白いリボン

Das weiße Band
白いリボン
公開年:
2009
製作国:
監督:
製作:
脚本:
撮影:
美術:
  • クリストフ・カンター
編集:
  • モニカ・ヴィッリ
主演:
  • クリスティアン・フリーデル
  • レオニー・ベネシュ
出演:

第一次世界大戦直前、北ドイツの小さな村で連続する不可解な事件と村の不穏を描くミヒャエル・ハネケ最新作にして大傑作。2009年第62回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞の「白いリボン」がようやく順次地方公開。

白いリボン

2009年の話題沸騰作がようやく日本でも地方巡業の順番がまわってきました。

村の医者が自宅前に張られた針金の罠によって落馬し大怪我を負うところから物語が始まります。これを発端に次々と起こる事件。小さな村に憎しみと怒り、妬みと暴力、不信と懐疑の連鎖が起こります。権威と服従、支配と教育、従属と反発、見る者に突きつける苛立ちと胸騒ぎ。

この作品、多くの部分が村の教師によるモノローグで語られます。登場する教師は30歳くらいの男ですが、モノローグの声は老人。つまり、随分後になってからの回想形式で進んでいるようなのです。回想しているのがいつなのか、どういう状況においてなのかはわかりません。
教師不在でモノローグがないシーンも多いので、すべてが一人称による回想ではありません。そこは神の視点で描かれます。

小さな村の住人、その家族の様子が克明に描かれます。
ドクターの家族、隣の助産婦、牧師の一家、男爵の一家、家令の一家、小作人の一家など、多くの人物たちが登場し、次々に起こる不可解な事件と共に村の不穏な空気を作り上げます。

ミヒャエル・ハネケという人は全く以て油断ならない映画監督でして、何もかもがずば抜けております。孤高の大天才、レベルが違います。本人はにこにこ穏やかな芸術家のおっさんですが、撮影には厳しく臨むらしいし、にこにこする以外にどうしようもないほど内に秘めた表現者としての深みが滲み出ておりまして、それはそれは空恐ろしいです。

本作「白いリボン」はこれまでにないほどに多くの意図を多重に含ませた映画となっておりまして、表現されたことあるいは表現したいことが何層も同時に存在しています。
例えば白いリボンですが、これは牧師が子どもたちに付ける純潔の印でして、未成熟な幼年期に無垢の証として、あるいは純真や正義を願う親の愛の儀式として機能します。
このリボンは子どもに対する従属の強要であり抑圧の具現化でありまして、ファシズムの植え付け、権威主義の洗脳、差別のレッテルを連想させるものです。同時に聖職者の正義感の押しつけであり教育のひとつの方法であり親の愛のひとつの形だったりもします。牧師はただ単に独裁者を暗喩している単純化された存在ではありません。多面性というよりは多重性、多層性と言いたくなるレイヤーの上に成り立っています。

ひとつのシーン、ひとつの事柄、ひとりの人間、この映画のすべての要素には表現の中に秘められた多重の意味付けや解法、可能性や暗喩が含まれます。
それらが見事なまでの美しい映像の中で不穏な空気を充満させ、時に観客を突き放しながら膨張していきます。
不穏な空気と緊張感は胸騒ぎと共に破裂寸前まで膨らみ、そして映画は終わります。
クレジットが流れた瞬間「こらハネケのおっさん、ちょっとそこ座れっ」といろいろ問いただしたくなるのです。そして今すぐもう一度最初から見たくなります。

咀嚼は全然足りませんが、この映画にちょっと興味ある方に向けて見どころポイントを列記してみます。

まずは映像の美しさです。全編額縁に入れて飾りたくなる光と影、白と黒の美しすぎる映像。これはもうこれだけでも価値があります。「こんな映画意味わからんっ」とお嘆きの方でもこの映像の持つ力に触れれば理屈以前の美的興奮を得られること間違いなし。

小さな村で次々と起こる事件はサスペンスフルで展開も早く村の不信感と共に動機や秘密に想像力を張り巡らしてこれも「深い意味など知らん犯人誰やねん」と、そういう方でもミステリ的に心動かされること間違いなし。特に今回は狂言回し的な語り手である教師が非常に親切な存在として配置されていますから「まとも」である彼と付き合っているだけで随分と気持ちが楽になります。

村の住民はあんなに少ないのにこれほどの事件が頻出して、これはもう誰かが何かを隠している、誰かが誰かをかばっている、誰かや誰かが関与していると見るのが筋です。そこで思い出されるのがトリアーの「ドッグヴィル」なわけですが、確かにちょっと似たテイストがあります。閉鎖的な田舎の村の生態、これを堪能するという見方でも大興奮間違いなし。

重要な子どもたちです。子どもが沢山登場します。映画と言えば動物と子どもです。それぞれの子どもたちを見ているだけでお腹いっぱいになります。子どもの数だけ映画が作れそうなドラマを抱えています。彼らの演技は神がかっています。絶賛しても絶賛してもしたりません。「ややこしい映画はご免なんだよっ」っていう方も、ちびっ子映画として堪能できます。牧師に説教され一筋の涙がこぼれるシーン、教室の後ろに立たされるシーン、知恵遅れの子の声、小鳥を持つ優しき少年、死について質問する子、きりがないほどの名シーン名演技の数々、こんなにも多くのネタを一本の映画に詰め込むとは何という贅沢。子どもたちを見るだけで心が張り裂けること間違いなし。

大人たちのドラマも見過ごせません。それぞれの家族が繰り広げるどろどろの葛藤、生と死、まとも人間である教師の最後に魅せる(愚鈍な)男気、恋の行方、ムカつく言動、牧師の強さと弱さ、謎の行動、一体全体、どれほどのドラマを詰め込みますか。
今回この「白いリボン」、そういうわけでかなり忙しいです。カットも多く、ドラマチック。ドラマとしても大いに堪能できること間違いなし。

そして肝心要の深い洞察ですが。
これに関してはいろいろありますが、インターバルと咀嚼が全然足りていないため、筋道立てて簡潔に書くことが出来そうにありません。思いついたまま喋るだけで何時間も経ってしまいます。多重的なレイヤーのひとつずつを挙げていくだけでも多くの文字を必要をします。その証拠に夕べの我が映画部の晩餐会は大騒ぎで惨憺たる有様でした。
その大騒ぎの結果、下手をすれば深い絶望の淵へ持って行かれます。
芸術家の仕事は、そのピュアでか細い神経に突き刺さった危機の棘を見つめ血を流しながら警鐘を発することです。
映画は基本的に娯楽であるという考えもありますが、芸術のひとつであるという考えもあります。発祥から広がりにかけてそのどちらも古くから存在します。
「白いリボン」を見て不穏な空気に包まれるという体験は今の時代に非常に重要であるということだけは言えそうです。過去を振り返るこの映画が語っているのはもちろん現在と未来。メカニズムの解明が出来ずとも、このような作品を観て良からぬことの発生を未然に防ぐ心意気が多くの人の胸に沸き上がることを期待します。

この作品は映画史に刻まれるべき重要な作品です。

カンヌ国際映画祭パルム・ドール
アカデミー賞撮影賞
ドイツ映画賞6部門
他多数の受賞

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