イノセント・ガーデン

Stoker
父親を亡くした直後に現れる異国帰りの叔父に惹かれる少女と母親。異彩ミア・ワシコウスカ演じる秘めた謎少女のサイコサスペンス仕立て少女小説ミステリー。監督には「オールド・ボーイ」パク・チャヌクが抜擢。怪しさ満開の「イノセント・ガーデン」
イノセント・ガーデン

何か面白そう、と思わずにおれない「イノセント・ガーデン」は「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」のパク・チャヌクが監督。

最愛の父を亡くしてショック状態の娘の前に現れる父親のイケメン弟つまり叔父さん。なんかヤバいやつっぽいです。母親ともデレデレします。

やばい男のサイコサスペンスに加えて、思春期少女の揺れる心と淡い恋心と秘めたエロティシズムと隠れた残虐性の融合、大きなお屋敷も出てきてゴシックホラーのテイストもありで、残虐系スリラーも期待できそうで、ちらっとだけ見た予告編の映像美もよろしくて、厭が応にも期待値がふくれあがります。

というわけで同じ話を何度も何度もしますがこの期待値というのが曲者で、高ければ高いほど、実際に映画を観てしまうとマイナスに作用することが多いという、そういう危険な心の動きです。期待値が0だった場合、観た映画の面白さが50点だとすると50点の面白さを感じますが、期待値が100だった場合、観た映画の面白さが80点くらいなら-20点のマイナス評価を感想として持ってしまったりします。
「期待せずに観たらおもろかったー」「めたくそ期待して観たら期待を裏切られたー」と、それだけの話ですわな。

で、「イノセント・ガーデン」は旬のときに見逃したせいもあって、高い期待値のまま引きずってしまいましてね、それでまあ、その、観た後は案の定「こんな程度であったか」と思ってしまってわんわんわわん。いえ、これは映画のせいでも出来映えのせいでもなく、ひとえに勝手に期待しすぎて盛り上がりすぎたわたしどものせいであります。

「イノセント・ガーデン」は面白い脚本なんですがちょっとマンガみたいなところもありまして、少女の心系に関してよく出来ている分、他のいろんな部分に詰めの甘い処理が垣間見れたりします。母親の描き方やその他いろいろ、ちょっと観念的といいますかイメージだけの処理といいますか、マンガっぽい単純化が目立ちます。

「オールド・ボーイ」がめためたにおもろかったので超期待していたわけですが、よくよく考えてみれば「オールド・ボーイ」もとってもマンガ的です。というかオリジナルが漫画だからあたりまえですが、この時は「漫画っぽい」ことに不満があるどころが、とても効果的にマンガ的だったわけです。

で、あるからして「イノセント・ガーデン」がマンガっぽいなどという否定的感想はこれはおかしな話です。いちゃもんと言ってもいいくらいです。はい反省します。でも思ってしまったものは仕方ない。

漫画っぽいというのはまた別の今風のネット風の言い方では「中二っぽい」ということもできます。
わりとネットスラングは嫌いなんですが「中二病」という言葉を初めて聞いたときには言い得て妙だと感心したものです。そんでもって、簡単に物事をバッサリ否定するときには便利な言葉なんですね。ばっさりですからとても悪い言葉なので使わないのにこしたことはないのですが。でもついね、うっかり「中二っぽいな」と思ってしまってわんわんわわん。単なる感想とはいえ、これは失礼すぎます。反省します。でも思ってしまったものは仕方ない。

さて反省しながらもうちょっとネガティブな感想が続きますが、極めつけはこれです。最後のほう、ミステリー映画としての必須クライマックスであるところの謎解きシーンがあります。これまでのいろんな謎を解明するシーンですが、普通のミステリーだと探偵がみんなの前で解説します。SAWだったらカッコいい音楽に乗ってフラッシュバックのようにだだだだーっと現れます。
よくないドラマはどうするかというと、その1犯人が観客のために丁寧に解説します。その2その内容を再現フィルムのように普通のシーンとして挿入します。その3これまでの物語を観ていれば大方判ってしまっているのに、同じことを説明描写したりします。

判りやすくするための大変親切な作りなのですが、そこまで手取り足取り懇切丁寧に想像力を奪わなくてもええやろが、と思うこともしばしば。

こういった説明や解説のシーンがくどければくどいほど、ターゲットとする観客レベルを低く見ているということが明確になります。
わざと何も説明しない思わせぶりなだけのアカンタレ映画もたまにありますが、解説しすぎで客を馬鹿にしとんのかというのもちょっと醒めます。

しかしそのレベルの判断は制作者たちの考えに基づくものでありまして、観る人がそこからちょっと外れているからと言って文句をいうのはこれもどうかと思います。誰も彼もがぴったりくるなんてあり得ませんし、自分の好みだけで評価の尺度を勝手に狭めて勝手にがっかりするという、そういう感想を持ってしまうこと自体なんだかあほみたいです。そういうわけでまたしてもちょっと反省します。

さてさて、しかし心配ご無用、この謎解きシーンが「イノセント・ガーデン」のすべてのクライマックスではありません。謎解きました、はいおわり、ではありません。謎解きミステリーなんぞはこの映画のテーマの中で一部の要素でしかありません。

さてそうはいうもののいい要素ももちろんしっかりあります。ここから褒めますが、その面白い要素とは、本作の最大の見どころであるところの、少女小説的ミステリースリラーの少女本人の部分です。

少女のゆらゆら揺れ加減は少々のデフォルメと相まって見応えあるものとなっています。シナリオ的にも力の入っている部分、そして役者的にも上手くいった部分です。

この怪しい少女を演じきったのは、うら若き怪女優ミア・ワシコウスカであります。個性派女優です。

私は「ジェーン・エア」ですごく感心したんですが、世間的には「ジェーン・エア」より「アリス・イン・ワンダーランド」で有名みたいです。
「うら若き」なんて書きましたがそれは嘘で、それほど若いわけではありません。もう大人です。でもなんか若い役が似合うのですね。

この人の目の力はすごいのでして、魔力が潜んでいます。「イノセント・ガーデン」のこの役も、下手すれば効果半減の単なる中二映画になりそうなところを、女優力でぐーっとこうね、下から支えて持ち上げています。

という感じで、この主人公少女による冒頭の独白、それと強烈ひゃっほーなラストシーンがいい感じに仕上がっていて、そのために映画全体をわりといい印象が包み込みます。

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