ヤギと男と男と壁と

The Men Who Stare at Goats
ジョン・ロンスン著「実録・アメリカ超能力部隊」を原作にした、スター共演の何だかよくわからないお話。
ヤギと男と男と壁と


超能力部隊の根幹にヒッピー精神があって、過去の記述としてベトナム戦争後の「古き良きアメリカ:ヒッピー編」を描き、一部アメリカ人のノスタルジーをくすぐる内容になっております。
有名俳優の過去の映像は本当に若返ったかのようなメイク(とCG?)で、確かにこの若返り効果は大スターがやってこその面白みなのだろうと思います。

しかしあれですね、ジョージ・クルーニーもユアン・マクレガーも、キャリアや人気の割りには演技がその、あの、あれですね。
この人たちはいわゆる「胸から上」の演技が身の丈と言いましょうか、テレビドラマ止まりと申しましょうか、どうしてなんでしょうね。ジョージ・クルーニーの役割なんか、演技によっては十分インパクトがある人物像を作り出せたと思うんですけどねえ。
この重要な主人公二人の演技というか演出というか脚本というか、もうちょっとぶっ飛んでいたり逆に大真面目だったり凄みや個性がもっとあったりしたら、もう少しマシな作品になっていたかもしれませんですね。
ユアン・マクレガーなんか「トレイン・スポッティング」のご威光だけで未だに「かわいい青年」やってますから心配になってきます。

逆にケヴィン・スペイシーは演技力がありますから、さすがに全身から滲み出る力というものを感じます。だからこそ酷い脚本が目立ちます。ケヴィン・スペイシーに何という間抜けたセリフを喋らせ、下手糞な演出を施すのだろうか、と。もしかしてそういうのがギャグとしての狙い?

ジェフ・ブリッジスのヒッピー演技は安心印です。この人、ビッグ・リボウスキですよね。それから「ローズ・イン・タイドランド」のローズちゃんのヤク中の父親です。こんな役はお手のもの。「フィッシャー・キング」のDJも良かったですし、まあ、つまりベテランの実力派で本作でも唯一安心して見ていられる存在でした。

もうひとり、くそまじめな顔でスティーヴン・ラングが登場しています。「アバター」での敵役で皆の記憶に新しいところ。

そんなこんなの大スター夢の共演でスターの持ち味を適度に壊しつつ、適当に作りあげました。

本作はコメディ映画ですが、声に出して笑うようなタイプではありません。かと言ってシニカルさもあまりなく、IQは低めです。若干皮肉は含んでいますが基本ベタなネタに終始します。ベタなだけならいいんですが、ヒッピーを茶化す方式が単純すぎたり、逆にメッセージ性をほのめかしたりと、全体的に中途半端。
目立つテーマはやはりヒッピー・ムーヴメントのころのノスタルジーです。ヒッピー時代は良かったよなあみたいな。でもそれにしても安直な印象です。その時代を知らぬ若造がイメージで作り上げた虚像にしか見えないんですねえ。実際の制作者たちの年齢は知りませんけど。そう見えるものは仕方ない。

貶してばかりなのも何なので褒めるところはないのかと思ったら、どんな映画にも褒める部分があるもので、私は序盤のハムスターがこけるシーンが好きです。ユアンが涙に暮れるシーンもいいですね。さすが胸から上の俳優。
それと、ソ連に対抗してアメリカ軍も超能力部隊を作ろうと提案するシーンの脚本はいいですね。「ソ連は超能力部隊に力を入れている。我が国もやらねば」「なぜソ連は超能力部隊に力を入れてるのだ」「我が軍が超能力部隊を編成しているというデマを真に受けたからだ」「デマが元なのに我々もそれをやるのか」「ソ連がやっているのだから我々もやらないわけにはいかない」と、そんな案配です。

まあ、いつもいつも出来がよい作品ばかり見すぎていると名作シンドロームを煩ってしまい円滑な社会生活に影響を及ぼしますから、ときにはこのような軽いコメディをテレビ代わりに眺めるってのもいいかもしれません。

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