ムーンライズ・キングダム

Moonrise Kingdom
こだわり派監督ウェス・アンダーソン2012年の新作は、どこかの島を舞台に少年少女の一夏の恋と冒険を描いた一見気軽なコミカルアドベンチャー。ただしその中身は鼓動爆発寸前の見事な一級品。面白く懐かしく美しく、蕩けるような映画的興奮の坩堝に呑み込まれる予想を超えた名作。これは最高の逸品です。
ムーンライズ・キングダム

ダージリン急行」も面白かったですねえ。絶賛していたわけですが、で「ムーンライズ・キングダム」にも当然期待が膨らみます。
観る前の期待過多には要注意、ちょっとした面白さだった場合、期待値に比べて見劣りしてしまう場合もあります。

でも今回は違いました。たっぷり期待していましたが、その期待をさらにたっぷりと覆い尽くす最高の出来映え。「ムーンライズ・キングダム」滅茶苦茶に素晴らしい作品でした。あまりの出来の良さに見終わって身動きできないレベルで堪能。「もったいない、もったいない」と思わず呟きます。無条件にべた褒め。

褒めてるだけでは何のことかわからないのでどんなふうかちょっとお伝えします。

「ムーンライズ・キングダム」は1965年ごろのどこかの島が舞台で、少年サム・シャカスキーと島の娘スージー・ビショップの駆け落ち逃避行の冒険を軸にお話が展開します。

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まずなんと言っても脚本の見事さです。ストーリーの流れもさることながら、細かなセリフ回しの気の利きようったらありません。ナレーションも含めて、さくっと放つ言葉のシャープさは抜群です。いわゆる「ありがちな会話」シーンであってさえ、洒落た言葉遣いが異化効果を十分に発揮して普段表層的軽薄さに辟易しているような人をも虜にします。

このシャープさは編集でも効果を上げています。誰にも観やすいポップなカット割りに潜むこだわりまくったリズム感、こちらはノリノリに乗せられます。もちろん、編集が効果的であるということは元の映像の力に裏打ちされているのでして、その肝心要のウェス・アンダーソンの演出には息を呑みます。

ウエス・アンダーソン監督は妙なイケメン風な神経質そうな優しそうな怖そうな見た目の通り、かなりのこだわりやさんだそうです。昔の偉大な映画監督たちの流れにいる完全主義者なのかもしれません。よく知りませんが。

演出は、役者の魅力をとことん引き出す部分、優れたヨーロッパ映画並みの間の取り方の部分、世界の映像芸術から受けた影響を昇華させたような美的構図の部分など、多方面に質が高いんですね。今となっては若手といいませんけど、若手の頃から才能を発揮しまくりで、ある意味オタク的な知識豊富な方なのかもしれません。方向性はまったく違いますが、タランティーノやフランソワ・オゾンなどに近いものを感じたりしますし、それに加えてジム・ジャームッシュばりの極めて知性的な部分やテリー・ギリアムばりのイマジネーションからキューブリック的な芸術技術者的側面すらも感じさせます。

ほらね、よく知らない人のことほどいろいろ勝手に語り出したりするから駄目なんですよ。よく知ればこんな簡単に語れるわけないのに、いつまでも学習できない馬鹿な執筆者ですいません。

というわけで理由が何かよくわかりませんが、つまり褒めるところは以下のようなところってことです。
構図、絵面の美しさ。間の取り方や会話のノリ。テキパキした編集。オーソドックスを描いていても異化効果に満ちている各シーン。役者の魅力を発揮させまくり。見逃しそうな細かいシーンにこだわりと面白さを詰め込んでいる。言葉の質が高い。ストーリーの捻りも心地よい。

この映画、観てから月日が経っているので細かく根掘り葉掘り書くことはしませんが、もし観て直後だったらべた褒めの上に気に入ったシーンの紹介などをいちいちしまくって一人熱くなっていたと思います。
なんせ観た直後はやかましいくらいの大絶賛をわーわーと繰り広げておりました。

一点だけ具体的に何か書くとしたら、この監督、「わたしは慎悟」読んだですかねー。どうですかねー。ってことですか。たしか、少年少女の愛の強さについて、それから他のシーンについて、「わたしは慎悟」をテクストに一晩中何かわめきつづけていたような気がしますが記憶が定かではありません。
少年少女のそれぞれ、単なるこどもたちっていうよりも、もう少し踏み込んで描いています。この若干の踏み込みが「わたしは慎悟」との大いなる相違点です。共通項目を挙げずにいきなり相違点ですなんて言ったって何のことやらわからないですよねえ。わたしも何のことやらあまり覚えていません。

「ムーンライズ・キングダム」は本国でかなりのヒットを飛ばしたようです。いわばみんなに人気です。普通にヒット映画です。このような優れた映画に多くの支持が集まってほんとに良かった。まったくもって健全ですね。

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よく見れば(いやよく見なくてもわかるが)一流の役者さんたちが結集しています。ビル・マーレイ、ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマンドなどなど、蒼々たる出演者たち。その一流の役者さんたちのそれぞれ設定や、それから立ち居振る舞いもほんとに味わい深くてですね、それぞれに「流石」と呻ります。

もう何から何まで、どこを切り取ってもただ褒めるしかありませんし気に入ったというしかありません。これは困った。語彙の貧弱さに我ながら呆れます。

予告編なんかを見ますとね、多分誰もが思いますよね。「あぁ、この手の、こういうやつね、何となくどういう映画かわかるわかる」
そうなんです。この手のこういうやつです。でもね、それ以上なんです。まじで。この手のこういうやつが大嫌いな人を除き全ての人類にお勧めできます。

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