スキャナー・ダークリー

A Scanner Darkly
フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」を原作としたアニメーション映画。ただのアニメーションではなく、俳優が演じた映像を一コマ一コマ丁寧にトレースするという風変わりな作風。リアルと非リアルの妙な融合が麻薬にまつわる内容とマッチしております。
スキャナー・ダークリー

内容は、社会に根深く浸透している物質Dという麻薬と、その潜入捜査官のお話です。麻薬退治のために常用者のお仲間となり潜入捜査していますが捜査のために麻薬を使用する羽目にもなりまして、自ら物質Dに取り込まれていきます。

ディックもジャンキーだったころがあるそうで、麻薬で身を滅ぼした友人たちに追悼する意図があったりするのだとか。

麻薬と捜査官の話ですからスリラー展開をしますし、覆面捜査官の覆面がまさにSF覆面だったりして一見真っ当なSFですが、単にサスペンスフルなSFというだけではなく、不条理で病的な世界が垣間見れます。痛々しかったり暗い雰囲気に包まれてたりします。
そしてスリラー展開そのものよりも、ジャンキーたちの日常の面白さや捜査官個人の壊れていく様を描くことを重要視しているように見えます。

原作の持ち味を尊重して作られた映画だと思います。
ディックの映画は、映画的に派手な部分を強調した作りのものが多くて、原作が持つ病的な世界の不条理感をメインに打ち出すことがあまりありません。有名で伝説扱いなアレにしても、原作の電気羊が好きなもので、最初に観たときはたいそうがっかりしたものでした(当時はね。今ではそれもありかもねー、と思ってますけど)

「スキャナー・ダークリー」ではスリラー展開もいい感じですが、そうでなく序盤にだらだら出てくるジャンキーたちの面白い会話こそ見どころとなっております。
描かねばならない話がたくさんあるので量は少なめですが、ジャンキーたちのだらだらした部分はとても重要です。

さてアニメです。
この映画、キアヌ・リーヴス、ウィノナ・ライダー、ロバート・ダウニー・Jrにウディ・ハレルソンなど蒼々たる出演者が実際に演技をしています。アニメ化する前段階で映画としてすでに完成度の高い映像が撮れている筈なんですよね。にも関わらずそれで完成品とせずに、一コマ一コマ丁寧にトレースしアニメーションにしました。
アニメーターたちによる手作業がとんでもない仕事量だったことが窺えます。

面白い試みではあります。リアルでいてアニメ。不思議なリアリティに満ちています。不思議な非リアリティにも満ちています。映画の内容とマッチしてて、技法だけ取って付けたようなアイデアものって印象ではありません。だから嫌味な感じはまったくありません。

でも一般的にこの絵柄は「濃すぎてしんどい」と思われるかもしれませんね。確かにすんごく濃いです。もし尺の長い映画だったら気分が悪くなるかもしれません。

この技法を試みたことはとても評価します。でもこの技法がその労力に見合う素晴らしい技法かどうかは判断できません。

監督のリチャード・リンクレイター作品は他に「スクール・オブ・ロック」と「ファーストフード・ネイション」を観ましたがどちらも全然違う技法で、いろんな撮り方が出来るプロフェッショナルなのだなあと思いました。

「スキャナー・ダークリー」の存在をFRAGILEさんのSF映画ベストテンで知りました。ちなみにこの記事のベストテンはちょっと笑えます。ザルドスとか入れてるし猿の惑星は征服だし銀河ヒッチハイク1位だし。もちろん銀河ヒッチハイクはぶっちぎりの名作ですけどね。

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