アルゴ

ARGO
1979年イランで起きたアメリカ大使館人質事件のうち、大使館から逃れた6名の救出に関する実話ベースの物語。 CIAが活躍してイランから6名を脱出させます。
アルゴ

「アルゴ」に関しては良いニュースと悪いニュースがあったので、観たいようなどうでもいいような、そんな印象でしたがやっぱり観てみました。
良いニュースというのは、大使館6人を脱出させる方法が「架空の映画製作をでっち上げる」という、とても面白そうな内容であること。悪いニュースというのは、「CIAの大活躍で悪国イランから人々を助ける話」という胡散臭そうな内容であることです。
さらに「アルゴ」はアカデミー賞作品賞を受賞しています。発表には大統領夫人が出てきたのだとか。ここにも二面性を感じたりします。作品賞を獲ったぐらいだから面白いに違いない、という期待と、何だか胡散臭いという怪しさです。

怪しんでいても仕方がないので観てみました。

映画としてはちゃんと面白くて、ドキドキ緊張するし、サスペンス進行で悪くないです。ですがアカデミー賞作品賞って器かどうかは疑問が残りました。
期待していた「架空の映画をでっち上げる」部分に関しては、これはまあまあ期待しすぎたのが悪いんですが、こんなものか、というわりとあっさりした感じでした。

政治的な事件の実話ベースの物語ですので、もちろん実際の事件が気になります。イランでの人質事件は大きな話題だったので誰もが知っていますが、細かいところまでは知りませんでした。

この映画の中で、気になったことがいくつかあります。気になったいくつかの点と同時に、監督や製作の頑張った部分も感じ取れました。とても複雑です。

CIAの活躍を描く実にアメリカ映画らしい作品です。まるでCIAがイイモノみたいです。しかしただ単に馬鹿みたいなCIAヒーロー映画に仕上げてはいません。冒頭にイランに介入するアメリカをちゃんと説明したりします。この冒頭がなければ、まるで印象の違う映画になったことでしょう。冗談めかして「巨悪は出てこないが」とセリフに紛れ込ませたりもしています。
プロデューサーのジョージ・クルーニーはジャーナリスト的な目をちゃんと持っている人なので、わずかにアメリカの病巣を感じ取らせるようなシーンも入れ込んでいます。ベン・アフレックのことは知りませんが、この人もきっと冷静な判断ができる側の人だろうと思っています。

気になったことの中で最大のものは、この人質事件、最終的には400名以上の人質が無傷で解放されたという結果です。誰も殺されたりしていません。1年以上も軟禁状態に置かれ、最期は全員無事です。これが意味しているのは、イラン革命軍側の大人対応です。狂信的な暴力集団ではないということです。イラン側が求めていたのは「パーレビー国王の引き渡し」のみで、アメリカ人を痛めつけるという目的はないのです。
映画では「見つかるとその場で射殺される」などと煽ってイランを恐怖の対象として描きますが、実際には誰も殺されたりしていません。

それを踏まえて、映画の中のあるシーンに対して大きな疑問があります。
イラン側が人質に対して射殺する素振りを見せ恐怖を感じさせるシーンです。
このシーンを見て咄嗟に「これはアメリカ軍人がやりそうなことだ」と思いました。実際にイラク戦争で捕虜に対して似たようなことをやっています。中東の人間がこのような厭らしいことをするでしょうか?こういうことをもしやるときは速攻殺するんではないでしょうか。
袋をかぶせて射殺のふりして恐怖におののかせるなどという心理的な残酷行為を実際にイランが行ったのかどうかは知りません。やったのかもしれませんし、映画オリジナルシーンかもしれません。で、実はイラン側の恐ろしさを表現するシーン、映画の中ではこのシーンが唯一なのですよ。このシーンがなければイランに対して恐怖心があまり沸きませんし、そうなると脱出のドキドキが半減してしまいます。映画的にとても重要なシーンとなります。
このエピソードが実話ならいいんですが(いや良くはないですけど)映画的に付け足したオリジナルシーンであるとすれば、とても納得出来るものではありません。

ということで、実話ベースや政治的な部分で気になる箇所がいくつかあったというお話でした。他にも例えばカナダ政府のことを大胆に省略したり、重要な本体の人質事件の顛末をあっさり紹介するに留めていたりと、細かくいろいろありますがまあいいです。

偽の映画製作をでっち上げて6名を脱出させるという部分に関しては、時代的にSF映画が流行っていた頃だったりしてそれなりに面白く観れましたが、映画的にもっとこうドバーンと面白いのかと期待過剰だったのでやや期待はずれ。6名の個性もさほど表現されません。でも実話ベースの脱出劇だから過剰な期待に添うような話になるわけがありませんでしたね。これは期待しすぎたこちらが悪いです。

でもね、この映画、ドキドキサスペンス映画として仕上げていますから、ドキドキサスペンス的な過剰な演出がいくつかあって、その点が映画自体の面白さを削いでいます。例えば飛行機の離陸を追っかけるイラン軍の車のシーンとかですよ、ただドキドキさせるためだけのアクション映画定番のシーンです。あんなのいりませんって。
それともうひとつあれ、主人公の「別居した家族」設定。あぁ、またこれかー、と正直食傷です。別居した妻とか、あんなのどうでもいいですって。

結局、最も重要なところで、政治的な映画でもなく、架空映画のでっち上げ物語でもなく、アクション映画として決着を見た映画というわけで、このあたりが満足感に繋がらない部分となりました。

もうひとつ気になるところあります。
映画が終わり、エンドクレジットに入る直前に字幕で何やら説明文が出ます。映画本編には文字もナレーションもありません。字幕だけが出ます。内容はCIA万歳アメリカ万歳です。あの字幕、あれはどういうことですか?本編にもちゃんと含まれているものなのでしょうか。ローカライズしただけなんですか?わかりません。
エンドクレジットの最初には、カーター大統領の言葉が出てきます。こちらは本編に含まれます。説明としてはこれだけで十分なはずで、その直前の字幕部分と効果として完全に被るものです。意味や印象は異なります。この二つを両方入れ込む意味がよくわかりませんでした。
もし本編に含まれるものだとすれば、オチを二重に持ってきた意味を感じ取れます。広くアメリカ国民の受けを狙いつつ、制作陣の心意気も少し出さずにおれなかったという頑張りです。実際、どういうことなのかわかりませんので何も思えません。

イランを悪者にアメリカ政府とCIAをヒーローとして脱出劇を描く定番ドキドキアクション映画であると同時に、でも随所に、この問題の原因のひとつがアメリカにあることや、イランが悪者と決めつけることは公平ではないというそういうポイントも入れずにはおれなかったという、そういう仕上がりの映画となっておりました。

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