ワイルドライフ

Wildlife
2019年の夏に公開していたポール・ダノ監督作品「ワイルドライフ」です。ポール・ダノって俳優じゃないの?俳優の夢である自分の映画作りました。初監督作品、家族のお話です。
ワイルドライフ

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ポール・ダノ

ポール・ダノはいろんな「ここぞ」という名作映画で見てきましたが、とりわけ印象深いのは何つっても「プリズナーズ」のアレックス君でしたね。思い出しても身もだえします。

さて、いつか自分の映画を作りたい。と、世のクリエーターの全員が夢を持っています。ポール・ダノはまだ若いのにその夢を実現しました。「ワイルドライフ」はリチャード・フォーク著「WILDLFIE」の映画化です。

公式サイトによると、ポール・ダノは「ワイルドライフ」を読んで頭から離れなくなり、ずっともやもやと考え続けていたそうです。そしてあるとき、ラストシーンのイメージが浮かんでその己の手応えに確信、映画化を決意してあれこれ動いて完成させたそうです。

リチャード・フォードの「WILDLIFE」を読んだ時、その二面性に不意を突かれ、思わず心の窓を開かれたような感覚でした。この小説を何度も読み直し、動揺し、不安になり、そしてまたワクワクしました。
それから1年余り、私は小説「WILDLIFE」について思いを巡らしながら過ごしていました。
親とは何だろう?という疑問に囚われて、そこから何か答えを見つけたいと自問自答する日々でした。
そしてある日、私の初めての映画のラストシーンが頭の中に明確にイメージできました。
この最後の映像に手ごたえを感じ、映画化に向けて歩み始めました。

ワイルドライフ公式 ポール・ダノの言葉

いきなりラストシーンの話で恐縮ですが、その最初に浮かんだというラストシーンですね、これ本当に素晴らしいラストショットでした。もうたまんないです。あれこれ渦巻いてうるうる来て仕方ありませんでした。

息子ジョー14歳と両親

「ワイルドライフ」はカナダ国境に近い田舎街に越してきた三人家族のお話です。父と母と息子14歳です。14歳と言えば「14歳で終わる」ですが、それは関係なく(関係ないなら言わなくてよろしい)、息子ジョー14歳が両親の不穏を見つめるお話となります。で、この子がですね、賢いんです。ただ勉強ができるという意味じゃなくすごく賢いわけですよ。賢いとはどういうことか、それは想像力があり、他人を気づかうことができる、つまり優しいということです。

本来なら中二病で思春期で自分のことだけで頭がいっぱいである筈のこの子が両親の苦悩を全部ひとりで引き受けます。たまらなくいい子でありまして、虚構の他人の息子なのにまるで自分の子のように感じてしまい、彼が対峙する細かい出来事すべてに心を持っていかれます。

冒頭近く、父が失業してしまうあたりから家族の不穏が始まります。父を演じるのは信頼のジェイク・ギレンホールで、粗野でもない、馬鹿でもない、でも優秀ってわけでもないという絶妙な人物設定、やりたい仕事を奪われ、半ばやけくそなのか山火事を消すボランティア労働に出向く決意をして旅立ちます。

残された妻は寂しさいっぱい不満いっぱいです。暮らしはどうなんのあたしはどうなんのあたしを構ってと少々愚か者ですが、かといって攻め立てるほど悪人ではない辛い女まだまだ若い34歳です。これをキャリー・マリガンが演じます。キャリー・マリガンは「わたしを離さないで」で印象深かったですがその後はあまりその、まあ、あれでして、でも近ごろちょっと年を重ねてから演技の味わいも出てきましたよね。この映画の母親役の設定がすごく合っており、こちらも絶妙に演じきっておられました。

写真館

いろいろと要素のある映画ですが、ここでは写真スタジオについて注目します。

14歳のジョー君、家計を助けるためにバイトをするんです、写真スタジオで。写真スタジオ。照明機材に背景マット、大きなカメラが鎮座する街の写真スタジオです。昔はどの街にもこういった写真館がありましたね。

私の個人的な郷愁では、この写真館というのはもうそれだけでいけません。たいていはちょっと凝った作りの外観の個人店、ショーケースに七五三の着物を着た娘さんの写真なんかが見本で置いてありました。まあ、大きなスタジオを持っているところは稀でしたが片隅にスタジオもどきの設備があったりしましたね。こうした店は昔は身近で、ただの証明写真を撮ってもらいにも行きました。時にはカメラ購入の相談にも乗ってくれました。どこにでもあった街の写真館は今では多く失われましたね。

という、写真スタジオであるというだけですでに琴線に触れるわけですが、ここにカメラマンでもある店主がおります。「ワイルドライフ」のカメラ店主は少しの登場ですがとても重要でした。

優しそうですが仕事に厳格そうな店主です。少年ジョーはバイト面接でカメラ機材に触ったこともないことを正直に言います。「でも僕は覚えがいいです」店主、信用して雇います。この面接シーンだけで目頭が熱くなったことは内緒です。その後、働くシーンもあります。カメラマンの店主がジョーに良い記念写真を撮る秘訣を教えたりしますね。それは笑顔です。

映画の節々でジョー君がスタジオで働く姿がほんのちょっとだけ映ってきました。そのパリッとした演出は尺が短くても見ているこちらにしっかりと伝わります。そして、この写真スタジオでのジョー君の働きというわずかな断片が「ワイルドライフ」全体にとって如何に重要なことであったか後に気付きますね。ポール・ダノ監督がどれほどこの短いシーンの断片に力を込めたのかが伝わりまくり、映画が終わっても余韻がいつまでも残ります。

エド・オクセンボールド

さてそういうわけで素晴らしい息子ジョーを演じたエド・オクセンボールドについてです。この優しそうな彼、これ誰だと思いますか。ナイト・シャマランの傑作「ヴィジット」の弟君ですってよ!知ってました?そういわれればこんな感じのやつでした。「ヴィジット」の弟くん、めちゃんこ面白くてかわいかったですよねー。エド・オクセンボールドは10歳で短編の主人公を演じて受賞ノミネートされる実力派であり「ヴィジット」の弟君のあのナチュラルさも実は演技力のたまものであったと今更知ることになりまして驚愕しています。おばあちゃんの物真似したり深刻な姉貴をズームしたり言葉の語尾遊びをするあの面白少年が両親の苦悩と一人向き合いこれほど人として成長するとは感無量です(虚実を区別できていないらしい)

ワイルドライフ

「ワイルドライフ」というタイトルですが、ある家族の一時期の話にすぎません。野生に入るわけでも壮大な人生でもない地味な映画です。でも息子ジョー14歳の心を想像すれば、そこにはワイルドライフどころか、宇宙が詰まっていたとも言えてしまうんではないかというほどの、ちょと褒めすぎか。いえ、たいへん良い映画でした。

ポール・ダノは17歳くらいで映画デビューと思いますが、彼が今15歳くらいだったら間違いなく息子ジョーはポール・ダノが演じますよね(わけのわからないことを言っておりますが)

音楽

エンドクレジットに「ヨハン・ヨハンソンに捧ぐ」とありました。聞いたことある名前だな、誰だっけ、と思っていたら音楽家で、映画音楽もたくさん手がけている方でした。ヨハン・ヨハンソン氏は2018年に亡くなってしまったんですね。もしかしたら「ワイルドライフ」で音楽を担当してもらう手筈だったんでしょうか。

実際に音楽を担当したのはデヴィッド・ラングという方で「グランドフィナーレ」の音楽で世界を感嘆させた才人、ヨハン・ヨハンソンの分までがんばりました(決めつけてるし)

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