ルート・アイリッシュ

Route Irish
兵隊派遣の民間会社に所属し、イラク戦争やアフガニスタンに出向く傭兵たちにスポットを当てた「ルート・アイリッシュ」です。彼ら民間兵の無様で病んだ暮らしを描くケン・ローチの社会派鬱々ドラマ。
ルート・アイリッシュ

「ルート・アイリッシュ」は2012年に日本で公開されましたが2010年の作品です。DVDになるのは早いですがそもそも公開が遅いです。
昨今どころか近年日本を覆い尽くす政治不況は深刻を極め、映画を見るどころではないという一般庶民の絶望的状況は「旬の映画がやって来ないから観ない」という悪循環も定着させています。このままでは遅れてやって来るどころか、ぜんぜん日本に入らないという状況に陥るのも時間の問題かもしれません。しかしそんなのは今後の生存や存続さえ怪しい我が国ではまだまだ甘い危機意識かもしれませんがどうだかわかりません。

「ルート・アイリッシュ」は、兵隊派遣の民間会社に所属する経済兵隊たちの物語です。
戦争というのはお国のために国民の一部が軍人となって他国民を殺害するのが常ですが、昨今は民間会社も参入し、他国民殺しの民営化というまことに末期的資本主義社会らしい気色の悪い構造改革も果たしております。
民営の兵隊業者は、正式軍人をサポートしたり一緒になって殺人をやったり被災国の利権を貪ったりする仕事を請け負います。

そんなわけで、特に愛国心とか思想的な理由ではなく「ギャラがいいから」と兵隊屋さんになった男が主人公です。
主人公の親友も誘ってイラクに行ったりしていましたが、その親友がイラクで死亡、帰国している主人公は親友の死に不信を抱き、汚らしい下衆な陰謀を暴こうと奔走します。

主なテーマは、イラクで起きているどろどろの状況、金儲けのためになりふり構わぬ民間会社、兵隊になってイラクへ行って壊れてしまった人間の狂気と精神病です。
主人公からして「兵隊馬鹿の気違い」ですから、誰にも感情移入できず、見ていて辛いかもしれません。

正直な感想を申しますれば、上記のテーマに関して、深く掘り下げた内容にはなっておりません。割と軽く掘り下げた感じです。せっかく、あまり有名でない俳優を起用していろんなリアルをあぶり出そうとしていた(かもしれない)のに、なんだか妙にドラマチックすぎることや、そのドラマ部分がちょっと陳腐なために、見終わっても「言いたいことはわかるが、こんなものか」と思ってしまったことも事実。
ただテーマに関するケン・ローチ監督の思想や思いは十分伝わりますので、あまり悪くはいいたくありません。

社会派と言われるケン・ローチですが、作品はあまり見ていません。「麦の穂を揺らす風」が素晴らしかったので、ちょっと期待値が高すぎたのかもしれません。期待値が高すぎてがっかりする場合、その責任は作品にはありません。こちらの姿勢のせいです。

文句があるのは、兵隊稼業で心が病んでいる主人公の、その病み方の表現が「格好をつけている」風にしか感じられなかった点や、帰国後の生活描写が観念的過ぎる点、馬鹿な兵隊のくせに割と薄い正義感や道徳心を保ち続けている不自然さ、彼女の職業がエアロビのインストラクターだった件(これには笑った)など、細かい部分です。

民間の兵隊屋さんに注目した点は評価に値しますが、イラク戦争については、デ・パルマの「リダクテッド 真実の価値」のほうを個人的には好みます。いや、全然違う映画ですから比較するのもなんですが。

つまり私の評価は低いですが、それは個人的な好みや「深くリアルに表現してほしかった」という完成作品と無関係の勝手な希望的妄想のせいであるからして、全くあてにはしないでくださいということをここで強く言っておきたいと思います。

問題を突きつける系の鋭い作品を期待するのではなく、友人の死の謎を追うスリラーとして楽しんで観るほうがいいです。特に社会派映画などと思わず、観ているうちにだんだんと社会問題が地の底を這っていることに気づく、という、そういう程度であれば面白いのではないでしょうか。
つまり「ルート・アイリッシュ」の理想とするお客さんは、一般の方々です。
小難しい社会派や思想派やミニシアター派や映画に苦痛を求める映画マゾではありません。

あまり社会派社会派言わず、こうした映画が「普通の映画」として普通に上映され普通にみんなが観るような、そんな社会だったらいいのにねなんてことを思いながら今日はこのへんで。

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