微笑みに出逢う街角

Between Strangers
大女優ソフィア・ローレンの100作目という触れ込みのこの作品、監督のエドアルド・ポンティは彼女の息子であります。 3人の女性の三つの鬱物語が平行に描かれます。ひとりは昔画家になりたかった主婦、ひとりは親の七光りで成功するカメラマン、ひとりはあるネガティブな目的を持つ有名チェロ奏者。
微笑みに出逢う街角

まあなんといいましょうか、三人の女性のこのそれぞれの設定がですね、絵描きにカメラマンに音楽家です。絵描き主婦以外は社会的にも成功していましてですね、なんというか、あれですね、バブル臭いというか嘘くさいというか説得力ないというか少女漫画といいますか、なんかふわふわした設定ですが、まあとにかく観てみましょう。

三人の鬱々物語です。この鬱々にしても、その展開にしても、実にわかりやすいドラマです。悪く言えば凡庸でありきたり、よく言えばオーソドックスすぎて安心安全という感じです。もうみんながすでに知っていてお馴染みの事情です。理解のない夫との暮らし、戦場で人を助けず写真に撮る罪悪感、憎い父親を許せぬ気持ち、そういう感じです。そういうわかりやすい悩みをそれぞれ3人が持っていて、それぞれが鬱々うじうじしています。些細なシーンなんかもかなり凡庸で、ここはこう来るな、ここでは次こうなるな、ここのセリフはこうだな、とまるで見てきたかのように判りやすい展開です。

この三人は全くの他人で、比較的に近所に居るという以外に接点はありません。「微笑みに出逢う街角」という最悪のネタバレ邦題の示すとおり、このうじうじのうじ子ちゃんたちが最後に出逢ってほほえむという、あらまあラストシーンのネタバレですね・・なんですって!ほんとにラストの一瞬のシーンのことじゃないの。微笑みを忘れた彼女たちの辛い物語の最後の最後に、三人が出逢って微笑んで、ちょっとだけ明るい未来を感じさせて映画を締めます。まじで。酷い邦題もあったもんです。そしてここまで露骨なラストシーンのネタバレをするのはMovieBooにとっても初めてのことです。ドキドキします。邦題を口にするだけでもう映画を観る意味をなくさせるという、なんという映画離れに拍車をかける悪意のこもった邦題でしょう。

てなわけで、手垢にまみれた設定やストーリーですが、個人的にはだからといって貶しません。オーソドックスは大事です。こういう素直な映画も必要です。あまり映画を観ないような奥様とか、中学生にあがったばかりの娘さんとか、そういうピュアな人が観たらきっと感動して泣きます。そして「いい映画をみたなあ」って思います。その後、もっといい映画ないかななんて思って、さらに映画を観たりします。素晴らしいですね。映画の裾野を広げます。だからありきたりだの手垢にまみれただの、そういう斜に構えた批判する気はまったくありません。面白がってはおりますが。

ドラマ的に陳腐ですが映画的に陳腐と言うことはありません。大女優の脇を固める優れた名俳優の皆さんの力もあって、オーソドックスにしてウエットなこの作品は名作みたいな香りも少し漂わせます。泣けるシーンでは本当に泣けます。じわわわ〜。

「おいちょっと待て。聞き捨てならんな。ほんとに泣けるんか。泣いたんか」と、唐突に映画部の奥様が出てまいりますな。
「ええっ。泣けるやろ。わし泣いたで」
「うっそー。どこでー」
「いやいろんなところで」
「いろんなところで!どこや!どこで泣けるっちゅうねん。おっかしーやろー」
「いやほら、父と子のところとか」
「あの嘘くさいアホくさい親子の会話でかーっ」
「それとかほら、娘さんのサイン会のほら」
「あのくだらないシーンでかーっ」
「移民の彼女のほら」
「皆まで言うなーっ」

わたしゃもう死期が近いんで涙もろいんですよ。すいませんね。

というわけでオーソドックスにしてウエッティなこの作品、大女優ソフィア・ローレンの100作目で監督が息子という、これはついさっき知ったんですが、映画化企画の実現は親の力のたまものなんでしょうか。しかしなあ、もうちょっと脚本頑張ったらよかったのにねと正直思いましたが。

この世で一番泣ける映画は「生きる」ですが、「生きる」の次は「ひまわり」かもしれません。私はあれを少年の頃に観て目玉が溶け落ちるかと思うほど泣きましたでございます。ソフィア・ローレンなんてあれ以外ほとんど知りませんが、あの一本があるがために、もう他の仕事はどんなんであっても許せたりします。

さて、なんだかんだいいながら細部ではいろいろ楽しめたりします。その一つが脇を固める人たち。彼らを観てるだけでかなりいい感じです。ジェラール・ドバルデューとか抜群です。ピート・ポスルスウェイトも意外なキャラクターだったりして、あと何と時計仕掛けのアレックスくんことマルコム・マクドウェル(しかしいつまでアレックスと言われてるんでしょう)までいます。

三人の女性のひとりはデボラ・カーラ・アンガーで、このちょっときつめの目が印象深い、そうです、こないだ観た「星の旅人たち」のあの強烈女性です。カッコ良く年取りましたねー。

見終わったとき、あまりにもありがちな設定やお話に「これ70年代のテレビ映画?」と思いましたが今世紀の映画でした。

 

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