美しき運命の傷痕

L'Enfer
「ノー・マンズ・ランド」のダニス・タノヴィッチ監督が、クシシュトフ・キエシロフスキーの遺稿「地獄」を映画化。3姉妹の愛の物語。長女はエマニュエル・ベアール。
美しき運命の傷痕

まあみなさん「ノー・マンズ・ランド」見ましたか。あれは凄かったです。めちゃおもろかったですね。面白すぎてMovieBooの感想文はとてもつまらない一文です。けど映画はほんとに面白かった。
で、その「ノー・マンズ・ランド」監督脚本のダニス・タノヴィッチですが、ふと他の作品を知らないことに気づいてちょっと探したら、あまりないのですね。

で「美しき運命の傷痕」観てみました。ダニス・タノヴィッチの脚本ではなく、クシシュトフ・キエシロフスキーの遺稿を映画化したものです。この遺稿は「天国」「地獄」「煉獄」の三部作だそうで、このうち「天国」は「パフューム ある人殺しの物語」のトム・ティクヴァ監督が映画化しているそうです。本作は「地獄」です。「地獄」って、どんなおぞましい世界が待ち受けているのでしょう。
と思ったら、地獄と聞いて連想するような映画ではありません。
火あぶりにされたり舌を抜かれたり腸を引きずり出されたり全裸にされて生きたまま顔を食べられたり、そういった地獄映画ではありません。
洗脳された狂人であふれた世界に放射能汚染が拡大するような地獄絵図映画でもありません。
己と信仰する為政者の利益だけを貪り食い他人への妬みと憎しみだけで出来ている地獄の餓鬼の映画でもありません。しつこいですか。

そうじゃなくこれは愛の映画です。あまり地獄という感じはありません。幼い頃父親を失った三姉妹のそれぞれの破局的な愛の物語。つまり愛の地獄です。邦題は「美しき諍い女」を連想させるためのものでしょうか。そうかもしれません。エマニュエル・ベアール出てますから。

セルロイドのような異国風味の壮絶美女エマニュエル・ベアール。あぁ、エマニュエルエマニュエル。

というわけでダニス・タノヴィッチ+エマニュエル・ベアールに大いに期待して2005年の「美しき運命の傷痕」を観たのです。前置き長。

結論から言いますと、「ノー・マンズ・ランド」のずば抜けた面白さを期待しすぎている場合「悪くないけど、こんなものか・・・」とややがっかりするかもしれません。「ノー・マンズ・ランド」は比較対象として閾値が高すぎるので一旦これを忘れたほうがいいでしょう。

三姉妹の愛の物語です。今はそれぞれ独立している三姉妹の三つの物語が平行に描かれます。どうにもこうにも三人ともあまり愛が上手ではありません。長女は旦那の浮気と嫉妬の物語、次女は孤独で愛を得られない物語、三女はおっさんの恋人に煙たがられる不倫の物語です。

この三姉妹には口がきけず施設に入っている母親がしまして、次女だけが母親に会いに行ってます。この次女が一番面白い人です。母親にギネスブックの変なやつばかり朗読して聞かせたりします。この面白い次女セリーヌを演じているのがカリン・ヴィアール。「しあわせの雨傘」の秘書です。「デリカテッセン」にも出ています。へえ。

口のきけない母親は「欲望のあいまいな対象」のキャロル・ブーケ。あらま。あまり覚えてないけど、「欲望」のもしかしてあの小間使いか。なんとまあ。

長女がエマニュエル・ベアールで、夫に浮気され嫉妬に狂います。さすがの嫉妬演技。もだえるわ。あたしも女なのよ。いいすねえ。いいです(個人の感想です)

三女アンヌは若いのにおっさんと不倫していてしかもそのおっさんにふられます。ベルギー出身のマリー・ジランが演じています。愛にもだえ苦しみます。

濃くて個性的でアクの強い三姉妹です。こんな三姉妹+母親が現実にいたらたいへんですね。もう女優女優しております。濃度高すぎです。

L'-ENFER

このあまりにも濃い女優たちの狭間で、昔死んだお父ちゃんの存在が重要になってきます。出番も少ないです。女優濃度に圧倒されることなく、ちょろりと出てくるお父ちゃんの存在感は大したものです。
このお父ちゃんを演じたのはミキ・マノイロヴィッチで「パパは、出張中!」「アンダーグラウンド」の人です。この人の存在だけで圧倒される何かを感じるかもしれませんよ。

「美しき運命の傷痕」は単なる愛の映画ではなく、ややミステリータッチで「実は・・」的な盛り上がりもあります。全体の構成はスパイラル的に絡み合っており、あぁこれぞ逃れられない愛の螺旋地獄・・と納得できるお話となっていますよ。
演出もいいし、期待過剰で挑まない限り悪くない作品だと思います。

でも多分ですけど、製作の面々が「天国」と「地獄」を、それぞれトム・ティクヴァとダニス・タノヴィッチに監督してもらって作ってるんでしょ?これって、すごく志の高い映画のシリーズじゃないのかって思います。人選のセンスは抜群に絶妙だし巨匠の遺稿だし、噂が噂を呼ぶ名作にしたかったのは間違いないのではないか、と。そういう意味でも閾値が高く、どうしても出来映え以上の期待をしてしまい、その高すぎる期待にまでは届かなかったのではないかと思われます。

果たして三部作の最後「煉獄」は映画化されるのでありましょうか。

コメント - “美しき運命の傷痕” への3件の返信

“美しき運命の傷痕” への3件の返信

  1. 大丈夫、そっち方面の怖い映画じゃありません。でも愛の話は生々しくてある意味怖いです。

  2. ピンバック: サラの鍵 | Movie Boo

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