ちいさな哲学者たち

Ce n'est qu'un début
幼稚園ドキュメンタリーです。パリ近郊の教育優先地区で行われた幼稚園での哲学の授業、その試み2年間の軌跡。 人間は考えるちびっ子である。
ちいさな哲学者たち

幼稚園児に哲学の授業を行うという興味深い試みです。教育特区というか、優先地区で行われたこの試みを2年間記録したのが「ちいさな哲学者たち」です。
この教育優先地区での試みについては ちいさな哲学者たち 公式サイト の、このあたりに詳しく載っています。

追記:残念ながら公式サイトは消滅していました

フランスはあれですね、やっぱり文化方面には力を入れるんですねえ。前に観た,これはドキュメンタリーじゃないのですが「パリ20区、僕たちのクラス」ていうの教育現場の映画を思い出しますが、他国の教育現場ってのは見ていてたいへん興味深いです。

「ちいさな哲学者たち」は、ナレーションを廃し、淡々と授業風景が映し出される編集となっていまして、想田和弘監督の「観察映画」にちょっとだけ近い、まさに園児を観察しているような作風です。ドキュメンタリー映画としてここは大きく評価できるところです。

180時間に及ぶ素材から編集された本作、だいたい予想できるとおり、ちびっ子たちのハッとするような言葉に満ちていて非常に楽しい映画となってます。180時間のうちのいいとこ取りだから当たり前ですが、それをもって「いいとこ取りだから価値なし」と見ることも、また素直に受け取りすぎて「子供たちって超賢くて素晴らしい」と手放しで絶賛するのもどちらも偏りすぎる感想だろうと思います。というか、そういう判断よりも、普通にちびっ子映画として見るのがMovieBoo的鑑賞法です。変な言動に満ちていて、いっちょ前で、おかしくて可愛いです。ちびっ子映画としてたまらんものがあります。

子供たちの個性も出まくりです。ある子は空想とファンタジーに生きていたり、ある子は物語の世界に生きていたり、言説にそれぞれ特徴があります。
親子の会話も面白いです。親「次の哲学の授業はどんなテーマがいい?」子「”親は役に立つのか”」笑えます。

哲学教育の成果が明らかに出ていることには注目すべきで、いいとこ取りとはいえ、たいへん高度な言葉が飛び出しているのは紛れもない事実です。子供は馬鹿じゃないし哲学的思考もしているのですが、それを言葉として発する機会はそうそうありません。今後こうした教育が社会に貢献をもたらすだろうという予感はあります。

幼稚園児の言説を「親が教えたんだろ」とか「先生の真似してるんだろ」と言うことも出来ます。子供はすぐに親の口まねをして、それが大人っぽければ大人っぽいほど大人に受けますから、受けたと知るやますます調子に乗って大人っぽい言葉を発したりします。
ですがそれをもって「意味なし」とはなりません。意味がわかっていないと言いきることは出来ないし、「まず言葉ありき」ですから、言説が先で意味がついてくるということもあります。
ミシェル・フーコーが定義するように、そもそも言説には社会的文化的な集団との結びつきがあって規定されるという性質があります。普通に大人であっても、言説はおろか思想すら、社会的文化的集団からの結びつきで発生するもので、そういう意味で幼稚園児だろうが大人だろうが同じです。小難しいことを借りてきた言葉でたらたら喋る大人も、親の口まねをする幼稚園児と何ら変わるところはないということです。もちろん映画レビューだってそうです。あなたもわたしもみんな幼稚園児なのです。ばぶー。

さて、哲学的テーマは愛から生死感、宗教、差別、自由とは、と様々な方面へ広がります。先生の誘導もいい感じで、放っておくわけでも無理矢理押しつけるでもなく、わりと絶妙な立ち位置で立派です。
幼稚園児の哲学教育には教育者の資質が非常に重要なものとなるでしょう。大人だってアホみたいなやつがうじゃうじゃいるのだから、下手な先生についたら目も当てられないことになりそうです。

子供たちの集中力を高め、特別なことをしているという自覚を与えるために先生はろうそくを灯します。この儀式が定着し、ろうそくを灯せば集中するという癖が子供たちにつくわけですが、このろうそくというのはちいさな炎でして、これは原初から意識を解き放つのに最適なアイテムとして人類が大好きなもののひとつです。
人間が作り上げたこうしたトランス系アイテムは文化文明にとって不可欠なものです。ろうそくにミニマルなリズムでもくっつけば哲学を通り越してイマジネーションの世界に旅立ってしまいますが、トリップする直前の脳味噌高揚状態をキープするには揺れる小さな炎が最適です。

これを大人が体験するのが煙草です。出た煙草。
そういえば最近Twitterで嫌煙映画評ブログをおもしろがってRTする人がおられるんで、時々覗きますと、喫煙シーンのある映画を貶し、ない映画を褒めてるだけのちょっと危ない人のブログで、でもなんかおもろいんで、そうだあれの逆をやったらどうだろとちょっと思ったりしましてですね、これからは煙草が出てくる映画をただそれだけで褒めちぎったり、そういうスタンスで貫いたろかと思ったんですね。

そしたらですね、なんとMovieBooはずっと前からすでにそうでした(^o^)/

なんだ危ないやつはおれだったのかー。と気づきましてですね、話がそれました。

「ちいさな哲学者たち」の先生や親はどうみても煙草とか嫌いそうですが、ろうそくを利用したその理由を深く探求しますと、煙草との共通点が見えてくるということは明らかでして、原初のトランス直前状態を作り出し思考能力と集中力を高めるアイテムが文化文明に必要不可欠なものであるとわかってくることでしょう。

無関係な話はともかく、この「ちいさな哲学者たち」は、新しい教育の方向性を考える上でも意味のある作品で、映画的にどうのこうのっていうのは置いといて、普通にテレビサイズでご覧になっても全然問題ない軽いドキュメンタリーです。ちびっ子映画としても楽しめます。

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コメント - “ちいさな哲学者たち” への2件の返信

“ちいさな哲学者たち” への2件の返信

  1. 映画選びの参考にさせてもらってます( ´∀`)

    ありがとうございます。

  2. あっ。コメントありがとうございます。そんな風に言ってもらったら嬉しゅうございます。私もたまご大好きです。

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