ストーカー(One Hour Photo)

One Hour Photo
ストーカー(One Hour Photo)

大型スーパー内のD.P.Eショップに勤めるサイ・パリッシュ(ロビン・ウィリアムズ)は自分の仕事に誇りを持ちお客本意の接客を行う優良店員。でも孤独で思い込みの強い神経の張り詰めた男。

ストーカー(One Hour Photo)

2002年の「ストーカー」というこの映画は、いい人光線出しまくりの好感度俳優ロビン・ウィリアムズがキモい犯罪者の役をやるというので当時話題でした。

この映画の直前にはノーランの「インソムニア」で犯罪者の役をやっており、イメチェンを図ったのか単に仕事の幅を広げたかったのかいい人オンリー俳優の名を翻したかったのか、とにかく悪役に挑戦していた時期ですね。
「フィッシャー・キング」も良かったし、個人的にも好感度が高く、珍しく俳優目当てで「奇跡の輝き」なんぞを劇場に観に行ったりして、ぼろぼろ泣きながら「なんてつまらない映画なんだ」と憤慨したのも良い思い出です。

さてその好感度俳優がキモいストーカー役というので「ストーカー」にも興味があったんですが劇場に出向くことなく、それどころかビデオ化してもDVD化しても、気になりつつ避けていた作品です。
その理由のひとつは「変態店員が人妻をストーカーする映画」と思い込んで(というか宣伝に惑わされた)「観なくてもどんな映画か大体なんとなくわかるわ」と決めつけていた点、もう一つはタルコフスキーの同名の名作映画があるのに、わざわざ同じタイトルを付ける無神経さに反発を感じていた点です。
この映画にちょっと興味はあるけど観る手前でとどまるという人の多くが似たような理由なのではないかとこれまた勝手に思っております。
そこで「ちょっと気になっていたけど観るほどでもないわ」と思ってる全国の同胞諸君に成り代わり、猫介護の狭間の時間に軽い気持ちで観てみました。

さて結論から申し上げますと、大変な良作でした。これはもっと評価されてもいい。もっと歴史に残ってもいいとすら思えます。これを観ていないなんてもったいない←今まで観る気もなかったくせに何という変わり身

公開当時は今より阿呆でしたので、予告編や宣伝に惑わされ邦題に騙されるという、配給会社の罠に引っかかってしまい、このような名作を見逃す羽目になってしまいました。
まず何と言ってもこの映画はストーカーの映画ではありませんし、ロビン・ウィリアムズは人妻を追う変質者ではありません。で、邦題「ストーカー」はただの間抜けな邦題でタイトルは現像ショップに掛けた「One Hour Photo」です。
そりゃまあ若干はストーカーのような行為も行うしちょっとは変質者っぽい演出もありますが、どちらかというと都市生活者の神経を病んだ孤独な男の物語です。

というわけでロビン・ウィリアムズの名演技が最高に輝きます。
MTV出身のマーク・ロマネク監督が作り出す映像美とセットでその効果は抜群。孤独な男が大型スーパーに埋没する色調と構図に凝った映像がまたすてき。スタイリッシュ系ですが根底にあるのはキューブリック風味。でも嫌みはないですよ。物語と乖離した表層的なんちゃって風味ではなく、ちゃんと主人公の心的表現とマッチしています。広角レンズとシンメトリーとやたら白い店内が誰しも「2001年宇宙の旅」を思い出すでしょうが必然と効果があればいいのです。

孤独な店員サイは写真というものに強いこだわりを持っています。写真の持つ文学的特徴を語り、安物DPE店なのに職人的な姿勢を貫き、そしてある一つの家族に強く感情移入をしています。
映画の冒頭や随所にサイの仕事ぶりや写真に関する考察が綿密に描かれ、この部分は「はたらくおじさん」的な私好みの部分です。大型スーパー内の安物現像ショップなのにとことんこだわりを持つこと自体を「ちょっと異常」と描いてもいます。

人は誰しも自分の仕事を「重要な仕事だ」と思いたいのです。仕事=自分を重要だと思い込まなくては都市生活者はアイデンティティを確立できず自我を保てません。そういう意味ですべて現代人は神経を病んでいます。
同じ理由で、家族というものも重要です。メディアに毒された都市生活者にとっての恐怖とは孤独であることです。仕事と家族はセットでアイデンティティの砦です。レストランに一人で出向き「お一人様ですか」と聞かれる恐怖を味わう都市生活者のすべてが神経を病んでいます。

現像とプリントの機械を操作して接客するだけのショップ店員サイは仕事にこだわりを持つことでアイデンティティの片方を満足させ、もう片方はあるお客の家族と自分を同一視することによりかろうじて正気を保っています。
そうですよ、「ストーカー」は人妻に惚れてストーカー行為を行うお話ではなく、孤独な男が「仕事」と「家族」に過多に感情移入するお話です。

サイに感情移入され同一視されている家族は親子三人の裕福な一家。奥さん役のコニー・ニールセンがぴたりはまり役で、この人選が良かったです。この人のこの魅力じゃなかったら成立しなかったのではないかとさえ思います。脚本や設定を超えた良い演技、良い風貌、良い雰囲気をお持ちです。上品で優しく、愛想と線引きが明確で、でも自分と同じ本を読む人を観て親近感を抱いたりするお茶目なところもあったりして、結構抜群ですよ。
夫役のマイケル・ヴァルタンも飄々としていてこの映画のこの役に填まっています。
崩壊寸前の夫婦仲についての表現に関して、若い監督には難しいのか脚本的にも演出も今ひとつですが、夫婦役の人間味でカバーできています。

「ER」の外科医ピーター・ベントン役でお馴染みのエリク・ラ・サルがERそのままの雰囲気で登場します。登場シーンは少ないですが彼の「ER」での人柄を前提としたかのようなゲスト的な出方ですね。ちょっとずるいですね。

細かなストーリーは観てのお楽しみということで、これは良い映画ですので観る前に誤解されている方は是非どうぞ。

追記:2014年8月11日 ロビン・ウィリアムズの訃報

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