幸福の罪

Nevinnost
幸福の罪
公開年:
2011
製作国:
監督:
脚本:
主演:
  • オンドジェイ・ヴェトヒー
  • アナ・ガイスレロヴァ
  • ハイネック・カーマク
出演:
  • ミロスラフ・ハヌーシャ

幸福な家族に舞い込む事件と顛末。唐突に訪れるある事件のために、ある家族を不穏が包み込みます。家族や元家族の愛のドラマであり、犯罪と事件のミステリーであり、秘められた性癖の心理劇であり、裏切りとどんでん返しのサスペンス劇場であります。まあその、それだけじゃなく、いろんな意味で不可思議なチェコの映画。

幸福の罪

「チェコを代表する若き巨匠」ヤン・フジェベイク監督作品です。「若き巨匠」というのはレーベルの宣伝文句です。もうこの言葉だけで何かどこかが破綻しておるように感じるわけですが、「幸福の罪」という映画そのものも、何かちょっとこう、変な印象を残す作品です。

全体的にはある家族の物語です。大人の姉妹がいて姉ちゃんのほうはお医者と結婚して娘もおります。妹のほうは未婚で、病院の慰問などを生業としているようですね。冒頭ではピエロの扮装で患者たちをリラックスさせたりしています。
そしておじいちゃんがいます。おじいちゃんはちょっとだけボケていて可愛いです。

冒頭はこの幸せそうな家族がスナップ写真を撮ったりしているシーンですが、冒頭なので何のことやらわかりません。誰が何かもわかりません。理解できぬままの冒頭の家族団欒シーンからすぐにピエロの格好や医者に移ります。さらに警察官や障害を持っている男の子が出てきますから「誰?誰?何?何?」ってなります。ですが間もなく事情が飲み込めるようになってきます。

医者は姉の旦那で、ピエロが妹ですね、刑事は姉の離婚した元亭主です。で、元亭主の刑事との間に生まれたのが障害を持っている男の子で、この子の面倒を見たりしますから人としての付き合いは続いています。このあたりの事情はさらにちょっと複雑で、つまり離婚した原因に関する事情と、それから新しい旦那、医者の旦那ですね、この男と刑事の関係なんかが後ほどドラマの中で明らかにされます。

そういう人々が絡んだ中で、ある一つの事件が起きます。
姉の旦那でお医者の男、この男がですね、少女に対する淫行容疑で逮捕されるんです。これが「幸福の罪」における事件です。この事件によって、家族の幸福は危機に瀕します。冤罪か、ロリコンか、と、そういうシナリオ上の最初の問題が発生します。明らかに冤罪っぽいですが、でもこのお医者はロリコンかも知れぬ、そういう描写がちらりとあったりして、不信感は観ているこちらと同様、妻である姉の心を苛みます。
元亭主の刑事はこの事件を直接担当します。そこにも不穏な事情が垣間見れます。

まあ要するに、一見幸せな家族がロリコン疑惑を発端にいろいろと多方面に雪崩れていくというドメスティックスリラーであります。二転三転してミステリー的な進行もあって、なかなか面白いです。

でもですね。違うんです。
面白さはそこだけじゃないんです。
この映画、とっても変なんです。その変な感じが面白いんです。なんか、どう受け取ってよいのやらわからぬような、不思議なテイストとディティールに満ちています。

例えば、冒頭から序盤に一番活躍する障害を持った息子です。とても丁寧にこの子を描くので、最初は最重要登場人物と思ってしまいます。ところがあれほど丁寧に描いた息子、後半全く出てきません。映画を見終わって「おいあの子どうなったんだ」と気づいて、なんでもない役だったと改めて気づき「では何のためのあの前半のしつこい描写だったのだ」と不思議気分に浸れます。

例えばロリコン容疑での逮捕騒動ですが、警察の動きがとても不自然です。「そんな警察おらんやろ」てな杜撰な捜査であっさり逮捕です。

例えば真面目な顔をして「ペニスが小さすぎる男の場合は被害者少女に痕跡が残らない可能性もある。陰茎を計らなくてはならない」と、陰茎を測定するシーンに移ったりします。「そんなあほな」と思いつつ面白いので見続けます。

例えば元亭主の刑事と元妻が言い争いをします。この嫁はん、けっこう性格悪いです。で、ぽんぽん元亭主を罵ります。元亭主は捨て台詞を残してキッチンへ消えていくのですが、消えた先のキッチンでこっそり泣いています(涙)一瞬、池乃めだかを彷彿とさせます。このシーンはほんと最高です。

例えばエピソードのひとつとして、別件の凶悪事件が出てきます。で、この事件の犯人が意外にも何度か登場するのですが、なんと最後は楽しそうに刑務所でピンポンしております。このシーンも実によろしいです。本作中、最高のシーンでした。ここメタクソ面白いので見逃さないようにね。

と、このような味わい深いシーンがたくさんあって、本編の進行に華を添えます。ちょっと普段見慣れたサスペンス劇場にはない不思議な面白味です。そうそう、ちょっとだけボケ始めているおじいちゃんもとてもいい味を出しています。
一体全体、この映画は真面目なのかふざけているのか、いや多分真面目なんですけど、そこはかとなく漂う「変な感」のせいで、何となく印象に残る一本となりました。

配給元は「若手の巨匠」とか、わけのわからないキャッチコピーを付けましたがわけのわからないキャッチコピーを付けたくもなるというものです。

というわけで秘密を探るべく「若き巨匠」ヤン・フジェベイクを検索してみます。

チェコを代表する映画監督で映画賞も受賞、チェコ人の多面性のある性格を自嘲的にユーモアを伴って表現することに長けた人らしいですね。そうかー。やっぱり、この独特の変さは監督の意図したとおりの演出だったのかーっ。さすがだーっ。
1967年生まれということで、40歳代半ば、巨匠の年齢でもありませんがちっとも若くありません。
日本では2000年の「この素晴らしき世界」が知られています。
いやあ知りませんでした。失礼しました。ものを知らないっていいですね、知ることができますから。

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