少年と自転車

Le gamin au vélo
少年と自転車

社会と人間を描かせたらこの人たちの右に出るものがいないという、ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟、この巨匠兄弟監督の2011年新作はやっぱり受賞の「少年と自転車」です。揺さぶられてください。

少年と自転車

いやあ、やっと見れた。忙しくて見に行く時間がとれなかったので半ばあきらめていましたが、上映館を探したらまだやっている場所がありました。車を飛ばして、ちょっとだけ遠方まで見に行きましたよ。ついでに鹿とか日光・月光菩薩様なんかも鑑賞しながら。もちろん遠くまで行った甲斐がありました。間に合って良かった良かった。

ダルデンヌ兄弟の映画は、ちょっとばかしドキュメンタリー的なタッチで淡々と出来事を綴るという特徴があります。ドラマの演出から一切の臭みとわざとらしさと押しつけがましさを排除して、単純明快な出来事と言葉で人間のドラマとかその背景にある社会なんかを表現し尽くすんですよね。
その威力たるや凄まじいばかりでありまして、個人的には「ロゼッタ」「息子のまなざし」「ある子供」の三本は世界映画史上に刻まれるべき大傑作と思っております。

もう一つの特徴は、きつい現実とゆがんだ社会の中の絶望的な人間を描きながらも、最後の最後にはわずかな希望を感じさせてくれるという、そういう愛に満ちた作品になっている点です。このあたりが他のヨーロッパの辛い系監督との大きな違いです←辛い系監督って・・・

そういう認識でいたものですから、前作「ロルナの祈り」を観に行ったときは心底驚きました。
ダルデンヌ兄弟はん、あんた方もついに社会を覆う絶望に勝てなんだか、と思ったわけです。最後の愛の砦に見放されたかのような絶望感を感じたわけですねー。

そんなわけで「少年と自転車」、これがかつての作品のように愛とわずかの希望を感じさせてくれる作品なのか、「ロルナの祈り」のような絶望に包まれる作品なのか、そのあたりが予想できぬまま観ることになりましてですね、不謹慎ながら、だからこそ最後の最後まで一切気が抜けず、とてもとてもおもしろく観ることができました。

もちろん愛と希望を感じさせてくれたのか、絶望につつまれたのかは言及しませんよ。ドキドキして観てください。・・・なんか、そういうの、この映画の正しい見方じゃないような気もしますが。

「少年と自転車」は、いい加減な父親に捨てられた少年と、ひょんなことで週末だけの里親になった女性の物語です。途中、ものすごくいい感じのお友達候補の少年や、不良少年なんかが絡んできます。

相変わらずずば抜けた表現で少年のドラマを描きます。言っておきますがすばらしい作品でした。他に言う言葉はありません。
ダルデンヌ兄弟の最新作ということで、これまでとほんのちょっと変わった点もありました。

ちょっと変わった点のひとつは音楽です。なんと随所に音楽を使ってくるんですよ。これまでそんなんありましたっけ。「ロルナの祈り」でピアノの曲がなってたかな。どうだっけ。忘れた。いやまあしかし、要所要所のドラマ的盛り上がりの際に音楽をつけるとは、これはダルデンヌファンの間で論争になりませんか?なりませんか、そうですか。

ちょっと変わった点のもうひとつはすごい動きのカメラです。ドキュメンタリータッチの手持ちカメラでぶっきらぼうに撮ったようなのが特徴的なダルデンヌ作品なのに、一部とてつもないスピーディーでテクニカルな撮影部分が目を引きます。ええそうです。自転車で疾走する少年をずっと追いかけるあのシークエンスです。あれ、すごかったですねえ。あれはあれですか。やっぱり延々とレールを併設して撮ったんでしょうかねえ。音もすごかったですね。自転車の音と周囲の音のバランスが神がかっていたように思います。

音楽といい、めまぐるしいカメラといい、この作品は前作よりさらに観やすいよう配慮しているように感じます。文芸映画慣れした一部の人向けじゃなく、より多くの人にアピールしようとするこうした方向性、私は支持できますよ。初期のどえげつない作風のほうが好きと言えば好きですが。

さて。捨てられた少年シリルを演じるトマ・ドレです。
よくこんなぴったりフィットの少年を見つけて採用したものですね。子供のようなあどけなさや可愛さもあって、思春期直前の捻くれ具合もあって、不良少年の悪さや怖さもあってですね、複雑なシリルを見事に演じきりました。

ジェレミー・レニエが少年の父ちゃん役で出ています。こないだDVDで「イゴールの約束」観たばっかりだから変な感じです。オリヴィエ・グルメは居酒屋の店主役で出てました。

それから名女優セシル・ドゥ・フランスです。この人大好き。どういうわけかこの人の出ている映画をいくつか観ていて、そのたびに「この人知ってるなあ誰だっけ」と思い「あほセシル・ドゥ・フランスやんか」と言われて気づくという、そういうのの連続です。この方はまあ、レズの青春娘や殺人鬼から、田舎から出てきた給仕さんから、シスターから、超能力者から、いろんな映画にいろんな役柄で出ておられてます(Movie Boo内のセシル・ドゥ・フランスの記事
「少年と自転車」でのお姿は、最近の「ヒアアフター」にも近い、ナチュラルな感じでとっても素敵です。ぼくもこんな素敵な人に里親になってほしいです。

セシル・ドゥ・フランスとトマス・ドレ
セシル・ドゥ・フランスとトマス・ドレ | IMDbから

カンヌ国際映画祭 審査委員特別グランプリ受賞。ヨーロッパ映画祭 脚本賞。

2012年春に「少年と自転車」公開を記念して、過去作品三作が廉価DVDで再発売されました。その件は以前日記に書いたのでこちらでどうぞ→「少年と自転車」公開でDVD再発

と、思っていたらこの「少年と自転車」も10月にDVD発売ですね。ありゃ。もうすぐですね。

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