カノン

Seul contre tous
「カルネ」の続編。刑務所から出所した元馬肉屋の嫌悪・倦怠・貧困・孤独そして娘への愛。 ギャスパー・ノエの文芸フランス映画調作品。絶好調。
カノン

出所した元馬肉屋、目つきも悪く性格も悪く、いつもいつも何かに毒づいております。言ってみればこの映画の中心はオヤジの愚痴と文句の物語。この絶望感、この怒り、この不条理感、この苛立ち、ここを楽しまなくてどこを楽しむというのか。怪優フィリップ・ナオン、冴え渡ります。

旧知の友人を訪ね歩き金の無心をするものの、どいつもこいつも人生負け組の悲しい連中ばかり、こうした都会のふるいにかけられた貧困なる駄目人間たちを愛情と尊敬を込めて撮り上げます。
この人情と文芸心に溢れた名作に触れて、ギャスパー・ノエ天才、と思わないではおれません。お兄さん、あなた素晴らしいよ。アルゼンチン生まれのフランス育ち。ラテンの血とフランス芸術の見事な融合。

散々、文芸的趣きで駄目人間を表現し尽くしたあげく、最後には映画そのものが破裂します。まるでこれまでのフランス文芸映画的演出がこのときのための伏線だったと言わんばかりの突然のポップ演出。
「MORAL」!か、かっこいい。そんでもって哀愁のラストを経て、なぜか胸が熱くなるというおまけ付きで超お得な一本。

「カノン」のあと「アレックス」を経て最近の「エンター・ザ・ボイド」ではいよいよ破裂しまくりのギャスパー・ノエですが、ピカピカずびずびになる前の、この「カノン」に見られる渋い演出は若さと渋さと試行錯誤と芸術性と豊な人間性をダイレクトに感じる、大変に価値のある作品であると結論づけたい次第であります。

性格のひん曲がった馬肉屋、馬肉屋のもとお友達の面々、胡散臭い連中、こういった人々の恨み辛み八つ当たりに愚痴、それらに感情移入できない人とはお友達になれそうにありません。

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