スペルズ 呪文

Pikovaya Dama. Zazerkale
ロシア製のホラー映画「スペルズ 呪文」は学園モノのホラーというよりどっちかというとダークファンタジー。
スペルズ  呪文

ロシアのティーン向けダークファンタジー

ロシアのポップ映画で前に観た地下鉄のやつが妙に面白かったのでロシア映画というだけで選んでみたりします。前に観た地下鉄のやつの何が面白かったかというと、アメリカ製みたいなポップ映画の作りをしようとしているのだけれど、細かい会話や尺の取り方が見慣れたものと少しリズム感が違うんです。このリズムには乗れるような乗り切れないような不思議な魅力がありました。という話はここじゃなく地下鉄のやつでやれって感じですね。はい。

そんな前置きをしたにもかかわらず「スペルズ 呪文」にはそういったロシアのリズムをあまり感じませんでした。感じなかったんなら枕でそんな例を挙げるなよ。はい。すいません。

この映画は学園モノのダークファンタジーです。少女と弟くんの話が中心で、どっちかというとティーン向け。時間も短くて80分ちょっとです。

ダークファンタジーコンプレックス

その短い時間に詰め込みました。いろいろ詰め込みました。ストーリーだけでも結構濃密です。いろんな要素が含まれます。

複合的にダークファンタジーを詰め込んだのでこれはダークファンタジーコンプレックス略してダーコンですね。

主要な登場人物も少なくない上に各人事情付きだし、終盤にはノリの異なる展開まで果たすし、どっちかというと心系のお話にも持っていきたい感じだし、どう考えても80分程度に収まる分量じゃありません。

詰め込んだ上に時間が短いからどうしても急ぎ足になるんです。よくまあこんな短時間にこれだけ詰め込んだなと感心はするんですけど、けどやっぱり急ぎすぎて実にもったいないとちょっと思ってしまいます。そこらへんがティーン向けと感じる所以でもあります。若い人は飲み込みも早いのでこのぐらいすっ飛ばしてパッパと進めたほうがいいのかもしれません。

そしてよくよく考えてみたら、すっ飛ばしながらも伝えることはちゃんと伝えられていたことが判ります。だからこそ「足りないよ」と思ってしまったわけですからね。そうすると、この省略しまくる技法が実はレベルの高い技術であったと発見できます。ほんの僅かのシーンでいろいろ伝えるというのは娯楽作品では特に重要な技術になりますものね。

感想としては「ダーコンとして筋はいいのにすっ飛ばしすぎて安っぽくなったなあ」と「上手にすっ飛ばしつつきっちり仕上げたってことは良く出来てるよ」で行ったり来たりです。ただ、役者さんたちの演技はあまり上手なほうではないと感じまして、でもそれってお芝居っぽくていい感じとも言えます。監督も若いし、若さでカバーするさ。

内容

さて内容ですが、心に大きな傷を持つ姉と弟です。序盤は弟くんの可哀想感が全面に出てきて、お姉ちゃんが弟に冷たいことで「こらお姉ちゃん、もっと弟を可愛がれや」とこちらが少々憤るような仕組みです。序盤そう思わせることが後にお姉ちゃんの苦悩に胸を鷲づかみにされるためのステップでもあります。

ホラー要素は呪いにまつわる話ですけど、「願い事」系です。ダークファンタジーの基本とも言える願いは叶うけど反作用も食らうという「猿の手」系統となります。私は子供の頃「猿の手」を読んで震え上がって感動しました。ああいう気持ちを若い子たちにも味わってもらおうという大事なファンタジーです。

おともだちには各人エピソードがあって、どの子の話も悪くありません。安いホラーみたいな「どうでもいい人」が存在しないという作りになっています。そんな作りにも好感持てます。

例えば太っちょの女の子なんかもう悲惨極まりなくて、願い事が「痩せたい」じゃないんですよ。「食欲を消したい」ってお願いするんです。こうしたちょっとしたことがシナリオでは重要ですね。で、確かに食欲はなくなるんですがもうね、ほんとにね、可哀想に。

本当は校長先生についてのストーリーも用意してあったに違いありません。ですがここは制作のみんなは涙を飲んですべてカットしました。ですので校長先生がちょっと可哀想ですね。

理解ある大人の役である担任の先生についても、子供たちへの理解がホラー要素の合点に繋がる過程というストーリーをすっ飛ばしました。

用意してあったシナリオをすべてカットしたのはこの二人についてで、これって、つまり大人だからですね。きっと。そういう判断があったのだろうと映画探偵Moviebooは妄想推理しています。

呪いの元、19世紀のお話も、まあまあありきたりとは言えそのオチに関して一瞬言及するもののそれ以上の考察は行いませんでした。つまり言い伝え通りの話なのか、その話自体が農民の集団による捏造かという面白そうな話です。「そこまで踏み込んだらティーン向けから離れてしまうやろしあ」「そやな、悪霊は悪霊でまあええやろしあ」「カットしとこすとろま」「もすくわ」という会話が聞こえてきそうですがそんな幻聴は妄想探偵にしか聞こえません。

すっ飛ばして安っぽいところもあるけどシナリオのバックボーンはしっかりしてるし、きっちり尺を取って作り込んだらかなり面白くなると思うんですよね。初期のギレルモ・デル・トロみたいな感じというかね、ああいうふうにできたんじゃないかなと見終わってそう思いました。

ダークファンタジー -> バックボーン -> デビルズ・バックボーン -> ギレルモ・デル・トロ の連想で思いついたか

大した映画ではないかもしれませんが私は好感を持ちましたのでOKとしますもれんすく。

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