夏の終止符

Kak ya provel etim letom
夏の終止符
公開年:
2010
製作国:
監督:
脚本:
撮影:
  • パヴェル・コストマロフ
出演:
  • グレゴリー・ドブリギン
  • セルゲイ・プスケパリス

北極の観測所に赴任しているベテラン男と新米野郎の二人の物語。昔気質の職人親方風の厳しい男セルゲイに対して、新米君は今風のへなちょこうじうじ男、このへなちょこ野郎がしでかす罪の連鎖を描く一夏。

夏の終止符

毎度毎度の受賞に輝くロシアの星アレクセイ・ポポグレブスキー監督の2010年作品。

「夏の終止符」の舞台は北極圏のどこかの島。観測所に赴任している二人の男です。百葉箱の放射能の数値を読み記録し定期的に本国へ無線連絡します。新米の若造パベルと長年の熟練者セルゲイの二人のお話です。

冒頭は若造パベルから。ぼんやりしていたり強い放射線を出す謎の機械を発見したりするシーンです。ガイガーカウンターを棒きれの先に括り付けて数値を見てびっくり腰を抜かします。
放射能が無害で危険がないと言っている国は世界の中で日本だけなので日本人がこのシーンを見ても「何を怖がってるんだろう。レントゲンと同じように安全なのに。変なの。風評だな」と思うことでしょう。でも実際は危険であるので、このシーンは危険な物体を見つけて驚愕するシーンであると合点しなければなりません。

さて若造パベルですが、序盤はポップソングに乗って無邪気にはしゃいだり景色に見とれたり退屈がったりしていますし、わりと男前で格好もワイルド系なものだから、元気のいい若者かと思ってしまいます。若者の青春系の映画かなと。でもだんだん正体がバレてきます。ちょっと描写的にわかりにくいのですが、どうやら今風のなよなようじうじへなちょこ発育不全のオタク男のようなのですね。叱られればムッとするし、言いたいことがあってももごもごと口ごもって上手く言えません。図体は大人なのに子供のように飛んだり跳ねたりしてきゃっきゃと楽しむ幼児性が抜けず、相棒のベテラン男との大人の会話もできません。そういう男です。

相棒セルゲイは観測所に長年いるベテランで、昔気質な親方風人間です。寡黙で無骨ですが優しく親切で実は会話好きだったりします。妻と子供をこよなく愛していて、奥さんからのメールを心底喜んだりします。そして荒井注に何となく似ています。「なんだ馬鹿やろう」って言いそうです。仕事は完璧にこなしますが時にサボって遠方までマスを捕りに行ったりします。

そういう二人の一夏を描く「夏の終止符」です。仕事映画でしょうか。青春映画でしょうか。おじさんと若造の心ふれあい物語でしょうか。

一見はたらくおじさん的職業映画かと思いがちですが、観測所の仕事に関する描写は丁寧なものの、観念的なところもあり、さほどリアリティをもって描かれるというわけでもありません。

捕ってきた北極マスをさばくシーンはアップでぐいぐい見せたりします。上手にさばいて塩を揉んで干します。これがまあとてつもなく旨そうで「くれー。それくれー」と心で叫びながらマスのシーンを見ることになります。妙なところにリアリティあります。

さてどんなふうにお話が展開するかと思いきや、ちょっとした事件から胸騒ぎが起き始めます。ベテランセルゲイがある日マス捕りに出かけます。パベルに「ちょっとマス捕ってくるから、本部には適当に答えとけ」と言い残します。これがまあ間の悪いことに、マス捕りに行っている間に本部から緊急の連絡が入り、セルゲイにとって大変なことが起きていると知らされるんですね。

伝言を頼まれた若造パベルは気が気ではありません。早くセルゲイに知らせなければ。本部には適当に嘘言っとかなくては。で、その上仕事上のミスもちょっとやっちまいます。

マス捕りから帰ったセルゲイは上機嫌でマスをさばき始めます。あまりの上機嫌さにセルゲイにとっての緊急事態を伝えるきっかけを失うパベルです。ここが映画中いちばん難解な部分です。見ていると「はやく伝えろや。何やっとんねん」と思ってそわそわうずうずします。なぜ伝えないのか意味がわかりません。このあたりで初めて「コミュニケーション能力の欠如した大人子供のパベル」に気づきます。セルゲイの上機嫌さにほだされて何も言えないんですね。さらに、その直後に仕事のミスの件でこっぴどく叱られてしまいます。大人子供パベルは叱られたら憎むタイプです。で、重大な伝達を伝えることをやめてしまうんですよ。ここから馬鹿野郎パベルの嘘の雪だるまが転げて膨らんでいきます。勝手に心配し、勝手に憎み、勝手に怖がり、勝手に逃げ惑います。幼児のような貧弱な思考です。挙げ句の果てに取り返しの付かない重大犯罪まで犯します。

さて放射能で汚染されたお魚と言えば日本です。普通の世界では放射能で汚染された魚は食べるものではありませんが日本ではあほ面下げてぱくぱく食べます。汚染物質は全国拡散させてみんなで食べて集団自殺というのが国策で国民の目標ですがそんな狂人の国は宇宙の中で日本だけです。ですので汚染物質を人に押しつける重大犯罪のシーンを見て「何でもないことだな。風評だな」と首をかしげるのもわかりますがここは「酷いことをやってしまった」シーンなので日本の常識だけで暮らしてるひとは合点しておく必要があります。

いったい全体この「夏の終止符」はどういう映画だろうか。と、見終わってもなかなか一筋縄な感想にたどり着けません。絶望的でもないしほのぼの系でもないしいい話でもないし怖すぎる話でもないし淡々としているわけでもないけど大袈裟なわけでもない。なんだか不思議な作品です。

セルゲイがいい人すぎて、パベルがアホすぎて、北極圏の景色が美しすぎてくらくらする映画です。この景色の描写だけでも十分に観る価値がある作品でした。

2010年ベルリン国際映画祭銀熊賞男優賞と芸術貢献賞受賞作品。

[広告]

コメント