フェア・ゲーム

Fair Game
「イラクが核兵器の開発を行っている」と吹聴して戦争を強行したブッシュ政権の最大スキャンダル、プレイム事件を描いた政治的社会派映画。政治的社会派と言えばこの人、ショーン・ペン。そして監督が「ボーン・アイデンティティ」のタグ・リーマン。愛しの君ナオミ・ワッツがプレイム役で好演。観る人を選ばない実話ベースの政治サスペンス。
フェア・ゲーム

911の復讐の矛先がなぜかどういうわけかイラクに向いて、さらに「やつらは核兵器を開発している」というデマに発展、これをブッシュ政権が声高らかに吹聴しまくり、アホメディアがこれに乗っかり、ついでにイギリスや日本といったアメリカの靴底を舐める子分にして家来にしてペットである金魚の糞国家が同調して大騒ぎ、イラク戦争へまっしぐらに突き進んだ21世紀人類の恥ずかしい過去、これを忘れることはなかなか出来ません。

プレイム事件というのは、この「イラクが核兵器の開発を行っている」というデマが「説」を超えて本気でばれたきっかけとなったアメリカ合衆国の恥ずべき事件です。
どのような事件かと言いますと、それはつまり、この「フェア・ゲーム」のままです。プレイム事件の説明はそのまま「フェア・ゲーム」のストーリーの説明なので、詳しくは映画を見ればわかるので割愛します。

今となっては「イラクが大量破壊兵器を開発して所持している」というデマを信じているのは世界中で小泉元首相とその心棒者だけですが、当時だってこの嘘をまともに受けとっている人間がどれくらいいたかは謎です。「嘘つけ」とみんな言ってましたからねえ。

政治的公共事業や有事の際には、いつの世もどんな国でも大嘘がまかり通ります。嘘は大きく嘘っぽいほど愚衆がそれを信じますから、発信する側は嘘くさくても気にしません。もちろんあとでばれても平気です。ばれたことを国民全員が知ることも少ないし、すでに興味の対象外となっていたりするからです。パパブッシュのときの水鳥の映像や、子ブッシュの頃の女兵隊の美談なんか、直後に嘘がばれても大勢に何ら影響なかったですしね。

日本でも例えば戦後すぐの「アメリカの偉いさんが日本の文化が好きだから守ってくれた」プロパガンダとかを未だに信じている年寄りがいますからね。現代でも放射能安心デマを信じているおめでたい人だってたくさんいます。国民を騙くらかすことなど簡単です。

「フェア・ゲーム」の冒頭でいろんなテロ攻撃の恐怖を煽ってるシーンの中で「原発が攻撃されたらおしまいだ」というセリフがあります。そうなんですね。原発が破裂したらお仕舞いなんですよね。それが世界の常識です。ですが日本だけは最近違います。お仕舞いじゃないらしいのです。平気だそうです。

さて「イラクが核兵器を開発している」件は、CIAの調査でも会議は小一時間で終わり「捏造」とあっさり結論が出ていたようです。証拠書類は捏造、証拠とされたアルミ管も全然違う目的のもの、ということです。アルミ管に関しては映画内で会議シーンがあって、面白いシーンとなっています。

「フェア・ゲーム」はプレイム事件の当事者ふたりが書いた本を元に作られた映画です。CIAエージェントの妻ヴァレリー・プレイム・ウィルソンと元外交官の夫ジョー・ウィルソンです。タイトルの「フェア・ゲーム」はヴァレリー・プレイム・ウィルソンの書名から付きました。ふたりの主張に関しては保守派からの反論もあるようですが、本当のところはもちろん誰にもわかりません。しかし反論している連中の顔ぶれを見ればだいたいどちらが言っていることが信頼できるのかぐらいはわかります。

夫ジョーを社会派にして演技派ショーン・ペンが、妻ヴァレリーを素敵な(主観)ナオミ・ワッツが演じます。いやはや、流石のお二人です。ふたりとも完璧です。
ショーン・ペンなんかはもうね、社会派が服着てるような俳優なので、この夫役がハマりすぎで笑えます。いえ笑ってる場合でもありませんが。

ショーン・ペン演じるジョーのようなそっち系リベラル人間を頭の弱い連中が罵るときに必ず「共産主義者」と言います。古今東西、このアメリカ発祥の罵倒語は20世紀が発明した大ヒット用語です。面白いです。「共産主義者」と誰かが罵るとき、その意味するところは「民主主義者」と等しいからです。大抵のリベラル人間は民主主義者で、言ってることも民主主義的なことです。これが共産主義に思えてしまうというのは、つまりそういう連中にとっては民主主義と共産主義は同じであるということです。さらに、この言葉で人を罵るのが好きなやつは大抵自称「資本主義者」でありますから、はからずも「資本主義と敵対するのは民主主義である」と、実は正しいことを言ってるわけなのですね。資本主義と民主主義は敵対する概念ですから、資本主義心棒者が民主主義を嫌うのはこれは当たり前のことなんです。でも一応建前上文明国は民主主義でこれが善しとされていますから大っぴらに声に出せない、そこで民主主義を共産主義に置き換えるというわけです。置換というのは精神分析の基本のひとつです。
民主主義者に対する攻撃を「この共産主義者め」でなく、正しく「この民主主義者め」と言えるようになったら、症状が多少回復しているという判断になることでしょう。

日本では、というかネット上でたまに「左翼め」という言葉も見かけますが、これは「共産主義者」がさらに「左翼」に置換され、ますますもって意味不明な、罵倒にすらなっていない妙な言い方になりまして、これなどは精神分析的には症状の悪化と見て取れるでしょう。これに対抗した「右翼め」という応酬もありますが、右翼左翼なんてのはよくわからない言葉で、ここまでくると秋の虫の声と変わらぬ、意味を持たない鳴き声の反復としか感じられず分析不能です。

話がそれたので映画にもどしますと、監督が「ボーン・アイデンティティ」のタグ・リーマンです。
ぶっ飛び娯楽アクションをあれほど面白く撮ったタグ・リーマンが、この政治的ドラマをどのように撮るのか興味津々でしたが、この人、伊達や酔狂で映画作ってませんね、押さえるところは押さえ、省略するところはずばっと省略し、安っぽくせずにしかも面白く作り上げました。

政治的な映画を面白く仕上げるというのはこれは大事なところです。こういうことをあまり知らない人にこそ見て貰いたい映画であるのだから、一部の人間の同調よりも多くの人間の驚きを得られるよう目指さなければなりません。それには娯楽作品作りの技術が必要で、この監督にはそれがあります。

今回はちょっと調子こいて、自分で撮影なんかして手持ちカメラのドキュメンタリー風なんかも取り入れてますが、サスペンスフルだったりドラマチックだったりする部分も嫌みなく含めながらどなた様にもご覧いただけるよう細心の工夫がなされています。

実名ばんばん出のちょっと前の時事問題、イラク戦争の事実の一端、政治サスペンスと夫婦のドラマ「フェア・ゲーム」でした。気軽に観れて大層面白い当たり映画。日本は現在内乱状態で他所の国の戦争など最早興味の外って感じでしょうが、面白いのでぜひどうぞ。

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