声をかくす人

The Conspirator
声をかくす人

リンカーン大統領の暗殺に協力した廉で逮捕された女性メアリー・サラットについての史実を元にした映画。

声をかくす人

最近ハリウッド方面ではリンカーンに関するいろんな映画が並んでいますが、この映画はリンカーン大統領暗殺事件についてのお話です。
何人か逮捕された実行犯と共に、彼らの仲間であり宿を提供したりいろんな協力をしたというので、メアリー・サラットという女性が逮捕されて裁判にかけられます。

リンカーン大統領暗殺事件の史実の映画であり、実話ベースの犯罪の映画であり、そして本編の中心は無罪を勝ち取れるのか有罪で死刑になってしまうのかというその裁判に挑む若い弁護士による裁判モノ映画であります。

改めてこの映画の、配給が用意した資料なんでしょうかね、イントロダクションというかキャッチコピーというか、紹介文を観てみると裁判の結果を当たり前のように書いておりまして、まあ、史実なのですから結果はすでにわかっていると言うのでしょうが、それでも裁判モノ映画なのに判決の結果をキャッチコピーにするとはデリカシーのないことです。そう思いませんか?みんながみんなこの女性に関する史実を知ってるわけではないでしょうに。
私はこの映画を観たとき、そういうキャッチコピーの類いを一切知りませんでしたからほんとに助かりました。きっちり裁判の映画として楽しめました。

若い弁護士が挑む裁判の映画でありますが、ただの裁判ではありません。大統領暗殺だからというだけではありませんで、いや、大統領暗殺だからではあるんですが、それはつまり、公平な裁判が行われない状況であるというところに意味があります。裁判も、それからもともとのメアリー逮捕もそうです。陪審員や判事の人選から裁判の進行から何から何まで不穏な気配の中進行します。
社会のムードや上層部の思惑や下々庶民に対するメディア戦略的な厭らしさが、公平であるべき裁判に影響を与えるという、そういうテーマですから、昔話や単なる史実の映画ではなくて、やっぱりすごく現代的なテーマでもあるわけです。

皆まで言いませんが、この不公正な裁判、まったく昔話でも何でもなく、今現在の司法がやっていることとほとんど何も変わらないという、そういうところが社会派映画としての深みももたらします。特に我が国ではそうです。というか我が国の場合、この時代のアメリカ以下と言ってもいいほどかもしれません。
少なくとも表面的には「今はこんなふうではないが当時はひどかった」みたいな描写は、アメリカでは多少成り立っても、日本では無理です。皆まで言いませんが。日本の状況はこの映画を昔話として語れるほどの成熟には微塵も達していないというのが(以下数十行削除)

さて、私はものを知らぬ人間ですので、ロバート・レッドフォードが監督もやっていたとは知りませんでした。しかもロバート・レッドフォードという人をまるで知らぬ癖にに勝手に勘違いしていました。そうです、かつていろんなアメリカのベテラン俳優のことを誤解しまくっていて、ハリウッドの人気スターは全員保守派でライフル協会と友達で共和党のゴロツキとですね、失礼な話ですよね、思い込んでたりしたわけです。この方も何故か勝手にそういう風に思い込んでいたんですがもちろん実際はまったく異なります。
学生の頃こそ野球なんぞをやっていたそうですが、飲酒がバレて中退し、その後は画家を目指してヨーロッパで放浪生活したりしかもそれに挫折して逃げ帰ったりして、その後は舞台美術を学んだかと思えば役者に転向して良い仕事のない下積み生活を何年も続けたりしたという、とても他人とは思えないそういうそっち系の人種の人であったそうです。
そもそも大出世作である「明日に向かって撃て!」とか、ニューシネマのスターなんだからライフル協会と思うほうがどうかしています。アメリカ人を見たら誰でも野蛮な差別主義者と思うなんてのは日本人を見て冨士山芸者銅鑼胡弓と思うくらいにいい加減な連想です。反省します。でもそういうイメージ持ってたのは昔話ですよ念のため。

というわけで「声をかくす人」というタイトルが「扉をたたく人」に似ているという理由で観るのを避けていましたが、観てみたらちゃんとよく出来ている見応え系の良作でありました。なぜ「声をかくす人」という邦題がついたのかわかりませんでしたけど。DVDのカバーアートに入ってるキャッチコピーも内容とズレてます。ちょっと売り手の意図がわかりません。

映像も綺麗だし、ロビン・ライトの演技もしゃんとしていて良いし、良質のドラマに文句はありませんが、良質すぎて優等生っぽい印象もちょっとだけ受けます。あまりにも良質なために際だった特徴が少ないというか、見終わってずっしり引きずるということもありません。いえ、ほんとに良質なドラマなんですよ。これに文句つけるほうがおかしいとすら思うんですけど、でもやっぱり、好み的には、どこか「ずっしーん」と来るような極端な何かがほしかったような気がしないではないのです。贅沢な話です。こんな感想は自分でもどうかなと思います。

裁判に介入するいろんな理不尽を冷静に描いている点はとてもよいです。愚民どものムードや支配層の思惑が、分離しているはずの司法にどのような影響を与えているのか、そういう部分をしっかり見つめる映画となっております。
それから、エヴァン・レイチェル・ウッドはやっぱりええのぅ、と思ったりします。

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