ジャングル・ブック

The Jungle Book
日本で夏に公開していた2016年版「ジャングル・ブック」はとてもよい映画でした。商品化もされ年末お茶の間で楽しむ人もたくさん。
ジャングル・ブック

漠然と懐かしい「ジャングル・ブック」はラドヤード・キップリングの小説が原作で、ディズニーがアニメ化したのが1967年、これはウォルト・ディズニーの遺作だそうですが、記憶にあるのはこれです。音楽も良く覚えています。さほど明確ではなく漠然と記憶しています。

昔はオオカミ少年ケンやジャングル大帝やターザンやキングコングやちびくろサンボなどいろんなジャングルものが頭でごっちゃになってどれがどれだかわからなくなっていたんでして、それでも幼児の脳味噌にジャングルや動物やジャングル的音楽が染みついて人間形成に大きな影響を与えました。

いろんなジャングルものと言ってもアフリカもあればインドもあります。「ジャングル・ブック」は虎とか出てきますからインドです。

1967年のアニメ映画に続いて、ディズニーでは1994年に実写版「ジャングル・ブック」を公開しているようですがこれは全く知りませんでした。

で、2016年にまたまた「ジャングル・ブック」が映画化され公開されたんですね。

CG凄い

2016年の「ジャングル・ブック」は実写版という触れ込みですがこれが実は微妙なところで、これほとんど何から何までCGアニメなんですってね。少年モーグリだけは本物の人間の子で、この子以外はすべてアニメ、だからこれ「実写版」というのに違和感を感じます。でもアニメ作品っていうともっと違和感を感じます。実写にしか見えないからです。

CG凄いCG凄いと、最早言い飽きた言葉で、今時はCGというのはCGと判らぬレベルのものを指しますが、それでも「ジャングル・ブック」のCG凄いです。

言葉を喋り心を持つ動物たち、水辺に森に木に空気、「ジャングル・ブック」のCGレベルは驚愕です。あきれるほどのその技術にもう普通の人間はついて行けません。

CGとお芝居

CGの進化には恐怖も持っています。「ジャングル・ブック」でも少年ひとりがブルースクリーンのスタジオで演技して、それをCGで仕上げますね。

CGで合成するために、あらかじめ決まった立ち位置と演技が必要です。カメラ位置も決まっています。

特撮映画ならまだしも、今時は普通の映画でもCGが多用されています。普通に街を歩くシーンや図書館のシーン、いろんなところでCG合成されていて役者は実際にはブルー(またはグリーン)スクリーンを貼ったスタジオで演技するだけってことが多々あります。

役者のこころと仕事のやりかた

役者は撮影時には映画の登場人物に変身します。変身には精神統一も必要でしょう。それを手助けするひとつが映画セットであったかもしれません。金掛けた立派なセットに入ることによって身が引き締まり映画の登場人物に変身することが容易になるというような。

これが今では殺風景なCG合成用スタジオで周りに何かがあるつもりになって演技しなければならなくなりました。これに順応できる今の役者さんっていうのは、昔の役者が持っていなかった別の才能が必要なんじゃないかと思います。あるいは、役に入り込む修行上、昔と今では役者の心とタイプ、仕事のやりかたが全く異なってるんじゃないだろうかと思うときがあります。役者じゃないのでわかりませんけど。

というような戯言を感じながら「ジャングル・ブック」を観たのかというと全く違います。あとから思ったことです。観ている最中はあまりにも見事だからすべてがCGだとは思っていませんでした\(^o^)/

CGが「冷たい」などというのは技術の足りなかった昔の話で、CGで柔らかく暖かいものを描くという技術もかなり備わってきています。登場する動物たちのリアルかつ愛くるしい動きは普通に観る分には感情移入できるレベルで気にとめたり引っかかったりすることはありません。だかからこそ技術的には驚愕なんですけど。

命を吹き込んだ声

そして大事なもう一つは声ですね。これは人間、しかも優れた役者による声が吹き込まれています。真にCGアニメに命を吹き込んだのはこの声です。

映像CGはこれほど進化しましたが、役者の声をコンピュータが担当するのはまだまったく無理です。マップのナビ音声ですら聞くに堪えないレベルで、これを人間の声みたいに進化させるにはまだまだ何段階も進化させる必要がありますね。まだ全然無理です。というわけで人間の役者さんが声を吹き込み、CGの動物たちに命を与えます。

アニメ作品は各国吹き替えになると思いますが、オリジナル音声の価値たるや凄まじいレベルで、それは声を担当した役者さんたちの大物っぷりを見てもわかります。

スカーレット・ヨハンソン

最も印象に残ったのは大蛇のカーです。妖艶なるこの声を聞きながら「あ。スカーレットの声だわ」となります。そうです。最近「ヘイル・シーザー」以来突如として好感度急上昇中スカーレット・ヨハンソンです。「her」の時にもたっぷり聞きまくった素晴らしい声、あの声を聞いたら脳にこびりつき例え蛇が喋っていても気づくレベルとなります。

ビル・マーレイ

「ジャングル・ブック」で最も愛らしい登場人物、クマのバルーです。ビル・マーレイの起用はこの映画の奇跡の一つ。細かく面白いセリフに満ちています。冬眠の件とか最高ですね。

リアルなCGの中でクマのバルーだけはデフォルメキャラになっていて、堅いイメージの払拭にも一役買っています。まあなんせバルーとビル・マーレイのセットはとてもいいですよ。

ベン・キングズレー

名演技大将のベン・キングズレーが黒豹バギーラの声を担当していることはクレジット見るまで気づきもしませんでいた。クールな役でした。

クリストファー・ウォーケン

キングコングみたいな大きなオランウータン、キング・ルーイの声はクリストファー・ウォーケンでした。渋くて怖い強面クリスファー・ウォーケンも今ではすっかり優しそうなお爺ちゃんになってきました。今回、この人の唄も披露されますよね。

ということで他の声の人もベテラン揃い、いろんな映像がCGになってしまう昨今ですが、声までもコンピュータ音声になってしまわないことを願うばかりです。

ジャングル・ブック

ストーリーがとってもいいです。何がいいって、あまり大きすぎない話であることです。

少年モーグリは人間の村にたどり着きますが、人間とのやりとり、ましてや人間たちのドラマ、人間たちがジャングルにやってくるとか、そういった大展開を一切やらないんですね。人間の村の入り口まで行ってさっさと引き返してきます。だからジャングル・ブックのタイトル通り、最初から最後までジャングルのお話です。ラストのネタバレを豪快に行いますが、例えばラストシーンで「こうして少年モーグリは人間の世界に帰って行った。さようなら」みたいなことになりません。少年モーグリはラストもジャングルのモーグリです。これが何よりよかったです。

大筋では悪者の虎がいて戦うだけの話ですが、それより水を飲み、蛇と出会い、クマと出会い、ミツバチの巣を落とし、象にひれ伏すといった、細々としたジャングルの出来事こそ本筋です。その小さな話が何よりです。

少年や動物たちは基本ジャングルでの暮らしの中で大きな変化をしません。「相変わらず」感に満ちています。少年モーグリすら、特に成長とかそういうんじゃなく最初から最後まで一環してジャングルの少年です。

宣伝や予告編では何やら大袈裟なことを言ってますが、ジャングル・ブックの楽しさはドラマチックな変化がない相変わらずな暮らしという、そういう地味で小さなところに帰結します。そういうのがいいところでした。

 


感動の押し売りみたいな大袈裟な日本版とクールな本国版予告編。

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