ソハの地下水道

W ciemności
ソハの地下水道
公開年:
2011
製作国:
監督:
脚本:
原作:
撮影:
美術:
主演:
  • ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ
出演:

ナチス占領下のポーランド。下水道の検査員ソハは副業で空き巣狙いをやったりしている男で、ある日穴を掘って下水道に逃げようとしているユダヤ人と鉢合わせ。「金出しな。隠れ場所教えてやるから」と持ちかけます。

ソハの地下水道

ホロコーストです。このテーマの映画は今でもあちらこちらで作られ続けています。
ポーランドを舞台にした本作はドイツの出資が含まれます。ドイツは今なお自国の問題に向き合っています。「自虐史観だ」だの「ホロコーストは実はなかった。あったとしてもちっぽけな出来事だ」だの「ユダヤ人シネ」だの「ドイツを取り戻す」といったトンデモ発言が大手を振るうことはありません。

さて、西はドイツから、東はソ連から、わやくちゃのポーランド近代史についてはわりと日本でもお馴染みなので割愛するとして、「ソハの地下水道」という作品は戦争末期のある出来事を描きます。
どんな出来事かというと、ソハという男がユダヤ人を地下下水道に匿う話です。

ユダヤ人を匿う話と聞いて、わりと食指が動かずにいました。なんとなく感動作品の予感があったり「ポーランドのシンドラー」みたいなもんなのか、と勝手な思い込みがあって今一歩乗り切れなかったんですね。
でも観ました。現在狂気の全体主義に包み込まれている我が国を顧みるためにも、ホロコーストやファシズムを描いた映画を観ておかねばならぬという思いがあったためです。

で、観たんですが、思っていたような作品ではなく、とてもよい映画でした。感動しますけど感動映画ではないし、ユダヤ人を助けますけど正義や道徳とは無縁です。
2011年にもなってわざわざホロコーストを描く時、何かしら新しい切り口がなければなりません。「ソハの地下水道」はオーソドックスな展開の中に、それがあります。

まず素晴らしいのが主人公ソハです。ロベルト・ヴィエツキーヴィッチという方が演じています。
ソハは下水の検査員で、副業がこそ泥です。ユダヤ人を助けますが、そのきっかけは偶然ですし「金よこしな。助けてやるから」という、そういうセコい発想です。

ポーランド内でもユダヤ人差別が横行し、ナチスに売り渡したりするのが常態化している頃です。ソハは社会的なそういう常識にまったく囚われません。「儲けられそうだ。ユダヤ人を匿ってやれ」と、世間には無頓着に己の欲望と信念で動きます。それがかっこいいのです。
人は人と仲良くなると心地よいものです。喧嘩ばかりしていても楽しくありません。長く一緒にいると情が移ったりもします。
ソハもだんだん変わってきます。身の危険を顧みず、相変わらずユダヤ人たちを気にかけます。これは「最初は悪い男だったがだんだんよい人になってきた」という描写でしょうか。いいえぜんぜん違います。
ソハは相変わらず世俗に影響を受けず己の欲望と信念で動いているのです。己がそうしたいと思えばするのです。ユダヤ人たちを気に入ったら友達になるだけなのです。
このこそ泥は、ファシズムの影響をまったく受けずにいる強い男です。でもその強さは真の強さ、道徳的強さというよりももともと備わっている反社会性のためと思われます。

今日本は相当な勢いで全体主義思想が行き渡り蔓延していますが、そうした空気に影響を受けない人ももちろんいます。「正義や真実のためだ」と思ってる人もいるでしょうが、実際には性根のアウトロー性のためだと私は思っています。正義や真実などは常に社会の都合でころころ変わります。今の日本でいえば「放射能安全安心日本は特別文句言うやつは少数派の被差別者の阿保」ということが正義で真実で常識になりつつあります。ナチスの頃はユダヤ人を差別し売り飛ばすことが正義です。ユダヤ人を匿うことは常識と正義に反する行動です。

社会がいつも正気とは限りません。しかし社会が狂気に陥った時にはそれが正気の社会として機能します。ということは逆接的に社会は常に正気です。
その中で社会の枠組みを超えた倫理観を持ち続け、反社会的な思想を貫くのは意志の強さもありますが、やっぱり自分勝手で天の邪鬼な気質が大事になります。

こうした気質は人が100人集まれば5人くらいは持ち合わせています。あるものは駄目人間のクズに、あるものはアーティストに、あるものは犯罪者に、あるものは科学者や政治家になったりします。皆同じタイプです。

話がそれましたので映画に戻ります。

「ソハの地下水道」の良さは、主人公ソハを含めた登場人物たちの味わいです。みんな癖があったりして魅力的です。
基本、人情話と言っていいほどのドラマだと感じました。奥さんもいいし、ユダヤ人たちもいいです。あの厚かましい軍人の友人もいい感じです。単なる「いい人」単なる「被害者」単なる「悪者」ではなくて、個としての人です。そういう描き方が徹底しています。

その中に時々身が凍るようなリアルな描写が登場します。ポーランドの実情、ゲットーから収容所に送られるユダヤ人、腕章を付けたSS、軍人、殺人です。強烈なリアリズム描写ですが、それが日常と隣接していることを特に上手に演出しています。
「特殊な状況の昔話」などではないというリアリズムです。ユダヤ人が銃殺されている横でお買い物をするという、そういうリアリティが恐怖を倍増させます。
この恐怖は今の日本そのままと言っても遠からずです。えげつない出来事が進行していても庶民の日常はそこにあります。
戦時は異常な状況ですが、戦争を知らない我々が空想するような「まったく違う世界のような異常な状況」などではなく、常にリアルであるということが自覚できるでしょう。

というわけでこの映画、単なるホロコースト、単なるユダヤ人を助ける話、と思ってると実際それ以上の出来映えにびっくりします。かなりよい映画でした。

少々ドラマチックな演出が過ぎる部分もありますが、そういう部分は取っつきやすさに繋がると思えるし、映画マニアでない普通の方々がドラマとして楽しむための工夫でありまして、寧ろいい方向だと思います。

アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたそうです。
ホロコーストの映画はアメリカで好意的に受け入れられます。おっとイスラエルの問題はここでは触れずにおきます。

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“ソハの地下水道” への 2 件のフィードバック

  1. この映画は大好きな映画のうちの1つです。
    ソハが最初から善人でなかったところがいいですね。
    上から押し付けれた正義でもそれに従う人が増えれば、それが「真の正義」
    と思われていくのでしょう。それに抗うことは本当に勇気がいるし、強い信念
    がなければできませんね。
    おすすめリンクに追加させてくださいね。

    1. コメントありがとうございます。マープルのつぶやき http://miss-maple.jugem.jp/ のマープルさんですよね。お世話になります。
      「ソハの地下水道」実にいい味わいの映画でした。私もかなり好きです。
      正義や人道というよりもアウトサイダーって感じの主人公、役者さんもよかったですね。奥さんも格別でした。

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