メゾン ある娼館の記憶

L'Apollonide
メゾン ある娼館の記憶
公開年:
2011
製作国:
監督:
製作:
脚本:
撮影:
  • ジョゼ・デエー
音楽:
美術:
  • アラン・グフロワ
主演:
出演:

19世紀末から20世紀初頭にかけて、パリの高級娼館アポロニドの娼婦たちを描きます。優雅で背徳的、そして美しくて洒落たフランス映画。でも何かが重くのし掛かります。

メゾン ある娼館の記憶

この映画をなぜ見ようと思ったのかというと、単にアフシア・エルジが出てるからでした。「クスクス粒の秘密」でびっくりしたので「この女優の他の作品ないんかい」とあたふた探したらこれがあったというわけです。

高級娼館アポロニドを描きます。アポロニドとその経営者、住み込みで働く娼婦たちです。19世紀末から20世紀の初頭にかけてのお話です。高級娼館などというものが姿を消してしまう直前の時代です。パリに地下鉄が開通する頃までの時代です。この時代はパリにとって特別です。否、パリだけでなく美術や文化にとっても重要な時代ですね。華やかで優雅で退廃的で、新しい芸術運動や新しい科学、いかがわしい美術や科学もありました。いろんなものがぎゅっと詰め込まれた世紀末から新世紀初頭です。その時代のパリの、暗部と言っていいのかどうか、娼館と娼婦を描きます。娼館と娼婦だけを描きます。ほぼ娼館の中だけを描きます。

この映画、美術が凝ってます。大変凝ってます。美術だけでなく、衣装、建物、それらを収めるカメラ、構図、そういうのがずば抜けてましてね、たいへんな映像美の映画となってます。世紀末の高級娼館ですからね、ネタの宝庫、ドレスから下着から建物の装飾から何から何まで、絵に描いたような美しさです。ファッション雑誌のような美しさです。グラフィカル何たらかんたらです。そしてさらに映画的にはこれに時代がちょっとズレた激しい音楽が重なりましてね、映画で描く時代は世紀末から新世紀初頭ですが映画的音楽的には60年代から70年代初頭テイストです。もうね、得も言われぬカッコ良さです。カッコ良くて洒落ています。ほんとお洒落。ほんとおフランス。
冒頭のタイトルバックからしてすごいんです。女優たちの白黒写真とフランス映画らしい赤の太ゴシック文字と音楽の弾けるカッコ良さで思わず「おおっ」と身を乗り出します。

話の内容も洒落た映像美に負けない渋い仕上がりです。娼婦たちの日常的な会話を淡々と捉えたり、客をもてなすシーンがさりげなく続いたり、かと思えば観るものがのけぞり椅子からずり落ちる衝撃を与えたり、決して軽薄になることなく、難解な文芸作品をきちんと掲載する硬派ファション雑誌の如くきっちりやり遂げます。ファッションとか洒落てるとか言ってますが決して茶化してるわけではありませんよ。

細かいシーンの美的凝りようったらありません。例えばヌードひとつとっても、その描き方に感心します。非常に美しいです。この美しさはファッション雑誌的美しさでなく、もっと生々しい19世紀美術作品の美しさです。完成された肉体の美しさではないんです。娼婦が持つ独特の肉体、ふくよかさであったり逆にあばらの出たギスギスさであったりもします。古典美術やルネサンスに求められた姿ではなく、退廃世界の生々しいエロティシズムのオーラを放つ美です。

娼館には多くの美術作品が飾られています。大抵は裸婦が描かれています。もともと美術における裸婦なんてのは半分はエロ目的です。エロティシズムをアートに昇華するとか何とかいろいろありますけど基本エロであるからして、例えば間抜けなテーゼ「猥褻か美か」なんてのがありますがほんとナンセンス、猥褻そのものが美になってるんだからどちらか一方なんてのはありません。

という話はともかく「メゾン ある娼館の記憶」ですが、いろいろと好物なテーマも内包しています。その一つがノスタルジーです。
娼館のなじみ客が言いますね。「パリにメトロが開通したので見たがありゃひどいもんだ。パリを地下の鉄道で移動するなんてもう終わってるね」
いいですね。彼らの愛したパリには地下鉄なんか要りません。彼らは時代に取り残されふるいにかけられ滅びる人たちです。常連客も、もちろん娼館と娼婦たちもそうです。
この映画ではほとんど娼館だけを描きます。ここは閉じた世界です。パリや世界の激動などまったく無関係の世界です。ゆえに時代の波に取り残されています。娼館は時間が止まった別の世界にある孤立した存在で、前世紀の優雅な記憶だけを栄養にして存在しています。いわばノスタルジーの具現化でもあります。

娼館で語られる娼婦たちの日常にものめり込みますが、現代の映画らしく全く別のテーマも含ませます。とりわけ印象深いシーンは、ある論文を読むシーンです。
娼館の客は金持ちやインテリですから、最新の論文についての話題も出てきます。興味を持った娼婦がその論文を借りて読むんですけど、その内容がまあなんと言いますが論文らしい出鱈目さに満ちた昔懐かしのトンデモ系で、犯罪者と娼婦の外的要因の共通点についての論文です。まるで核の平和利用ぐらい馬鹿馬鹿しい論文です。読む娼婦はアフシア・エルジです。そうそう、アフシア・エルジですが、もっとちょい役かと思ってたんですが重要な役での出演でした。この映画は誰かひとりじゃなくて娼婦たち何人かが主人公になっていて、その主人公たちのひとりでしたよ。
で、アフシア・エルジが論文を読むシーン、いいシーンだったのでどんなシーンなのかは秘密にしておきますが、こういった大事なシーンをしっかり織り込みます。ラストシーンにも繋がりますね。笑い女、少女ポーリーン、経営者マリー・フランスとこどもたち、よくよく見てみれば映像美や世紀末退廃世界感の影で実はしっかりと女性のための現代的なテーマで脚本が出来ているということがわかります。

というわけで娼館アポロニド「メゾンある娼館の記憶」でした。とにかく美しい映画でした。そしてさほどのことはないと思って見終わったのになぜかずっしり来てしまいました。

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