ぜんぶ、フィデルのせい

La Faute à Fidel!
9歳のアンナが見つめる家族と政治と社会。可愛すぎて悶絶。
ぜんぶ、フィデルのせい

タイトルとジャケに惚れての鑑賞。またもや「ジャケ見」で名作映画と出会えてしまった。普段は映画の情報にとことん疎くて何も知らないんですよ。こういう作品に出会えて嬉しい限りです。

お話は9歳アンナと弟フランソワ、弁護士の父とマリクレール編集者の母のブルジョワ一家の物語。激動の70年代が舞台です。タイトルのフィデルはキューバ革命で社会主義政権を成立させたフィデル・カストロのこと。
貴族出身でブルジョワの両親が社会主義に傾倒していくと同時に起こる家庭の変化に対して少女アンナのイライラが募ります。「お庭がなくなったのも日曜日にボルドーに旅行しなくなったのもぜんぶフィデルのせいなの!」とふくれっ面です。かわいーっ。

チリのアジェンデ政権成立後から崩壊にいたる時期です。ややこしい政治の話を、9歳のアンナ目線だけで追います。その様子が滑稽でコミカル、わかりやすさと謎に満ちています。

大人の鑑賞者は68年の五月革命、フランコ独裁政権のスペイン、70年チリのアジェンデ大統領就任からピノチェトによるクーデター、中絶の権利を求めるフランスのウーマンリブ運動など、当時の様々な社会情勢を踏まえていればOKです。
とはいえ「マチュカ 〜僕らと革命〜」と同じく、難しい政治の物語ではなく子ども目線のみで情勢を描ききりますから、政治問題に逃げ腰な方もびびらずに是非ご覧になって欲しいところです。

この作品が素晴らしい点は、全ての登場人物を多面的に捉えて描いたところにあります。
映画の短い尺の中で登場人物を描くには、ある程度紋切り型の設定が必要なものです。本当の人間には多面性がありますが映画では判りやすい人物造形をしないと物語として成立しにくいんですね。
しかしこの作品では全ての人が多面性を持っています。「この人はこういう人」っていう決めつけをしません。良い人良くない人、良い状態悪い状態、正しい判断間違った判断、そういった単純化をまったくしていないんですね。どの面もあるがままの一面、どの面も愛すべき一面ということです。
これが見ていて本当に心地良い。
「髭の革命家」たち、おともだち、両親や親戚や祖父母、「にわとりになるお母さん」からお手伝いさんまで、どの人物も味わい深く人間味にあふれています。

日々気持ちが移ろいでいく少女の描写も驚くべき緻密さです。
彼女のふくれっ面も決して一貫している訳じゃありません。
自分と同じ不満を友人が漏らしたら今度は親の立場のように友人を諭します。この変化と、不機嫌なふくれっ面なのにくすぐりごっこやお話してもらうと微笑んでしまう変化に質的差違はありません。ピュアで素直でひねくれていて流動的なんです。か、かわいすぎる。
原作にないお手伝いさんのエピソードに象徴的に現れていますね。よくぞお手伝いさんのエピソードを追加したものです。
このお手伝いさんのエピソードはそのままラストへと繋がります。
見事なラストシーンには複合的な意味が含まれています。新しい世界、奇異な世界、染みついたブルジョワ気質、差別、和、順応、成長、挑戦・・・
なんといういい話でしょう。そして、なんという複雑な話でしょう。

とても重要な役割を担っているのが弟フランソワです。
このちびっ子の可愛さたるやもしかして映画史上最強かも。映画の随所でピュアさを大発揮して華と彩りと可笑しさを付加します。
監督曰く、あまりの可愛さに一目惚れして起用したとのこと。

個人的な話なんですけど、友人夫妻の子供たち姉弟、MayaとMotoyaを彷彿させるんですよね。フランソワなんてどうみてもMoto君にしか見えないの。もうね、たまりません。

個人的なことは置いといて、この素晴らしい映画を撮ったジュリー・ガヴラスは、ドキュメンタリーを撮ってきた監督で、長編フィクション映画は本作が初だとか。
人物や情勢を単純化せずに多面的に描いたのは、もしかしたらドキュメンタリーを撮ってきた人ならではなのかもしれませんね。
映画監督コスタ=ガヴラスの娘さんです。

母親役のどこかで見たことがあるような女優はジュリー・ドパルデューさん。
なんと、片足切断というハンデを克服して名演技に挑み期待されながらも急逝した「ベルサイユの子」のギョーム・ドパルデューの妹さんであります。ということは父親は名優ジェラール・ドパルデューで、俳優一家のサラブレッドでありましたか。

というわけでこの映画の見どころは可愛い姉弟の奮闘記、彼らが見る大人の世界、いろんな人々です。
政治的な偏った解釈は必要ありません。柔軟さこそが最も重要な点です。
アンナのふくれっ面と笑顔、フランソワの無邪気さを心ゆくまで堪能しましょう。お勧め。

アンナ可愛い

フランソワ可愛い

いやヒゲの革命家が可愛い

サウンドトラックは「アメリ」にちょっと似た感じの可愛い曲ばかりですね。
お気に入りです。

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