戦場でワルツを

ואלס עם באשיר
戦場でワルツを

アリ・フォルマン監督によるレバノン戦争を題材にしたアニメーション・ドキュメンタリー。

戦場でワルツを

「バシールとワルツ」ですね。
さてジャンル困った。これは監督によるドキュメンタリー映画で、ただし技法はCGアニメーションです。ただのドキュメンタリーではなくて、随所に戦時の再現フィルム(再現アニメ?)が入っているから、実話もの、ノンフィクションとも言えます。そういうときには全部含めちゃいましょうか。タグと変わらないですけど。

本編ですが、レバノン戦争です。監督はまだ若く、当時の記憶があまりない。よし自分と社会を知る旅に出かけよう。ということで古い友人たちを訪ね歩きます。サスペンスフルな進行です。徐々に蘇る記憶。加害者の生々しい苦痛。

似た技法の「ゆきゆきて神軍」をまっさきに思い出す人もいるでしょう。破壊的孤高の名作と比較するのは酷というものだし、技法は似ていていも内容は違いますからそれは置いときましょう。

映画の中で監督は明確に反戦を掲げるわけでも、イスラエルの悪徳を糾弾するわけでも、パレスチナ問題を深く突き詰めるわけでもありません。ましてやイデオロギーや良心について触れているわけでもありません。あくまでも戦争時の個人史にテーマを絞っています。この映画を作るのに9年かかったらしい。アニメ絵で淡々としているから監督の苦悩はあまり観客には伝わらないかもしれませんが、大変な苦痛を伴う取材だったのだろうと想像できます。
記憶が蘇ってすっきりしたよ!っていう映画ではぜんぜんないのです。ラストまで観ると、重くのしかかる得体の知れない不安感や後ろめたさがあなたや私に残ります。戦時を忘れてしまった監督と同じく、我々だって皆忘れてしまっているのです。

被害者側からの視点がない、と頓珍漢な批判をしている人もいますが、監督は「それはイスラエル人のやれる仕事ではない」と言っています。加害者がいくらがんばっても被害者の視点で作品が作れるわけないじゃありませんか。逆に受け取ると、アラブ人が自ら声を上げるべき事柄だといっているようにも感じます。そして実際に、この映画はアラブ人にも好評らしいです。
映画内では語っていなくても、この監督は他の場所で明確に「反戦」を口にしています。
悪の枢軸国イスラエルにもアーティストはいるのですね。

映画的にはやはり戦場シーンが凄いことになっています。写真から作ったようなリアルなCGが、アニメーションならではの嘘くさい映像の中に驚くほどの現実感を与えています。
中東問題をあまり知らない若い子たちも、この凄いアニメのシーンだけを目的にして観るのもいいでしょう。見終わってから、中東の問題に興味を持ち始めるかもしれませんしね。

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