オンディーヌ 海辺の恋人

Ondine
漁師の男が網を上げると女性が捕れたのでひっくり返って驚きます。 美しいアイルランドの小さな漁師町を舞台に描く海の精と漁師との淡い恋。そして家族や町。
オンディーヌ 海辺の恋人

ややどんよりした海から映画は始まります。
小さな漁船が網を仕掛けてぷかぷか走っております。
ちょっとまともな社会生活を送れていなさそうな風貌の漁師が、網にかかった女性を見てびっくり仰天。なんと水死体じゃなく生きています。
女は何物でしょうか。海の精でしょうか。

こうして謎の海の精と漁師の恋の物語が展開していくのですが、この映画、なかなか良いのですよ。

良いポイント、好みの部分はいくつか明確にあります。

まずひとつはアイルランドの海や町の景色の良さです。全体にどんよりしたトーンの映画であり、景色の美しさは「目を見はる素晴らしい景色」というよりも、もっと人間生活に密着した濃厚な景色です。アイルランドの田舎の、良いところも悪いところも内包した景色です。
漫画で言えば西原理恵子「ぼくんち」に通じる海の景色です。
とはいえ、映画の節々に登場するアイルランドの景色は本当に素晴らしいです。海だけでなく、海に通じる小径や丘、とてもいいです。まじいいです。これだけでこの映画を観る価値があったと思えます。

ベースにある貧困の暮らしです。超貧乏というわけでもないし、漁師は自分の船も持っていますし、社会福祉も充実しているし、不幸なほどの貧困ではありません。先ほどの例で言うと「ぼくんち」の世界とはまたちょっと違います。違いますが、でもちょっと似たところもあるんです。
主人公漁師は妻に逃げられ病気の娘がおります。妻と娘はチンピラみたいな男と暮らしていまして、娘を病院に連れて行く役割を持っていたり、それなりに交流があったりします。この暮らしっぷりは真っ当な社会生活を送る人から見たら「おまえら何やってんねん」みたいな堕落した暮らしに見えたりすると思います。
こうした暮らしぶりの人間たちが物語を紡ぎます。だからこそ「海の精かもしれないな」と思ったりしても違和感を感じなかったりします。
また、アイルランドの海辺の田舎町にとてもよく合います。底辺に近い人間たちへの賛歌を感じ取れたりもします。

登場人物のキャラクターです。

冴えない漁師はシラキュースあだ名はサーカスで、周りからちょっと小馬鹿にされています。一人で船に乗り獲物を獲っています。社会生活不適応者の一種です。ちょっとアホですけど、とても優しいいい男です。
女を釣り上げて、その女をもしかしたら本当に海の精かも知れないと思ったりしています。
この主人公をコリン・ファレルが演じていまして、危なっかしい感じやアホな感じやいい奴だなあという感じをとても上手に演じきっています。
コリン・ファレルの微妙に男前で微妙にアホ面な個性がよく発揮されていると思いました。

海の精オンディーヌは超別嬪で何やら事情がありそうなちょっとヤバい感じのする女です。彼女が何者で過去何があったのか謎なんですけど、漁師シラキュースとその娘に出会うことで、人としてピュアな部分を取り戻していくような、そんな案配です。
助平親父からすると、助平目線狂喜乱舞のサービスもわりとあって、それだけで目がハートです。
実は助平目線を虜にするエロティシズムを内包したこのオンディーヌのキャラクターには、ただのサービスショットというだけではない映画的な必然性もあるのですが、詳しくは秘密です。漫画で言うと「ぼくんち」の…。
ちょっとぼくんちぼくんち言いすぎですね。大概にしておきますね。でもこの映画を観て「ぼくんち」を思い出したのはほんとなんですよ。
で、その海の精でもあり怪しげでもありピュアな愛情を感じたりもするちょっと複雑な役をこなしたのはアリシア・バックレーダという女優さんでした。

さてさて主人公漁師には車椅子に乗った娘アニーがおります。
この娘が最重要キャラです。可愛らしくて、めちゃくちゃいい子役です。ちびっ子カテゴリーでも十分に通用する実力派、この子を見るためにこの映画を観ても何ら問題ないくらいです。
小生意気で屁理屈をこね悪巧みをします。
この娘とオンディーヌが仲良くなるあたりなどは、映画的にもとても見どころとなります。

このほか、別れた妻の男もいい感じだし、牧師とか、図書館のおばちゃんですら味わいに満ちています。みんないい感じです。

というわけで、お気に入りのポイントがわりと多くある映画でして、個人的には良い印象を持ってます。

物語の後半ではややサスペンスフルになったり、いろんな事情が明かされたりしまして、きっちり収束します。
全体的には小粒で地味ですが、風景にしてもキャラクター設定にしても個性的で、好印象が残る映画でした。

予告編でいくつか綺麗な風景も確認できますね。
なんか凄い感動大作みたいな編集ですが、実際はそれほど大袈裟な映画でもないんですけどね。

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