天才マックスの世界

Rushmore
ウェス・アンダーソン監督の1998年の長編二作目「天才マックスの世界」は、ラッシュモア校に通う個性的な15歳少年の仕事と恋と友情の立ち回り物語。遡ってこれ見てみました。
天才マックスの世界

名門私立のラッシュモア校に通うマックスは小学2年生の時に書いた脚本が校長に認められ奨学生として入学しました。実現不能な数の課外活動に勤しみ、博学で賢くカリスマ性があり饒舌ですが学力が伴わず落第の危機にあるという設定です。
その彼の天才的立ち回りの中で名門校の出資者と仲良くなり、それから未亡人の女教師に惚れます。

基本的に恋と友情の簡単な青春ドラマですが、マックス君はじめ登場人物のたまらない魅力と、知性と間抜けに彩られた物語でもってこの映画はユニークさに満ちています。

ウェス・アンダーソンの人気が爆発した作品だそうで、確かに、今の作風とまったく同じ感じですね。この頃にはすでに確立していたんですね。最近の「ムーンライズ・キングダム」に共通する部分もたくさんありました。
98年がそれほど昔と思ってませんが、15年前の作品とは思えぬ斬新さ面白さです。

面白さその1は登場人物の魅力ですね。
例えばマックス君はどういう奴でしょう。こんなタイプはこれまでの映画で設定されたことがありそうでない人物です。
賢く知性的で生意気で純粋ピュアです。オタクというわけでもないけど拘り症であらゆる興味の対象を自分に取り込みます。いじめられっ子でも駄目なやつでもありません。常にリーダーシップを取るし一目置かれるし自信家です。けど勉強が出来ずに落ちこぼれでもあります。乱暴者には殴られるだけのか弱さも持ってます。メガネをかけて真面目そうだけど気に入らないことがあってからの咥えタバコの姿はなかなかイカしてます。
つまり、この手の主人公少年にありがちな典型から完全に脱却しています。

マックスを演じたジェイソン・シュワルツマンはフランシス・フォード・コッポラの甥っ子なんだとか。

大きな工場の経営者ハーマン(ビル・マーレイ)も大変よいです。大人なのにマックスと親友となり、また、三角関係のもつれから酷い争いにもなったりします。ビル・マーレイの後の味わい深さの方向性を決定づけた作品なのかもしれませんね。

未亡人のクロス先生(オリヴィア・ウィリアムズ)もただのヒロインではなくて、特に元夫というのが曲者で、その曲者を愛している変な女性なわけです。養蜂の件などでさりげなく変なところを強調します。
この映画でのオリヴィア・ウィリアムズはレオノール・ワトリングとそっくりですね。

マックスの相棒ダークのキャラクターが光り輝いています。ダークめっちゃおもろい。こいつ最高。
後半の、マックスとダークが凧揚げするあたりの面白さは格別です。

その他、理髪店の父ちゃん(シーモア・カッセル)も校長先生(ブライアン・コックス)もみんなよいです。

面白さその2はストーリーテリングと会話の妙です。
ウェス・アンダーソン作品を観て感じるのは、英国映画っぽいシニカルさやナンセンス加減や可愛らしさ、そして北欧映画っぽい間と会話のテンポや笑いのセンスです。かつての名匠たちが作る絵面や構図も映像の組み立て方から感じ取れます。そして何より一番よく似ているなと思うのはジム・ジャームッシュ作品です。
例えば音楽のあり方や映画におけるストーリーの立ち位置、それからとぼけたお話やにんまり笑える細部なんかに共通点を感じます。

人を食ったような、虚構を強く強調したような、そんな物語を作ります。細かいところがとても面白い脚本です。細かい部分を見逃したり大事じゃないと感じるような人には難しいところがあるのかもしれません。悪く言えば斜に構えて知性派ぶったサブカル調ですか。よく言えばヨーロッパテイストに裏打ちされた優れた映画技法を実践する作風ですね。私はもちろん後者だと感じています。

今作ではザ・フーなど英国のロックが選曲されています。「ダージリン急行」のラストでかかる「オー・シャンゼリゼ」と同じように、「最後でこの曲持ってくるか〜」っていう、かなりのハイセンス加減を味わうことが出来ます。

というわけでたいそう面白かった1998年の「天才マックスの世界」でした。

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