを覚えています。メキシコの血がそうさせるのかどうなのか、どうなんでしょう、知りませんけど。

少年チャバを演じたのはカルロス・パディジャという少年で、この子がまあ、無茶苦茶にいい感じ。すごい演技します。こんな子をよく見つけてきたなと感心します。

Voces inocentes
画像:IMDb

少年チャバは賢く、たくましく、想像力と知性があります。過酷な状況下、観ているこちらは心配で不憫で悶絶しまくりますが、この映画のオチのネタバレを言ってしまおうかどうしようか、これつまりですね、この話、実話なんですけど、誰の実話かと言いますと、少年チャバの実話なんです。チャバは生き抜いているんです。生き抜いてどうしたかというと、彼は14歳でアメリカに亡命します。そしてただ亡命しただけにとどまらず、映画の中で見せた行動力を発揮して、最終的にはこれこのとおり、映画の原案と脚本を書いてしまったんですねえ。すごいぜチャバ。というか、名前はチャバではなくて本作の脚本と原案にクレジットされているオスカー・トレスその人です。
いや、すごいです、この彼は。根性あります。もう手遅れですが見習いたかった、この行動力を。

で、まあそういうわけで脚本のオスカー・トレスが自身の少年時代と向き合って書いたという、力の入った作品です。本人にとって、この記憶は辛すぎていろいろ忘れていたりしたそうです。でもどんどん思いだし、描き加えていったそうですね。思い出すこと自体が辛かったらしいです。

この2004年の映画は日本では2006年に公開していたそうで、話題にもなっていたようです。公開時に知らなくても、こうして後で観ることが出来るのはありがたいことです。
エルサルバドルの日常や子供たちや戦争や徴兵を描いたとても良い映画、できることならお茶の間のみんなに観てほしい「イノセント・ボイス 12歳の戦場」でした。

どこぞの狂人国家のボケ茄子国民の一部が戦争や徴兵制を望んでいるというような話も聞きますが、想像力と知性に劣る平和ボケの戦争渇望論者どもは「イノセント・ボイス」を観て少年チャバに人生を教えて貰えとマジ思うのです。

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