V/H/S シンドローム

V/H/S
POVの技法を用いた若手ホラー監督たちの競作。メインストーリーの中で次々に再生されるVHSテープの短編というユニークな方式の本作はオムニバスというよりアンソロジーの装い。若さと勢いに満ちた監督たちの力作。
V/H/S シンドローム

「V/H/S」の内容は全部POVです。カメラの一人称ですね。ただの一人称カメラじゃありません。VHSの名の通り、ビデオテープって設定ですからビデオ画質の低品質映像も天こ盛りです。テープのノイズや編集ミスみたいなエフェクトも多用します。しかもそのビデオテープを撮ったのが怪しい連中ばかりという設定なので素人ビデオのように画面が揺れまくります。
ビデオカメラで撮ったビデオテープというリアリティ重視映像ですので、当然ながらこの映画、始めから終わりまで画像が動き回ります。酔う人はご注意を。でもこのPOV酔いが気持ちいいのよね〜。

POVと言えばホラーかスリラーと相場が決まっております。もうすでにたっぷりPOVの面白い映画もありますし、何を今更とお思いになるでしょう。私も思ってました。でもね「V/H/S」これね、いいんですよ。

若手監督たちの勢いと情熱とパワーにみなぎっております。つまらないのもありますが天才性を発揮しているのもあります。また、アダム・ウィンガードなんてのはすでに「ビューティフル・ダイ」と「サプライズ」という傑作を生んでいる才人でありまして、無名の若手として一括りにできないこういう人も参加しています。その彼がが全体をビシっと締めています。

「V/H/S」の構成はちょっと凝っています。
全体を貫くお話というのがありまして、それはこんなのです。
やんちゃな兄ちゃんたちがあるお家のビデオテープをたくさんコレクションしている部屋に入り込みます。「なんだろうこのビデオテープは。ちょっと見てみようか」と再生するんですね。
そこで再生されるのが、なんだか不吉で謎な怖い映像です。これが各監督が作った短編となります。
一本見たら次、次を見たらまた次、とビデオテープを再生していきます。これがメインのストーリーで、アダム・ウィンガードが監督している大事なパートです。

という構成と設定で監督たちが創意工夫しているわけで、一応一本ずつちゃんと書き残しておきます。

Tape56

 監督:アダム・ウィンガード
脚本:サイモン・バレット
出演:カルヴィン・リーダー, レイン・ヒューズ, ケンタッカー・オードリー, アダム・ウィンガード

ビデオテープを次々に見ていくメインのストーリー。やんちゃで犯罪者的な兄ちゃんたちのグループです。悪さばっかしてまして、この連中が家に忍び込んでビデオを一本ずつ見ていくんです。見ているうちにだんだんと・・・。みたいな話で、短編と短編を繋ぐ幕間的な要素もあります。

VHS

AMATEUR NIGHT

 監督:デヴィッド・ブルックナー
脚本:デヴィッド・ブルックナー, ニコラス・テコスキー
出演:ハンナ・フィアマン,マイク・ドンラン, ジョー・サイクス, ドリュー・ソウヤー

いきなり女の子をナンパする話でして、冒頭のお話と代わり映えしないアホ連中が出てくるので区別が付きにくいという紛らわしさもあります。その繋ぎ方は結果的にはいいと思いました。この短編はわりとあっと驚く展開をするんでして「わおーっ。なんだこりゃーっ」と随分楽しめました。ただPOV設定が無理矢理だったり、まあ言ってみればアホみたいな話でありまして、それはそれでとてもいいんですが、このあとの短編が全部こんなのだったら厭だなとちょっと思いましたけど。

VHS

SECOND HONEYMOON

 監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト
出演:ジョー・スワンバーグ, ソフィア・タカール, ケイト・リン・シャイル

見てるときはもちろん誰がどの短編を監督したのかはわかりません。あとで確認して初めて知ります。これはタイ・ウェストが監督していたカップルの旅行のお話です。
これいいですね。私はこれが一番気に入りました。荒唐無稽な1本目と全然違ってスリラー系統です。怖いしドキドキするし、かなりいいです。オチはちょっと唐突ですが、旅行してるシーンやカップルの会話など、細かなところとても良くてですね、「サプライズ」でタイ・ウェストが演じたアート寄りの貧乏監督っていう、まさにやっぱりそういう人なんですかね。こういう作風で伸びてくれればいいなと思ってます。

VHS

TUESDAY THE 17TH

 監督:グレン・マクエイド
脚本:グレン・マクエイド
出演:ノーマ・C・クィノンズ, ドリュー・モーライン, グレン・マクエイド

「17日の火曜日」ですか。パロディみたいなタイトルついてますが、もちろん映画を見ているときは短編にタイトルなんかありません。あとで確認したらそう書いてあったから知ります。
森のスプラッタ劇場です。なかなかいい感じで前半が進み、ある時点からスッコーンとはち切れてドシャメシャになりますね。若さがみなぎってます。まあ、しょうがないですよね、微笑ましいです。

THE SICK THING THAT HAPPENED TO EMILY WHEN SHE WAS YOUNGE

 監督:ジョー・スワンバーグ
脚本:サイモン・バレット
出演:ヘレン・ロジャーズ, ダニエル・カウフマン

ジョー・スワンバーグは俳優としてこれまで見ていましたが(Second Honeymoonの彼)こちら監督作品です。
POV設定はコンピュータのビデオチャット。「怪現象が起きてるの」と彼氏に相談する女の子のお話です。これはいいですね。ビデオチャットでの相談回数を追うごとに怖いことになってきます。いろんな意味で斬新だし、いい進行ではないでしょうか。
ただちょっとお仕舞いのほうはやり過ぎ感に満ちています。あぁ、せっかくの渋い設定と良い進行がやはりハチャメチャ方面に・・・。この節操のなさこそ若さの証。何でも好きなようにやるがよい。なんでもこい。どんとこい。

VHS scene

10/31/98

 監督:レイディオ・サイレンス
脚本:レイディオ・サイレンス
出演:チャド・ヴィレラ, マット・ベティネッリ=オルピン, タイラー・ジレット, ジャスティン・マルティネス

レイディオ・サイレンスというのはグループ名のようです。そのメンバーは出演している四人。みんなで楽しく撮りました。
兄ちゃんたちが人の家に侵入する話です。空き家かと思ったら怪しく怖い連中が何やら儀式めいたことを。てな話ですが、これは前半の怖い屋敷系から後半のハチャメチャ展開になる若さ系にちょっと飽きが来はじめていたせいであまり乗れませんでした。

VHS

というような作品群であります。ひとつひとつはまあ大したことないと言えば大したことありません。でも面白いんです。
「V/H/S」がヒットして高評価だったものだから、続けざまに第二弾、第三弾が作られました。最近全部見終わったんで大急ぎでまず1本めのこれから感想書きました。感想は簡単なんですけどクレジットの名前を調べて入力するのが大変でした。いつものようにAllcinemaとIMDbにお世話になりっぱなしで。

私の若い頃は楽器が安く手にはいるようになったのでみんなこぞってバンドを始めたりしておりました。その頃も個人的には音楽より映画が好きだったんで夢は映画の世界に行くことでしたが、自主映画作るには高額な機材が必要なので金持ちの子しかできません。ハナから諦めてました。今では簡単に動画が撮れて編集もできます。やる気と根性があれば金持ちの子じゃなくても映画を撮れます。たいへん羨ましい時代です。

おもろないとか素人臭いとかカス映画とか、そんな世間の無責任な批判は気に留めず、一心不乱に映画を撮り続けてください。

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