恐怖ノ黒電話

The Caller
「恐怖ノ黒電話」は越してきたアパートで謎の電話に大変迷惑する女性の物語。「ドット・ジ・アイ」のマシュー・パークヒル監督によるソリッド・シチュエーション・黒電話・ホラー系○○(伏せ字)の奇作。
恐怖ノ黒電話

邦題の頭に「恐怖ノ」と付けた最初の作品でしょうか。多分、このときには「恐怖ノ」をシリーズみたいにするつもりはなかったのではないだろうか、と勘ぐってます。というのも「THe Caller」の邦題としては「恐怖ノ黒電話」って内容から見てもわりと外してないと感じるからです。それにこの映画の監督は新人でも若手でもありませんし、後の二本とは毛色が違ってて。真相は知りませんけど。

翌年には「恐怖ノ黒洋館」翌々年には「恐怖ノ黒鉄扉」と悪のりした邦題を続けています。ちなみに、最新(2015年のシッチェス映画祭セレクション)では「恐怖ノ白魔人」という、はい白きました。そういう邦題のをやっておられました。しかし白きましたやおまへんで。「恐怖ノ白魔人」は傑作「屋敷女」のジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督の新作でベアトリス・ダルも出演してますよ。「恐怖ノ」に落とし込むとは何という酷い扱いでしょう。でもまあ「リヴィッド」がわけわからない映画で不評だったために扱いが落ちたのかもしれません。真相は知りませんけど。

他の映画の話はもういいとして、この「恐怖ノ黒電話」はマシュー・パークヒル監督2011年の作品。ジャンルはいちおうホラーということになってますので、ほんとはちょっと違うんですがそういうことにしておきます。ジャンル映画なのにジャンルを言えばそれがネタバレになるという、なかなか他にない挑戦的な作品ですよ。

マシュー・パークヒル監督は「dot the i ドット・ジ・アイ」(2003)の人です。「dot the i ドット・ジ・アイ」面白かったですね、演出もストーリーもかなり独特でした。作品は今のところ「dot the i ドット・ジ・アイ」と「恐怖ノ黒電話」しか見当たりません。ですので「恐怖ノ」は置いといて、マシュー・パークヒル監督作品としてぜひ観たくて、それで仕入れてきて観ました。

The Callerってことで、電話です。知らない女性から電話が掛かってきてやりとりします。
数多あるホラーにおける電話ネタですが、ネタの中心を電話一本に絞り込んだアイデア勝負作品となっています。
暗い室内や誰かが覗いているかのようなアングル、這い回すクローズアップなど、力のある映像が観ているこちらの恐怖も上手に盛り上げます。

ちょっと話はそれますが、突然鳴り出す電話の音に恐怖するというのはかつて普遍的でした。黒電話のリーン!の音はホラーやサスペンスとすこぶる相性もよくて映画でもよく使われましたよね。現実でも同じく電話の音は怖かったものです。大抵はリーン!となる直前に電話機がコトリと音を立てたりして、一瞬身構えた後にやっぱり「リーン!」ってなる、その判っていながら飛び上がるほどびっくりするサスペンス恐怖はかつて皆が知っている普遍的恐怖でした。
いつしか電話機の音が電子音になり、やがて電話機そのものがパーソナルなものになるにしたがって黒電話の恐怖は普遍的なものから懐古なものへと変貌を遂げてきたように思います。映画で描く電話機もその姿や効果が変わってきております。携帯電話そのものをネタにするような映画もありますよね。「[リミット]」とか「オン・ザ・ハイウェイ」みたいな。映画における電話機の変遷というテーマは興味深い事柄の一つです。

「恐怖ノ黒電話」における黒電話の存在は普遍性と懐古趣味を含み、電話機が持つ時代の狭間感そのものをストーリーに組み込むという興味深い内容となっている。と、言えるのかどうなのか、ちょっとそんな感じします。

話戻ってこの映画、演出や映像にちょっと癖があってとても不安な映像を作ります。なめ回しみたいのもあって古風なテイストもあって、わりと好きです。
あとそれと「dot the i ドット・ジ・アイ」もそうなんですが「恐怖ノ黒電話」も、ヒロインがいいです。ヒロインを素敵に撮ります。お人形さんのように着せ替えたりちょっと浮いてるアイドルみたいな演出をするところも変でお気に入りです。

ストーリー的には、まあなんと言いますか、油断なりません。あっと驚く展開と言ってもいいかもしれませんし、そうでないと言えるかもしれません。さっきちょろりと臭わせた「電話機が持つ時代の狭間感」要素を上手く取り入れてますし。謎で引っ張ったりもするし。

ミステリーに関してですけど、ミスリードするシーンがひとつあるんですよ。ミスリードそのものはともかく、このシーンが私一番好きなんです。どのシーンかというとこのシーンです。
新しくできた彼氏と喫茶店で話すシーンです。謎の電話について、彼氏がメモ書きしながらある仮説を話します。「あのな、こうなってな、こうなるとしよか、そしたらな、こういうことになるという・・」この話を聞いたときの彼女の呆れ顔というか間抜け顔というかツッコミ顔というか、表情がすばらしいんです。このシーンいいです。

不安で恐怖の演出はよく出来ていますが、出会いシーンや恋の馴れ初めシーンはお世辞にも気が利いてるとは言えません。出会いのシーンなんか特に、ウイットに富んだ洒落た会話のつもりっぽい妙竹林な会話が楽しめます。あと遊園地のデートとか「君らそんなタイプちゃうやん」とか思ってしまいます。この不思議なアンバランス感、狙っているのか滲み出てくるものかはわかりませんが、ヘンテコでちょっとおもろいです。一つ明白なのはこの監督、ラブロマンスやラブコメは絶対上手く撮れない人であろうということです。

結論を言いますと、特別優れた映画というわけではないかもしれませんが、印象に残る人やシーンがいくつもありますし、ジャンル映画の挑戦も良いと思いますし、私はこの映画、とても気に入りました。

The Caller Design 2

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コメント - “恐怖ノ黒電話” への2件の返信

“恐怖ノ黒電話” への2件の返信

  1. はじめまして。『恐怖ノ黒洋館』について書こうと記事を探していて、こちらを発見。
    たくさん書いてらっしゃるので、ほかも見させていただきます。
    この作品はすごくよくできてますよね。私のところではネタバレ書いてますけど、
    何にも予備知識なしで見るのが一番ですよね。
    「dot the i ドット・ジ・アイ」も見てみたくなりました。

    1. ゆきやままさま、コメントありがとうございます。ブログも拝見しました。「黒電話」は大当たりですよね。「黒洋館」はややがっかり、「黒鉄扉」は若々しくていい感じでした。「白魔人」は見損ねたので、製品化を待ちます。「dot the i ドット・ジ・アイ」もいいですよ。ぜひ。

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