プレシャス

Precious: Based on the Novel Push by Sapphire
ハーレムに暮らす16歳の少女クレアリース・プレシャス・ジョーンズの過酷な現実と成長。
プレシャス

オーディションで主人公に選ばれたガボリー・シディベの体当たり演技、ドキュメンタリーを見ているようでした。いやはや。すごいわ。
彼女自身もハーレム出身らしいです。

貧困家庭で虐待を受け文字も読めない肥満のプレシャス。学校を退学させられ、フリースクールに送られます。
そこで出会う教師レインと仲間たち。レインの辛抱強い教育と優しさに触れ、少しずつ読み書きが出来るようになり、プレシャスは成長していきます。

貧困と無学を扱った大変優れた青春映画です。
アメリカはトップクラスの格差・貧困社会で、ニューヨークといえどもその底辺はヨハネスブルグのスラムと変わりありません。
貧困スパイラルから抜け出す第一歩が教育にある点も途上国と同じです。
貧困と無学が生み出す想像力の欠如こそがあらゆる問題の原因にもなります。犯罪や暴力、ジャンクフード摂取、テレビ漬け、厭世感、馬鹿化奴隷化歪んだナショナリズムなど、貧困政策は時代場所を問わずあらゆる為政者が基本に置く手口。
そこから抜け出すのは容易なことではありません。

この映画に登場する代替学校EOTOの教師ブルー・レインがはみ出しものの生徒たちに教えるのは徹底的に読み書きです。余計な道徳観のおしつけはやりません。文字を読み書きすることで次第に思考能力と想像力が芽生えます。ものを考え、想像力が培われると自己と他者が認識できるようになり、社会と自己との関係を掴むことができるようになります。
プレシャスも徐々に自我が発達し、現実や他者を認識していくのですが、認識することによる悲劇も生まれます。成長過程の痛みは半端じゃありません。それでも自身の成長を止めようとしないのがポジティブでいじらしくもあり見るものに感動を与えるんですね。

教師レインの家で、レインとパートナーが会話しているを聞くプレシャスの「何を話しているのかさっぱりわからない」とのモノローグが入るシーンがあります。「でも賢い人の会話を赤ん坊に聞かせよう」知性への尊敬と欲求を自覚し次世代へ受け継がせようとする大きな想像力と愛情を一瞬で表現しました。
このシーンは、プレシャスが大きく成長したことを示す、映画中最高に打ち震えるシーンでした。

教育者の鑑のような教師レインを演じるのはポーラ・パットン。どこかで見たことがある人、誰だろう誰だろうと思っていると「デジャヴ」と「ミラーズ」でした。ははぁ。モデルさんのような美しい人でしたがこのような味わい深い役をやるようになったのですね。

ソーシャルワーカー役にはマライア・キャリーが質素な出で立ちで挑んでおられます。これにもびっくり。

強烈な母親役のモニークはコメディアンや司会の人気者らしいです。屈折した母親役は見事でした。

演出は随所にポップな表現を取り入れたファンタジックさと、ドキュメンタリーのようなカメラのブレを表現したリアルさを混在させ、見るものをぐいぐい引き込みます。
監督のリー・ダニエルズはキャスティング・ディレクターを経て製作会社を興し人種差別と死刑囚棟の看守を描いた「チョコレート」(2001)を製作、その後「サイレンサー」(2005)で監督デビュー、製作3作目監督2作目の「プレシャス」は、警察官の父親から虐待を受けていた自身の経験も反映させたそうです。

サンダンス映画祭審査員特別賞受賞
第82回アカデミー賞脚色賞助演女優賞受賞
トロント映画祭観客賞受賞
インディペンデント・スピリット・アワード作品賞監督賞主演女優賞助演女優賞脚本賞受賞
NAACPイメージ賞作品賞助演女優賞受賞
カンヌ国際映画祭ある視点出品

アカデミー賞と、反アカデミー色が強いインディペンデント・スピリット・アワードでどちらも受賞しているという、それがこの映画の良さを象徴しているではありませんか。
噂通りの素晴らしい作品。

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