プライズ ~秘密と嘘がくれたもの

El premio
母親と7歳の娘が海風吹きすさぶ掘っ立て小屋で暮らします。母は厳しい表情、子は・・・ちびっ子映画の快挙を堪能できる凄いやつ。映画はずっしり辛い系です。
プライズ ~秘密と嘘がくれたもの

この映画、監督のパウラ・マルコビッチの半自伝的な映画だということで、アルゼンチン生まれの彼女が幼少期に母親に連れられて故郷から逃れ隠れ住んだ海辺の家の記憶による物語となっております。

そうですそうです、またもやおぞましい独裁政権下の物語です。チリやスペイン、インドネシアにルーマニア、MovieBooでもいくつか取り上げている独裁政権下における映画のひとつです。その多くがちびっ子とセットになっている点も特徴的です。それのアルゼンチン版です。アルゼンチン版と言えば比較的最近の「瞳は静かに」ですね。「瞳は静かに」と「プライズ」は同じ時期の軍事独裁政権下の別のお話となります。

アルゼンチンの悪名高い軍事政権による独裁と言えば1976年にクーデターで政権についたあいつの頃ですね、あいつではわからんか、あいつ、誰でしたっけ(ちょっと調べてる)わかった、76年のホルヘ・ラファエル・ビデラ将軍によるクーデターですね。いつのどこの独裁者もみんな大好きな官僚主義的権威主義体制でもって敵対派を大弾圧、拷問誘拐殺戮粛正を大っぴらに行いました。「瞳は静かに」みたいになった人もいれば「プライズ」みたいに逃げた人もいる、いろんな人がいたことでしょう。

「悲観論者って何のこと?」と娘が訊きます。「またその質問!」と母は苦々しく答えます。最初は意味わかりませんでしたけど映画の後半に明かされます。
当時、軍政権に反する思想の持ち主を「悲観論者」と呼び、弾圧の対象としていたようです。「悲観論者」の刻印を押されると、連行され拷問を受け殺されたりしていたようです。日本でいうところの「非国民」と似たようなニュアンスですね。「非国民」界隈の事柄について「日本の恥ずべき特徴」と昔は思い込んでいましたが、似たような話は他国にもいくらでもあるわけです。例えば「アカ」なんかも同じですね。ファシズムに溺れた狂人どものやることはいつの誰でも同じように低脳で悪辣、こうやって簡単な言葉で人を括っては正義の拷問や殺戮を行ってファシスト同士の絆を深め合い全体主義と服従を確認しあうという、そういうことをやるわけでして、これは恐怖政治であると同時に同じ種類の連中には受けが良く、結果すごく効果的なわけです。

ということで「プライズ」では弾圧から逃れた母娘が海辺の掘っ立て小屋に身を潜めます。母が深刻であるのに対して娘は何だか良くわからない状態で子供として順当にちびっ子しています。そういう映画です。
そして見どころとしてはちびっ子です。この映画はストーリー的な展開が比較的地味というか、大まかな骨子以外は日常を淡々と描くタイプの作品で、そしてちびっ子のナチュラルな姿を見て「どうやって演技させてるのかーこれは手品かー」と感心しておののく作風によるちびっ子映画です。このタイプに似たちびっ子映画の筆頭にあげられるのがやはり「ポネット」ですか。そして「明日の空の向こうに」も似ていますね。演技なのか自然の状態なのか判らぬちびっ子生態記録みたいな部分が多くを占めます。抜群の面白さが細部に詰まっていますよ。
ぴょんぴょん跳ねていて転んで泣くところや、友人とのわけのわからない会話など、面白すぎて大変です。長回しの中でどうやって演技してんのか、あるいはこれ撮影中のスナップじゃないのかと思える自然すぎる行動、子供だけじゃなくて母親役の苦悩の表情も思わず緩みます。芝居を越えた芝居、ほんと見応えあります。

そういえばこの映画は比較的長回しが多くて、一つのシーンをじっくり見せます。例えば冒頭です。冒頭はローラースケートを履いた女の子が海岸を歩くシーンです。砂浜ですからローラースケートはすべらず、ずぶ、ずぶ、と砂にめり込み、歩くのに苦労しています。最初はこの子何してるんだろうと思います。海は荒れていて風が強く、だんだんとこの子供に孤独感を感じ始めます。でも彼女は一所懸命歩いています。遊んでいるようでもあり、遊んでいるつもりなのに何だか楽しくないと考えている風でもあり、何も考えずただ歩くことに集中しているようにも見えます。この、ただ歩いているだけのシーンをじっくり見せられ、距離と時間も感じさせるのです。健気に歩いている子供を見ていると、しまいには何だか泣けてきたりします。

こういうシーンで感情を掻き立てられるようなタイプの人にとっては全編力がみなぎっていると感じるでしょう。
ただしちびっ子生態記録を眺めていることに何の面白味を感じない人にとってはただ退屈な無意味なシーンの連続と映るかもしれません。

子供と同時に、風吹きすさぶ海辺の景色と掘っ立て小屋の映像の美しさからも目を離せません。澄み渡る景色じゃなく、どんよりしていて不穏を掻き立てる風景です。美しくも重苦しさに満ちた景色や情景描写はノスタルジーにも満ちていて力のある映像となっています。

音楽にも注目です。不安感を刺激する不協和音の音楽が何とも効果的です。ここまでやるかという不快感に満ちています。この音楽のせいで観る人が何となくいやな気持ちに包まれたりすると思います。私はこの音楽好きです。

あれれ? サントラこんなのじゃないですよ。こんな音楽ありません。さては予告編見た人に感動作品みたいな誤解を与えようとしていますね。
そういえばDVDのパッケージデザインも改めて見ると詐欺的です。なんだかキラキラしてますし「褒めてほしいの」とか、内容と無関係です。みんな適当ですねえ。でも仕方ない面もあるんですよね。わかりますよ。

第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞芸術貢献賞(美術: バーバラ・エンリケ, 撮影: ウォジェック・スタロン)
メキシコ・アライエルアワード 金賞
フランス・ビアリッツ国際映画祭 最優秀主演女優賞
キューバ・ハバナ映画祭 最優秀演出賞
イスラエル・エルサレム映画祭 最優秀作品賞
ペルー・リマ映画祭 最優秀作品賞
フランス・パリスシネマ 最優秀若手監督賞
アルメリア・エルバン国際映画祭 最優秀作品賞

このエントリーをはてなブックマークに追加

[広告]

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA