BOY A

BOY A
未成年犯罪者「少年A」は青年となり刑期を終え、ソーシャルワーカーの指導の下、新しい土地で人生をやり直そうとしております。
BOY A

何年も前に米版QuickTimeのトレーラーで見て以来気になっていた「BOY A」をやっと観ることが出来ました。

元少年Aであるところの青年が出所するところからお話は始まります。ソーシャルワーカーに面倒を見てもらい、新しい土地、新しい名前、新しい仕事での再出発です。
彼が服役を終えた犯罪者だと言うことは追々明らかになります。

最初にばらしておきますと、「BOY A」は、そのタイトルとテーマから連想されるような少年犯罪についての社会派映画ではありません。
社会派ドラマの側面はほとんどなく、この作品を貫いているのは若くして人生をやり直そうとする青年を取り巻く人間模様や葛藤、つまり青春映画の側面です。
少年犯罪についての社会派映画あるいは少年犯罪者の心理描写を期待する向きには物足りないというか、説得力を持たないかもしれません。そういう人はもしかしたらついうっかり「ツッコミどころ満載」野郎になってしまうかも。
というのもですね、犯罪についての客観的視点がほとんど欠けているんですね。青春映画の側面が強いということは即ち心の問題や感じや思いといった抽象的なテーマをドラマの軸にしているわけで、社会における犯罪という視点ではなくて常に誰か個人の捉え方としての犯罪という描き方に徹しているように見受けられるんです。
青年は長い刑期を終えた「世間知らずのピュアな青年」として描かれていまして、展開されるドラマはちくちく痛い、時には優しさに触れて涙しそうな、またあるときには辛すぎてうーっ、と、まあそういう感じですが、これよくよく考えてみると、設定が「少年A」でなくても成り立つ脚本だったりするんですね。
たとえば精神的あるいは神経的な病気で入院を繰り返していた、親に捨てられ孤児院で育った、障害者である、重大な病気を持っている、不登校やニートだった、などという設定でも割といけそうなお話なんです。
世間と乖離して育ったこと、人生再出発であること、ばれたらやばい過去があること、年齢は大人でも子供の精神年齢であること、そういった軸の部分が守られれば特に少年犯罪者でなくてもいけそうな案配です。
もちろん乱暴な説ですよ。実際のところは当然ながら「少年犯罪」の部分がないと生かし切れない脚本にちゃんとなっています。

というわけで「BOY A」は元少年Aの主人公青年ジャック(アンドリュー・ガーフィールド)、この彼の魅力が映画的価値の多くを占めています。
アンドリュー・ガーフィールドは舞台俳優としてキャリアをスタートさせた役者で、2007年の「大いなる陰謀」で映画デビュー、同じ年の「BOY A」で英国アカデミー賞テレビ部門主演男優賞を受賞(BOY Aは同時公開・放送だったらしい)しています。
Dr.パルナサスの鏡」「わたしを離さないで」「ソーシャル・ネットワーク」でいずれも印象深い役を演じている独特の風貌の役者さんです。特に「わたしを離さないで」は凄みがありました。
そしてこの「BOY A」ですでにあの雰囲気を十分に発揮し尽くしていたんだなあと感慨深くさえなります。

さてさらに人間としての魅力で言えば何と言っても印象深いのはソーシャルワーカーのテリーです。ピーター・ミュラン(ピーター・マランとの表記もあり)は「シャロウ・グレイヴ」「トレインスポッティング」「トゥモロー・ワールド」などに出ている人です。です、と言っても実は知りませんでした。えーと。えーと。どの人だっけ。
いやそんなことはどうでも良くて、このテリーです。いい人です。
こんなソーシャルワーカーがいてくれれば私だって更生できたかかもしれない。おーいおい(←なぜ泣く)

そのほかの登場人物たちも皆いい味わいです。友人たちもほどよくいい感じ、恋人になる彼女も可愛さと白鯨加減が絶妙で素晴らしい、なんだか良い人たちに囲まれての再出発が上手く動き出して、打ち解けてきたりするんですが、私はこの映画を観ている間、感情移入で心が何十年も若返りました。青春映画だって良質のものはおっさんの視聴に耐えうるということがよくわかります。

というわけでですね、このイギリス製青春ドラマ、私は感情移入しすぎて泣いたり笑ったり辛かったり心が10代の少年になったりおっさんのソーシャルワーカーになったりして映画製作者の思惑通りの理想的観客として楽しめたんですが、映画部の奥様はわりとクールに見ていて、青春映画的な臭いシーンがいくつか鼻についたとも申しておりまして、いえ、決して貶したり評価が低いと申したわけではないのですが「それほど名作か?」と、つまり悪くないけど凄くもない、普通より上程度の認識だそうです。

確かにちょっと臭いところもある。けど、いくつかの臭いシーンのうちのいくつかはほんとにじーんとしてしまったんですけどねえ。

というわけで青春リトマス試験紙的映画として、これをご覧になったあなたはどう思ったでしょう。
「犯罪についての詰めが甘すぎてリアリティがない、却下」
「人々のドラマが胸に迫った。じーん」(←これわし)
「良かったけど最高ってほどでもない、ちょっと臭いシーンもあるしね」

いろんな感想があろうかと思います。
アンドリュー・ガーフィールドだけは見る価値がある、これは確かです。2007年のこのときは河野太郎にまだそんなには似ていない(でもちょっと似ている)

2008年度のベルリン国際映画祭でパノラマ部門の審査員賞を受賞。

あ、そうだ、もうひとつ書いておきたいことがあったのだった。

映画中、少年の頃の思い出シーンが随所に出てきます。
主人公と親友の悪ガキです。
これが実はですね、デジャヴでありまして、何か見たことあるぞという思いがずっと付きまといます。何かと思いますか?
そうです。日本では比較的最近公開されたガース・ジェニングスの「リトル・ランボーズ」です。
リトル・ランボーズ」のコンビと、大変似ております。全く以て似ています。かなり被ります。
どちらも2007年公開のイギリス映画。これは不思議な偶然ですね。
少年二人の風貌から顔かたちからやることなすことそっくりです。ただし、片やポジティブ、片やネガティブな結果が待ち受けていますが。

この少年のコンビを見比べてみるのもおもしろいですよ。

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