アパートメント:143

Emergo
ポルターガイスト現象に悩む父子家庭宅に、解決屋の三人がカメラをたくさん携えてやってきます。「リミット」のロドリゴ・コルテス製作・脚本ということで要注目のPOVホラー。
アパートメント:143

またもや主観視点POVによるホラー。もういい加減にしてほしいなんて思ってる人もいるかもしれません。
でも「リミット」で喝采を受けたアイデアマンのロドリゴ・コルテスが脚本・製作ということで期待せずにはおれませんね。

後で知ったところによりますと、ロドリゴ・コルテスは最新作「Red Lights」のリサーチ最中にこのお話を思いついて、それで、似たテーマの映画を自分が監督するのもどうかと思い、脚本を書いてプロデュースに廻ったそうです。
ロドリゴ・コルテスも十分に若いくせに「若い監督にもチャンスを与えようと思って」みたいなことを言っています。おいおい偉そうだな、と思ってはいけません。偉そうにしているのもありますが、スペイン映画業界の盛り上げに一役買っていると思えばいい話じゃないですか。

というわけで抜擢された監督はカルレス・トレンスという人で、どういう人かよく知りません。面白い短編映画を作っていて認められたんだとか。

「アパートメント143」という映画は、ポルターガイストとその調査のお話です。
母を失った父、娘、弟の三人家族が住んでいるアパートにポルターガイスト現象が起きまして、これの解決のために雇われたのが三人組の調査団です。
この調査団、それはそれはたくさんのカメラを持ってきまして、家中に設置します。
本作のキモはこのたくさんのカメラによるPOVであるってところです。

ネタの尽きた感もあるPOVですので、おいそれと斬新なアイデアは浮かびません。
たくさんのカメラによるPOV集合体のようなこの技法自体には新しさはありません。例えば「Look」がすでにそれをやって面白い映画を仕上げていますし。

ただ「アパートメント143」に特徴があるとすれば、このマルチカメラPOVを、激しく徹底的に居直り的に多用しまくったところにあると言えます。
「やったるでー。徹底的にやったるでー」って感じです。やるからにはとことんやるというその姿勢はわりと斬新で、それは上手くいっています。

それに付随して、もうひとつ斬新な特徴があります。POVなのにリアリティを追求しないその姿勢です。リアリティを追求しないPOVとはなんぞや、そんなのに意味あるのか、あります。

そもそもビデオカメラによる主観映像のPOVは、リアリティというか、ドキュメンタリータッチというか、本当感というか、そういうのを目指した技法です。その技法が珍しい頃には成功を収めますが、みんながこの技法に慣れてきて、だんだんそうはいかなくなってきます。当たり前ですが、本当のドキュメンタリーではないからです。

POVでは嘘のお話を本当のお話みたいに思わせる効果を狙いますが、すでにその効果はありません。
そこで今時の映画人は次のステップに進みます。
ひとつはギャグとして昇華することで、これは「トロール・ハンター」なんかが該当します。
もうひとつは居直ってしまうことで、これが本作「アパートメント143」です。居直っていてもギャグにはしていません。いえ、一部笑える部分もありますが、「本当のように見せる」ことから脱却し「ドラマの面白さを追求する」ための技法という姿勢に変わります。

ちょっとややこしい話ですが、「リミット」における携帯電話の扱いに似ています。主観視点を、「偽ドキュメンタリー風」ではなく、「ドラマを描くための必然」として用意しているところがポイントです。

例えばですね、家に設置されたカメラの映像って設定なのに、映画的にはびっくりシーンでちゃんと効果音が付いたり、音楽で盛り上げたりします。「ホントの映像」を目指していない証拠です。
では何を目指したのでしょうか。
多分それは映像の面白さです。いろんなタイプのカメラを用意して、カメラの切り替えでお話を紡ぐんですが、それぞれの機種の違いが映像の違いとなって顕れます。荒くざらついていたり、超広角レンズだったりします。
多機種カメラによる映像表現こそこの映画の醍醐味。全ての映像がカッコいいのです。
この映画、実は映像派作品だったのですねー。

世の中、高画質だのなんだのと言うとりますが、高画質なんてさほどの魅力はありません。とくに創作物においてはそうです。みんなざらついて不明瞭だったり、色味が抜けていたり、ダイナミックレンジが狭かったりする映像が大好きなのです。私も大好きです。

カラーフィルムが登場したとき「白黒フィルムはお仕舞い」と言われたそうです。でも全然終わりませんでした。白黒フィルムならではの美しさはカラーフィルム全盛時代でも健在です。
似た意味で、フィルムからデジタルに切り替わったり解像度が上がったりしても、監視カメラや古いVHSの画質の味わい深さは何物にも代えがたいというわけです。

そういうのに映画人が気づいたきっかけを作ったかもしれない中田秀夫「リング」のあのビデオ映像を思い出します。

さて「アパートメント143」のPOVネタとしてもうひとつ特徴的なことがあります。笑うところなのか何なのか、時々、不自然にカメラが動きます。

昔の映画やテレビドラマを思い出しましょう。監視カメラなどで偶然捉えたPOV的演出の映像なんてのは、たびたび描かれてきました。ドキュメンタリーもどきの冒険物なんかにも似たテイストがありましたね。
昔のそういうのって、面白いことに「監視カメラの映像なのにカメラが役者を追ったりアップにしたりする」というものが多くありました。
そういう技術的な部分に気づくような人達のあいだではツッコミを入れて遊ぶギャグと化していました。これを「アパートメント143」では再現します。
設置されたカメラなのに役者のセリフに応じて動いたりします。とても親切です。
設置カメラなのに映画的親切心に満ちている昔映画のオマージュ的なギャグであると同時に、オカルト的には「登場人物以外の何物かがカメラを操作してる」というふうにも取れなくはありません。
いずれにしても、面白くて若々しい試みです。

と、POVの話ばかりしましたのでちょっとだけ内容についてお話しします。

この映画のストーリーはポルターガイスト現象を捉え原因を探り家族を救いたいというものです。
まあまあ面白いですがポルターガイスト物として特にずば抜けた斬新さがあるわけでもありません。
面白さの本当のところはホラーやオカルトテイストではない部分にあります。
それはミステリー、謎解きです。
まあだいたいの心霊現象物は謎解きとセットになっていますが、この映画の謎解きは古き良き探偵物の面白さです。

ポルターガイスト調査団の三人はもともと面白い人達ですが、ボス的存在の「科学者かつ親方かつ精神科医」のおじさん、この人の面白さがラスト近くで炸裂して「名探偵」の側面を発揮します。
物語の構成的にも、古式ゆかしき名探偵の最後の謎解きシーンみたいなのが用意されていて、突如としてつらつらと謎解きがはじまってあれよあれよとなります。
「なんと、この映画はホラーに見せかけた名探偵ドクターヘルザー事件簿であったか」と合点します。
ラストシーンも往年の探偵物みたいに、事件が解決して近所のレストランの話なんぞを談笑しながら去って行くという小気味よいものになっています。

結論として「アパートメント143」はやや捻った見方をすることによって非常に小気味のよい作品とわかる仕掛けが施された映画でした。

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