パーフェクト・ゲッタウェイ

A Perfect Getaway
ハワイ、ほとんど人がいないカウアイ島でトレッキングハネムーンを楽しむクリフとシドニーの新婚さん。時を同じくしてこの島に二人連れの殺人犯がやって来ている模様。どうする?ねえ、どうする?
パーフェクト・ゲッタウェイ

素人映画レビューで頻出する「つっこみどころ満載」という言葉が嫌いです。大抵はお門違い、ほとんどが余計なお世話、多くがあら探しと重箱の隅を突くだけの内容です。頻出しすぎて異化効果0、使い尽くされた恥ずかしい流行語に飽き飽きですよ。
そんなわけで、「パーフェクト・ゲッタウェイ」はそんな「突っ込みどころ満載野郎」がつっこみたい部分もたくさんあるミステリ要素を多く含むサスペンス映画です。でもつっこむ前に以下をきっちり読んでくださいね。

冒頭は、この映画POV(カメラの一人称視点)か?と思うような披露宴っぽいビデオ映像が流れます。ナチュラルな振りをしながら主人公の設定を説明するシーンです。映画校卒業の脚本家であることなどを説明します。

映画に限らず、虚構の始まりは主人公を説明する必要があります。上手に自然に説明することが大切で、ここが説明的すぎたり無理矢理すぎればゲンナリしていっぺんに醒めてしまうのです。
それに似た文法の稚拙さを冒頭のビデオシーンで感じます。ビデオ画像を通して状況の説明を懇切丁寧に行うのを見て、一瞬「なんだこの説明描写は」と呆れます。

その後、新婚カップルの会話シーンに移りますが、ここでも同じく説明的な会話が繰り広げられます。自分たちふたりの設定を観客に説明するかのように会話します。またちょっとがっかりします。「なんだこの人物説明は」

しかし私は見事に嵌められた。これ、わざとでした。

冒頭のビデオシーンと車内の会話シーン、同じような稚拙な表現で「映画の導入を説明する」シーンなわけですが、その稚拙さの裏には全く異なる監督の意図がありました。

最初のビデオシーンは説明臭い稚拙なシーンとして描きます。説明臭い安っぽいスリラーの演出です。これでまず観客に対して、安っぽさを植え付け油断させます。
次の車内のシーンでは同じような稚拙な説明シーンと思わせておいて、実はミスリードで観客を騙します。
この計算、これニクいですね。誰もが騙されますよ。

この映画、一見全然面白くなさそうですが「全然面白くないだろうとタカを括ってると意外と面白いのよ」と聞いていたので、困っていました。
期待しなければ面白いということは、面白いと聞いた時点で期待してしまうじゃありませんか。これはジレンマじゃ。

と、実はこの作品自体がそういう嵌め方を意図しています。奇しくも、上の助言は映画の意図を的確に表現していたのです。

最初に安っぽい演出で油断させ、安っぽさのふりをしながらしっかり客を欺きます。「映画の印象」を利用した叙述トリックの一種です。

この作品が面白いのは「映画」を語っている点です。作品自体が映画であることを前提にしている節があって、映画内で映画を解説し、作品の進行がその映画解説に則っていたりします。冒頭のシーンも映画文法を意識する観客を強く意識しているし、脚本について語る場面もそうですね。映画を解説する映画の様相を帯びるこういうのをメタ映画と呼びます。「パーフェクト・ゲッタウェイ」はこのメタ映画の要素を微妙に含むことによる痛快さを持っています。メタサスペンスと言ったほうがいいかな。
「スクリーム」もそういう映画でしたね。「いいかい『すぐ戻る』と言って出て行ったやつは殺されるんだよ」と解説しながら進行しますよね。

もっと簡単に端的に言うと「映画自体のパロディ」ってことなんですが。思えば、そう、冒頭のPOV風の始まり、あれだってまさに「POVのパロディ」だったわけですよ。
今どきはみんな「死亡フラグ」なんて言ったりして、作品の作りそのものを揶揄したり外側から眺める鑑賞方法がメジャーになっており、すでにおなじみかと思います。

だからこの作品にはいくつかの楽しい罠が張り巡らされています。ミステリーファンが、どの部分で真相に気付くか、という罠です。

きっと観る人によって気付く場所が異なるでしょう。たくさんの伏線というかヒントがあって、慣れた人だと早い時点で、普通の人はこの辺で、鈍感な人でもこのあたりで、気づきポイントを配置するというふうに作られています。

修行が足りないと「おれは早くも○○のところで犯人がわかったもんね」などという恥ずかしい自慢話をはじめることになりかねませんよ。もうそういうことを言い出す時点で監督の手玉に取られています。

ミステリーの文法に沿って進行する中盤は、序盤の「説明描写」に匹敵する「ミステリー描写」のパートです。散りばめられた謎解きのヒントに一喜一憂させられているわけです。

一通り真相解明ごっこが終わったら「お馬鹿サスペンスの文法」に基づき、わーわー言いながら派手活劇を経て収束へ向かいます。犯人が早い時点でわかった?それがどうした、今はドタバタサスペンスのパートだよ、と言わんばかりにです。

極めつけとして、 ラストで歯の浮くような恥ずかしいセリフを含むシーンが用意されています。
今まで散々いろんなことが起きたこの映画、最後の最後に「ちょっと落とす」系のコミカルラブロマンス系サスペンス劇場にありがちな一言を発するシーンでオチを付けます。
まさに「頻出しすぎて異化効果0、使い尽くされた恥ずかしい」ウイット系お約束のラストシーンです。
「何だこのオチ」と呆れつつ、何となく映画全体にわたってずっと手玉に取られていたことに気づき、膝を打つわけです。

結局おもしろいのかそうでもないのか、真面目に作っているのかふざけているのか、斜に構えて観ていいのか素直に楽しんだほうがお得なのか、捕まえどころのない印象だけが残ります。
ラストシーンのくだらない一言に「ひゃー」と恥ずかしがったり「素敵」と感動したり「馬鹿馬鹿しい」と思ったり「してやられた」と思ったり、人によって楽しみ方は様々でしょう。

「つまらない映画かと思ってたら、意外と面白いのよこれが」と言うしかない。てのがやっぱり結論です。

この映画を作った面々は相当なひねくれ者のようですね。

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