海を飛ぶ夢

Mar adentro
海を飛ぶ夢

全身不随で寝たきり生活のラモン(ハビエル・バルデム)の饒舌と尊厳死。

海を飛ぶ夢

身体が動かず寝たきりです。口だけ動きます。達者です。饒舌です。まくし立てるようなスペイン語の響き。
「海を飛ぶ夢」の脚本は惚れ惚れするような出来です。あれほど喋らせていながら、その内容の深みたるや相当なものです。
言葉の一つ一つが強い説得力を持って投げかけられ、心は揺さぶられっぱなしです。何度涙ぐんだことか。
観た直後は、その素晴らしい言葉の数々を残らずメモしておきたい衝動にすら駆られました。
身体が動かないから目と口元に全神経を集中させて言葉を発します。その目の演技たるや壮絶の一言。怪奇現象ではないかと思うばかりの素晴らしい演技です。

寝たきりのこのおじさん役をハビエル・バルデムが演じていることを、当時どれほどのことと思っていたことでしょう。
2004年、まだ30代の青年じゃないですか。バルデムさん。信じられない怪演。役作りの鬼。異常役者。
この演技と「ノーカントリー」の殺人鬼を同一人物と思えますか?
まったく、すごいですよねえ。

他の登場人物もずば抜けて優れています。脚本、演技とも最高峰。歯の浮くようなことを言えば「人間が描けている」となります。いやほんと。父親、兄、兄嫁、その他の人々、短いシーンやちょっとしたセリフの奥にバックグラウンドとなるその人の人生のようなものを感じさせます。

弁護士フリア演じる印象深いベレン・ルエダは後の「永遠のこどもたち」で主演、元孤児の辛い母親役を好演しました。他にあまり出演作がないのですよねえ。いい女優さんなんですけど。
マベル・リベラも「永遠のこどもたち」に出ていますか。この人も深みのある演技でぐっときました。

重要人物ロサは「ボルベール〈帰郷〉」のお姉さんロラ・ドゥエニャスです。あの特徴的で日本人的にも親しみのある妙なお顔は一度観たら忘れませんですね。

渋くて奥の深い脚本と出演者の演技、そしてもうひとつ、心象風景や景色の美しい描写にも注目です。カメラが舞って山々をくぐり抜け海に到着するシーンの胸を打つシークエンスは全身がふわっと宙に浮くようです。

アレハンドロ・アメナバールはチリ生まれスペイン育ち。
「ミツバチのささやき」のアナ・トレントを起用したサスペンス「テシス」がデビュー作で、スペインの興行成績を塗り替える大ヒットとゴヤ賞7部門受賞の快挙を成し遂げました。なぬ。23歳の時の作品とな。こりゃ天才っ。
そして「オープン・ユア・アイズ」です。うひゃ。こりゃまた天才っ。
そして「アザーズ」です。うーむ。巨匠っ。
サスペンスフルで渋い演出力、美しい描画、人間の深み、表現力に優れたすごい監督です。
音楽、とくにサウンドトラックの収集家としても有名で、ほとんどの自作品の音楽を作曲しています。
そして2004年の「海を飛ぶ夢」の見事な受賞歴はこのとおり。

2004年 第61回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞、主演男優賞、外国映画賞。
2004年 アカデミー外国語映画賞。
2004年 ヨーロッパ映画賞監督賞、男優賞。
2005年 ゴールデングローブ賞 外国語映画賞。
2005年 インディペンデント・スピリット賞外国映画賞。
2005年 第19回ゴヤ賞、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞。
2005年 放送映画批評家協会賞外国語映画賞。

2009年の「Agora」は日本で紹介されていません。歴史映画の超大作ですね。
おーい。配給の人ー。

agora

「海を飛ぶ夢」は実在の人物、ラモン・サンペドロの手記「レアーズ・フロム・ヘル」を元に作られた実話に基づくお話ですって。

これは大傑作認定してもいい名作ではないでしょうか。

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「海を飛ぶ夢」への7件のフィードバック

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