クラウドアトラス

Cloud Atras
時代や国が異なる6つのエピソードを同時に描く宇宙的規模のSFヒューマニズム叙事詩。時代や国が異なるそれぞれのお話同士がどこか何か繋がっているという、輪廻というか宿命というか、どことなく大袈裟で面倒臭そうに見える「クラウドアトラス」ですが実に見応えのある大作。トム・ティクヴァが監督やっているパートもあります。
クラウドアトラス

いくつもの設定の物語が同時に入れ子に出てくる3時間近い大作です。たくさんの歴史的物語が混在する映画と聞いて、「ほんとは三部作にしたかったんじゃないの?予算的にも」とか「でも大ヒットが望めないので無理矢理一本に詰め込んだんじゃないの?」とか、非常に失礼な気持ちを持っておりました。
3人の監督のうちひとりがトム・ティクヴァと知って、「仕方ない。だるそうだけど観るか」というこれまた失礼な気持ちで見始めました。

ところがどっこい。これが面白かったですよー。
複数のお話があっちへほい、こっちへほいと入れ替わりながら出てきます。ただの複数のお話ではなくて、なんかものすごい特撮の未来都市あれば大航海時代のエレガント調あれば野蛮時代を迎える遠い未来の懐かしSF調あればブラックなコメディパートもあるという贅沢な作りです。
それぞれの話はストーリー的にまったく関係がなく、関連があるのはストーリーに潜むテーマ性です。時代を超えたそれぞれのお話の根底にある愛とか博愛とかヒューマニズムとかそういうのですね。どうも正月以来愛情豊富な優しい映画感想ばかり続いていますが絶望の果ての博愛には重みというものがあるのですわよ。ていうかこの映画は夏に観たんですけどね。

映画を観ている間はそれぞれの話がちょっとずつ取っ替え引っ替え出てくるのでかなり楽しめます。終わってみればわりとどうってことのない話ばかりだし、テーマ的にもまあ言ってみれば臭い話なわけですが、それでもやっぱりとても面白いんです。そしてとってもいい話だなーと素直に思えるわけです。私はこの映画にとても好意的です。

「クラウドアトラス」を観ていると真っ先に連想する作品があります。手塚治虫の「火の鳥」ですね。どこをどう切り取っても「火の鳥」です。「火の鳥」みたいな映画をこうして凄い映像で見させてくれてありがとうございますと、そういう気持ちが強いです。これが多分この映画を好意的に感じる最大の原因だろうと思います。
人によっては「火の鳥みたいだからむかつく」と思う人もいるかもしれませんが私は「火の鳥みたいだから好き」なのです。

時代が異なるそれぞれのお話ですが、主要な人物を同じ役者が演じています。すごいメイクでわかりにくかったりしますが、まあ役者の皆さん、それぞれ関係のない時代の話をその場その場で演じるのはきっと大変だったろうと思います。大変で、なおかつ楽しかったろうなと。

6つのお話、どれも凄いわけではないけど面白いです。中には「そんなあほなー」ってのもありますが、そういうのも含めてとてもいいです。演出もとてもいいと思います。

人類が原発によって滅びるという設定が登場しますが、宇宙の中でも日本人だけは原発事故は怖くなくて放射能なんかへっちゃらだそうです。ですのでここは素直に、放射能は人類にとって恐ろしいんだよというこの映画のストーリーというか世界の常識を受け入れたほうがよろしいです、安全洗脳された低脳お人好しさんたちもね。
ただし石油メジャーが原発と敵対してるとか、ちょっと笑える単純思考も見て取れます。そのあたりは今度は童話として受け入れます。いいんです安直でも。いい話だから。

個々の面白いところはたくさんあります。コミカルパートの編集のおじさんとか、あのあたりはいいアクセントになっています。大変面白いです。作曲家のお話もとてもよいです。
6つのお話はそれぞれほんとに無関係で、それぞれ楽しめます。
特筆すべきいいシーンもたくさんあります。でもここはくどくど言うより「火の鳥」みたいに面白かったというしかありません。
素直になりましょう。こころ洗われるよい映画でした。

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