ルイーサ

Luisa
ルイーサ
公開年:
2008
製作国:
監督:
製作:
  • オラシオ・メンタスティ
  • エステバン・メンタスティ
  • アントニ・ソーレ
  • ハウメ・ソーレ
脚本:
撮影:
  • アベル・ペニャルバ
音楽:
  • スーペル・チャランゴ
主演:
出演:

ブエノスアイレスで猫と暮らすおばさんルイーサ、きりりと身を引き締めて規則正しく日課をこなすこの老齢近い女性にある日不幸が折り重なってやってきます。

ルイーサ

公開中(日本では2011年)にとても観たかったアルゼンチン/スペイン映画「ルイーサ」です。
一言で言えばルイーサという孤独で厳格なおばさんが貧困に落ちるお話で、深刻さとコミカルさとリアリティとファンタジーを同時に持つラテンならではのマジックリアリズムに裏打ちされた作品となっております。

主人公ルイーサは老齢に近い女性で、猫と質素に暮らしています。完璧な日課をこなす毎日、身だしなみを整えて勤務先の墓地へ向かい、勤務後はセレブ女優宅の家政婦として働くという二つの仕事をこなしています。
厳格な顔つきは生真面目さとプライドの高さを表現します。決して裕福ではないが恥ずべき人生は送っていないという様子です。実は彼女がひとり暮らしをしているのは辛い理由があるのですが冒頭ではそこまでわかりません。
辛い過去を引きずりながらも懸命に生きている女性です。
冒頭は猫との暮らしのシーンですが、猫飼いならば思わずにやついてしまう良い映像です。短いながらも猫の愛おしさ、猫への愛情があふれています。
ルイーサと猫の暮らし、彼女の仕事、プライド、完璧な日課、日課以外は何もないということまで含めて、冒頭のつかみは完璧です。さらに、ブエノスアイレスとその庶民というものすら表現できています。大変上手です。

そして冒頭でもうひとつ気づくことがあります。

この映画、もっと普通のドラマドラマしたドラマかと思っていたんですが、冒頭数分でその映像の特徴を見せつけられ、思わず前のめりになりました。
広角系なんです。

これまでMovieBooで何度か出てきた「広角系」なる言葉ですが、これはつまり広角カメラによる特徴的な絵面のことでして、広角レンズを多用する作品にはクールさがあります。構図の大胆さはポップでもありアーティスティックでもあり、被写体深度の深い映像は俯瞰的つまりとても客観的で突き放したような効果を映画に与えます。人間そのものを環境の一要素として捕らえますから、相対的で社会的な位置づけも明確にするんですね。
逆に「クローズアップ系」は標準/望遠レンズ多用で被写体深度が浅く、雑多なものを写さず人物に焦点を合わせまして、こちらは心を剥きだしにする内面掘り下げ系の効果を映画に与えます。画面と同じく、周りなど見えないという状況を作り出すんですね。
もちろん当たり前ですが一本の映画が広角か望遠かなどというレンズ二元論で作られることはありませんからこれは映画内でも一部のことです、念のため。
でも印象に残るシーンが広角系でずばっと撮ってるか望遠系でじっとり撮ってるかで観ているこちらが受ける感覚はまるで違うんですよね。
で、好みの問題ですが私は基本的に広角系に強く惹かれます。大好きな映画の多くが広角系ですし、自分のカメラも広角レンズ命です。ま、それはともかく。

この「ルイーサ」ですが、観る前、映画の紹介をさらりと見た感じでは望遠系の人情ドラマだろうと思っていたんですね。
ところがどっこい広角系だったので思わず前のめりと。そういうわけであります。
全編通して「広角多用」とまでは言いませんし、クローズアップもちゃんとありますが、キッチンのシーンをはじめ、ルイーサという人間を表現する大事なシーンに敢えて広角レンズによる映像効果をガンガン投入するその心意気が予想外なだけにヒャッホーでした。

「ルイーサ」はブエノスアイレス生まれのゴンサロ・カルサーダ監督の長編映画デビュー作です。
デビュー作ですがドキュメンタリーやコマーシャルフィルムを撮ってきた人だそうで、そっちのキャリアが存分に生かされています。
映像表現のポップさやてきぱきとした展開などはコマーシャルフィルムの、敢えて感情表現を避け客観的な行為の隙間から心を感じさせ感情移入させる演出はドキュメンタリーのキャリアが発揮された結果でしょうか。

きわめて個人的な感想を書かせていただきますけど、「ルイーサ」は予想を超えた大好物映画で、映画的魅力にくらくらする大当たりのたからもの映画でした。

魅力の一つが広角系ですが映像だけではありません。次は音楽です。
いい音楽をいい使い方してますよ。すばらしい。演奏はスーペル・チャランゴだそうで、いえ、詳しくは存じませんがラテン音楽の魅力が炸裂しています。そしてかなりポップです。
サントラが出てれば是非ほしいですので作ってください。

役者さんです。ルイーサを演じたのはレオノール・マンソさん1948年生まれ、女優・演出家で、舞台や映画やテレビドラマで活躍の「最も尊敬されている女優」ですって。
いいですよね、この方の表情の変化、いえ表情だけでなく身のこなしや何もかもですが、さすがです。
もしこの映画を日本でリメイクしたらやっぱりあれですかね、この人の役は市原悦子氏でしょうかね、藤山直美氏でしょうかね、ミヤコ蝶々師匠の若い頃とかどうでしょう、まあ、どうでもいいですね。

地下鉄の乞食を演じたジャン・ピエール・レゲラスの魅力もたまりません。映画のクレジットで「ジャン・ピエールに捧げる」とありましたが、まさかこの俳優さん、撮影後に亡くなったんですか。ジャン・ピエールなんてどこにでもある名前だから別の人と言ってくださいお願いします・・・・と思っていたらやはりこの方でした。大変味わい深い俳優です。なくなったときまだ68歳ですか。涙。

セレブ女優を演じたエセル・ロッホはアルゼンチンで超有名なバラエティショーのスターなんだそうです。本当のスターがスターの役で出演という、ちょっとカメオっぽい楽屋落ちっぽい配役ですか。この人が演じたセレブ女優は、クビにしたからとは言え事情があっただけなのにルイーサに嫌われてしまい「この女優は悪くないやん、いい人やん、とばっちりやん」と、同情して見てしまいました。

それからもうひとり、アパートの管理人ホセがこれまたいい役でして、いい人なんですよホセ。ホセ最高。で、ホセを演じたのはマルセロ・セレという喜劇役者で、テレビドラマで売れっ子脇役らしいです。

貧困のどん底に落ちるルイーサが、世間知らずも相まって突飛な行動に出ます。それが本作の中心部分になるわけですが、コメディなのかシリアスなのか判断不能の妙な展開で、これこそ私が大好物であるところのラテン文学風味。ある種のファンタジーとも取れますが妙にリアリティもあったりして、マジックリアリズムの技法はラテンのクリエーターにはきっと骨の髄まで染みついているんですよ。いいですねえ。

この妙な物語、いったい最後はどういうオチに持ってくるのだろうかと思いながら観る羽目になるかもしれません。
この作品の落としどころ、クライマックスと言っていいのか、その、お話の締めの部分なんですが、意外でもないのに意外な、展開そのままなのに予想外な、でもこのシーン以外にないでしょうと言う当たり前な、そういうシーン持ってきます。
そしてここで初めて今までポップだったカメラは長回しの撮りっぱなし状態となり、役者がとことんじっくり人間を演じて映画の終わりを飾ります。
我が家映画部の面々はこの長回しシーンのカメラアングルとレオノール・マンソの演技に何ものかがこみ上げてきて突如涙腺どばーっ。
な、なんなのだこの心の動きは。
それほど大袈裟な映画じゃないんですよ、ちょっとしたドラマですよ、いったい何がこれほど心を動かしたのでしょう。やっぱ猫か。単に気に入った映画だからかな。不思議です。でもたいそう魅力的な作品でした。

「ルイーサ」はこんな人にお勧めです。
広角系の好きな人、猫飼ってる人、老人映画が好きな人、社会不適合者、貧困人、ラテン文学が好きな人、ラテン音楽が好きな人。年取ってる大人。

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