イントルーダーズ

Intruders
ファンタジックでホラーテイストでスペインとイギリスの二つの物語で子供の読み物や物語の創作が骨子となるよいアイデアのスリラー。良いんですけどそうでもなく、そうでもないけど悪くない、褒めたいけど貶せない、あぁむずむずする、微妙な作品。
イントルーダーズ

何をそんなにムズムズしているかといいますと、この「イントルーダーズ」という作品、アイデアやネタやテーマに関してはとても好きなテイストなんですね。でも何かわずかに残念な仕上がりで。いや、残念ってほど悪くないんですけど「このテーマ、このアイデア、このストーリー、それなのにこの仕上がり?」と、つい思ってしまいます。つまり演出と編集に若干問題を感じるんですよ。脚本にも。

観ている間も、見終わった後も「まあ、こんな程度のね」と思ってしまっているんですが、見終わってしばらくぼんやり反芻してみると、決して悪くないどころか随分好きなテイストであることがわかってきます。失礼ながら「もし優れた演出家が撮ればきっと滅茶苦茶面白くなっていただろうな」と。

監督フアン・カルロス・フレスナディージョは「28週後…」の監督でした。あぁ、そういや「28週後…」も中途半端な、いえ、これはつまり、私とは肌が合わないんですね。

ぐだぐだ言ってないでどんな映画かご紹介します。

まず最初はスペイン人の母子からスタートです。母は美女です。この美女に関してはのちほど。
子供はファンタジー世界に入るのが好きなクリエーター気質の子供です。自分が考えたお話をノートに綴っています。小説を書いてるんですね。
どんな物語かというと、顔のない怪人が望みの顔を持つ子供を探して街をさまよい、見つけると家に侵入して子供の顔を奪ってしまうという、そういう怖い物語です。
スペインの子は、自分で書いているこの怖い物語に影響を受け、怖い夢を見てしまいます。何度も何度も怖い夢を見ます。

さて唐突にイギリスの家族です。現場監督の父ちゃん、母さん、娘の3人家族です。この娘もファンタジー気質です。ひょんなことから、誰かが書いて封印した物語を発見し、それを見て自分が創作したような気になりまして、続きを書き綴ったりします。そうです。顔のない怪人の物語です。
娘は自分で怪人話の続きを書きながら自分で怖がったりします。
そしてそのうち本当に顔のない怪人が出現して娘を襲います。

という感じで、スペイン母子とイギリス労働者家族の物語が交互に描かれます。顔のない怪人も時々登場して子供たちを恐怖に陥れます。
ホラーでファンタジーでスリラーでミステリーです。映画の後半にはすべての謎が繋がってきます。そして哀しみを残して終わるのですが、なんとなくこうして基本的な序盤の筋を書いただけで、勘のいい人はどういう謎解きかわかってしまうんじゃないでしょうか。

何といっても私が好きなテイストは「物語を綴る子供」です。社会性に若干劣り、もっぱら空想の世界に生きています。物語を綴る行為は賢さの証明。そして自分が書いている怖い話に影響を受けて怖くなったりする想像力の持ち主です。監督もきっとこんな子供だったんでしょう。我がことのように丁寧に描かれています。

それから、この物語には重要なテーマがあって、ネタバレになるので書けませんがとても哀しい話にもなっています。この感じも悪くないです。

それからもうひとつ気に入っている点は、こうしたお話、こういうのって基本若者向けというか、若年層向けのお話だと思うんですね。こういう映画、これがもしハリウッド作品だったりしたら、もっと健全でもっと若年層向けの仕上がりになると思うんです。「イントルーダーズ」はスペイン映画でもありますから「はい子供向け」って割り切りなんかありません。大人の鑑賞に堪えうる作品にしようとしています。例えば夫婦のセックスを描いたりします。裸でたばこ吸っていると恐怖に怯えた娘がやってきてちょっと慌てたりするシーンもあります。自然にこうしたシーンを描けるのはとても感心します。

というわけでこんなに褒めているのに何が気に入らないというのでしょう。
はい。まず編集です。二つの家族の物語を並列に描くんですが、切り替えにあまりメリハリがありません。恐怖描写にしても、同じようなシーンが「またこれか」と出てきたりして抑揚がありませんで、まああの、ちょっとだらだらしてるというか、あまり効果的とは言いがたい編集です。

それからさっき「スペイン映画だから大人向け」と書きましたが、アメリカ資本も入っています。多分これのせいで、非常に若年層向けっぽい子供だましな演出が随所に見て取れたりもします。ラスト近くのファミリー愛な部分とかにそういう臭い香りが漂っています。つまりテイストに一貫性がありません。健全で子供だましのアメリカ映画タイプなのか、大人相手のスペインテイストなのか、ブラックなイギリス風味なのか、まばらで一貫していません。きっといろいろと大人の事情があったに違いありません。そうした大人の事情がそのまま映画全体に影響を及ぼしたかのような印象です。

それから、子供は上手に演出できていますが、家族や大人の世界がまあまあいい加減です。
家族というものの描き方がいかにも類型的で「そんな家族おらんやろ」という、悪い意味でメジャー映画的な演出脚本が気になります。例えばあの嘘くさいお誕生日パーティとか。

それから、ミステリーの部分ですが、とっくに客にバレているのに、まだバレていないのを前提とした思わせぶりな伏線くさい演出が目白押しで中だるみします。
とっくにバレるような謎解き演出なのに、その細部においてはつじつま的な説明を省略してしまっていて不誠実なところもあります。

まあそんなわけでディテールに説得力がなかったり、家族の描写がいまいちだったり、編集が心地よくないことなどから、全体的な印象は今一歩という感じですが、そういうのに目をつぶるととても良い作品だと断言できます。

というわけで、中途半端な感想を書きました。
そもそもどうしてこの映画を観ようと思ったんだろう。映画の冒頭を見ながらぼんやり考えておりましたら、ほどなく理由を思い出しました。

スペイン母子の母の役、ピラール・ロペス・デ・アジャラが目的でした\(^o^)/

ピラール・ロペス・デ・アジャラとは誰か。そうです。「シルビアのいる街で」の、街を闊歩するカッコいい女性です。

そっかー。ただ女優が見たかっただけなのかー。そうなのかー。

ピラール・ロペス・デ・アジャラ、「シルビアのいる街で」で見せた謎性や神々しさはまったくなくて、ちょっとやつれた貧相な母の役です。普通の女優さんなんだな、女優さんてすごいな、何にでも化けるんだな、と当たり前のことを改めて思いました。

役者でいうと、もうひとり、ダニエル・ブリュールが出ていてちょっと驚きました。「サルバドールの朝」の軽薄なお兄ちゃんもすっかりおじさんになりましたね。

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