アレックス

IRREVERSIBLE
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ギャスパー・ノエ2002年の問題作。原題はIRREVERSIBLE (不可逆)

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妙なオープニングです。エンドクレジットの最後で見るようなトレードマークから始まるし、文字がところどころ裏返ってるし、なんなんだ。と、思っていると文字のかたまりが大きく傾きだし、古いフィルム映像のようにピカピカしたりします。カッコいいオープニングクレジットです。洒落てます。

本編の冒頭はさらに不可解。カメラが暗闇をぐるぐる回ります。ここはどこ。どっち向いてんの。ぐるぐるぐる。弱い人は酔いますよ。お気をつけを。

さてどこかの一室。おじさんが二人会話しています。「カノン」の馬肉屋じゃありませんか。ど、どうしたのおっさん。こんなところで何してんの。
「騒がしいな」「下のホモが騒いでるんだろ」と、いうことでぐるんぐるん回るカメラが階下のアングラ不良系ゲイクラブ「レクタム(直腸)」に向かいます。腕を折られた人と、何かの犯人らしき人が連れて行かれます。

この後、馬肉屋は登場せず、腕を折られた人と逮捕された人のお話に進みます(戻ります、か)
そうなんです、この映画、時間が逆転していてエンディングから始まって冒頭で終わるのです。変なオープニングはエンドクレジットを逆さにしたような演出だったんですね。「不可逆」つまり時間は巻き戻せないぜという絶望の話を、時間を巻き戻しながら描くという変態的技法によるきつくつらい物語です。

さて冒頭のご紹介はこの辺で、この映画が何故話題になったかというと残酷なシーンがあるからのようです。残酷シーンが苦手な人は注意しましょう。慣れている私も目を逸らしたくなるシーンがありました(逸らしてはいませんが)最近の映画を含めますと「屋敷女」に次ぐ超絶残酷描写と個人的に判定しています。この酷いレイプシーンは物議を醸したそうです。

しかしこの映画はノエの他の映画、たとえば「カノン」などと違い、複雑なモチーフを多面的に描いた映画ではありません。ぐるぐる回るカメラや技法的なもの以外はいたってシンプルで、リアルな演出なのにその実、各モチーフは単純化しています。いかがわしいゲイクラブなどもそうした単純化されたシンボリックな存在として出てきます。

じつのところ、本作はフランス映画らしい愛を描いた映画であるのですね。二人の男がひとりの女を愛する話です。愛に寛容なフランスでは「三角関係」などという野暮なことを言わず、二人のそれぞれの愛を両立させます。

結果を先に見せる技法によって、結末以前の言葉が後からやってきます。「後からやって来る以前の言葉」です。大事なところなので繰り返しました。
「後から伏線」とでもいうべき、言葉や態度のひとつひとつに重みを持たせる脚本です。この効果により、身をよじるような辛い気分を味わえるでしょう。

この作品は時間の流れが逆転していますからお話的な冒頭シーンが映画のラストシーンです。
モニカ・ベルッチを美しく描くシーンに胸を掻きむしられる思いをする観客、そこで流れる音楽は驚異的な使われ方をするベートーベンの交響曲第7番第二楽章。この曲の力は何事か。もう駄目。もうだめです。
映画を観てこんな辛い思いをするのはもうご免だ。でもそこがいい。

ところで「2001年宇宙の旅」のポスターを舐めるように撮った後にピカピカと宇宙っぽい2001年オマージュ的な映像が現れます。あれは洒落でしょうか?

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