ロスト・ハイウェイ

Lost Highway
デヴィッド・リンチ「ロスト・ハイウェイ」です。見事。そして、悪夢。
ロスト・ハイウェイ

ピンポーン。「はいはいどちらさん」「ディック・ロラントは死んだ」「はい?」
こんなふうに始まります。 疾走するハイウェイの映像の後は不可思議な冒頭。

ごそごそ。玄関に気配が。おやビデオテープ。何これ、家の玄関先が映ってるよ。「誰だ誰だこんなの撮ったやつ」
自宅の玄関が映っているだけの怪しいビデオテープです。
このシーンをハネケが見て後の「隠された記憶」を撮ったのかどうかはともかく、自宅を映したビデオテープは翌日も届きます。何と今度はカメラが家の中に入り込み、寝室で寝ている姿まで捉えているのだから驚き。

パーティーシーンで白塗りのミステリーマンに出会います。
怪しい男の言うとおりに自宅に電話をかけ、さらなる悪夢へと展開するこの巷で評判の「ロスト・ハイウェイ」は評判通りの悪夢的面白さに満ちたデヴィッド・リンチのある意味代表作。
リンチのナンバーワン傑作との声もちらほら。ナンバーワン傑作とは思いませんがそういう見方もわかります。

個人的な体験で恐縮ですが、「エレファント・マン」を観に行ったとき、当時「感動のヒューマンドラマ」みたいに宣伝されているのがどうにもしっくりこなくて「これ、感動でもヒューマンでもないやろ。この映画、映像派のフリークス映画やろ。監督誰やねん。こいつただ者やないで。リンチ?誰それ。お、「イレイザーヘッド」ちうのがあるな。これ見てみよ」
というわけで観た「イレイザーヘッド」がツボだったのですっかり気に入ったんですよね。でもその後存在を忘れていて、「デューン/砂の惑星」がいまいちだったので、後の「ブルーベルベット」の評判もあまり信用していなかったのです。見たけど。「ブルーベルベット」は悪夢だのシュールだのといった評判の声が大きすぎたせいか完全に肩透かしで「何これお洒落ぶりっこみたい大したことない」と当時思ってしまい、それ以降リンチはいまいち、という固定観念が生まれてしまったんですよねえ。アホですねえ。若気の至りですねえ。
そんなわけで「マルホランド・ドライブ」までご無沙汰で、「マルホランド・ドライブ」のあまりの面白さにリンチ再評価が急浮上。見損ねていた「ロスト・ハイウェイ」を遅まきにて確認、というそういう恥ずかしいリンチ歴なのでございます。

「ロスト・ハイウェイ」には、「ブルーベルベット」に感じたお洒落ぶりっこの香りが僅かに残ります。同時に「マルホランド・ドライブ」や「インランド・エンパイア」に通じるエレガントな悪夢感の気配もあります。そういう意味で「リンチの分岐点、ある意味代表作と言えるかも」と感じたんですが、でもこの方の映画はほんの一部しか見ていないので、知りもせずそういう軽率な発言をするべきではありません。知らないほど知ったようなことを言いたくなる馬鹿者の特徴でございます。謝。

さて本作、美しい妻と暮らすサックス奏者のフレッドを演じるのがビル・プルマンです。この人、デヴィッド・リンチ師匠の娘ジェニファー・リンチの「サベイランス」で変態演技を好演しましたが「ロスト・ハイウェイ」の時はまだまだ至ってまじめな役です。

バトリシア・アークエットが魅力的です。怪しいばかりの深み。女神と悪魔。妄想の投影。いいですね。

白塗りのミステリーマンはベテラン、ロバート・ブレイクが演じています。あれ?「ロスト・ハイウェイ」のあと作品がありませんね。と、思ったらなんとまあ2001年に妻殺しの容疑で逮捕されていました。結局、証拠不十分で無罪となったそうですが、CSI効果ではないかと言われており、ロサンゼルスの検察当局は無罪判決を「信じられないほど愚かなことだ」と憤慨していたそうな。
(CSI効果とは、テレビドラマの悪影響で、DNA鑑定など科学的証拠に過度の信頼を寄せてしまい陪審員が判断を誤ることを指すそうな)

そんなこんなもあり、色んな意味で見応えたっぷりのリンチ師匠の過渡期の代表作。

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