解体病棟 ファイナル・デッドオペレーション

Autopsy
解体病棟 ファイナル・デッドオペレーション

原題「Autopsy」は「検死」の意味で、そのものズバリ、発作的病院残虐物語。若者たちが訪れた病院は恐怖のホスピタル。上映会での邦題は「解体病棟」

解体病棟 ファイナル・デッドオペレーション

2009年の秋に開催された「AFTER DARK HORRORFEST* JAPAN2009」で「解体病棟」として上映されたゴアサイコスラッシャー。DVD化の際に「ファイナル・デッド・オペレーション」などという馬鹿馬鹿しいタイトルを付けられてしまいましたが、人気シリーズ「ファイナル・デッド」というか「ファイナル・デスティネーション」とは無関係。

よくある安っぽいスラッシャーホラーかと思ってどうでもいい気分で見始めたものの、これはなかなか面白い、というか良い、というかめっけもの、いやかなりの出来映え、それどころか大好物の大当たりで今年観た上半期ではベストを争うほどのお気に入りとなってしまいました。

オープニングは若者たちのスライドショーで、仲良しグループのお約束人物紹介シーンを全てここに凝縮させます。オープニングクレジットが終わるといきなりの交通事故から物語がスタート。
単独事故かと思いきや誰かを轢いてしまったらしい。運良く救急車が来てみんなで病院に行くことになります。ヒロインは被害者のことを心配します。「彼にもしお子さんがいたら・・」とか、良いセリフを言わせますね。丁寧です。

さて乱暴な看護師に連れられてやってきたその病院、ここは世にも恐ろしい病院でありまして、もうこれは最悪の無茶苦茶の、どうなってんのこれはと思うような異常な医師と看護師たちの魔窟で、まさにキチガイ病院とはこのことです。ゴアとスラッシャー、恐怖と狂気が炸裂しますよ。

筒井康隆氏の短編に「問題外科」という大変問題のある無茶苦茶な小説がありますが、それを思い出させるこの映画、大いに問題がある医師や看護師が若者たちをとんでもない目に遭わせます。もちろん「問題外科」とこの映画に類似性はありません。ただちょっと思い出しただけですのでお気になさいませんよう。

全体を包む雰囲気はゴシック系の真面目な恐怖映画であり、随所にダリオ・アルジェント的演出が見られます。古典的で芸術的なショットやシーンには隙がなく、舐め回し的痛い描写やびっくりシーンに美しさが漂います。
ダリオ風味と共に「黒い太陽 731部隊」を彷彿とさせるとんでもないシーンもあったりします。 後半の展開はフレンチホラーばりの頑張る女性のカタルシスも味わえるし「ホステル」に近い洒落っ気や突き抜け感さえあります。

ダリオ・アルジェント風味と言えば楳図かずお大先生風味もあります。もともと両者は共通するものが多いのですが、本作ではより梅図調が際立っているように思えます。
細部が妙に丁寧で些細なセリフにも個性が感じられること、かと思えば大きな物語の理屈を適当に無視していたりすること、小さなリアルな痛みと荒唐無稽な悪夢が同居していること、美しさと異様な空気感に満ちていることなどです。特に「洗礼」や「14歳」の一部が本作との類似性を感じさせます。

さて「ファイナル・デッドオペレーション」の大好物たる所以は多方面です。

まず演出です。上述の通り、良い意味でダリオ・アルジェント風味が強く、梅図的で古典的でゴシックです。びっくりシーンもほんとにびっくりしますし、保守的な演出の中に意外性や現代性もちゃんと交ぜていて退屈させません。思い切りも良いです。意味不明のシーンには意味不明ながらシーンとしての迫力があってOKだし、美術的にも優れています。ちょっとあざとい撮影技法も恥ずかしがらずにやり遂げます。立派です。

それから注目すべきは、ホラー映画には珍しく文芸的なとぼけた間合いと会話の妙技が含まれる点です。
ジャームッシュ作品や北欧映画によく見られるシニカルでおとぼけた間の美学。これを入れるとはハイセンスですね。決して軽薄なギャグに陥ることなく、それとなく含まれる文学的お笑いのセンスがきらり光ります。このあたりはヨーロッパ映画への傾倒とも言えるかもしれません。なんせ根っこがイタリアンホラー風でもありますから。
シニカルな間合いだけじゃなく、多くのびっくりシーンのひとつにほんとにびっくりする右ストレートパンチシーンもあったりして、これら演出は見どころとなっておりますよ。

シナリオです。 細やかなセリフが際立っています。病院の設定とか物語の大枠とか整合性とかは適当で、細部にこそ命を吹き込んでます。
交通事故被害者の心配をする冒頭のヒロインを始め、「血を飲んじまった」とおどおどしまくりの青年など、登場人物たちが全員立っています。特に怪しい看護師たち、彼らのセリフは現場労働を知る者にしか浮かばないような職人的おかしさに満ちています。
彼らの現場労働者的会話は要チェックです。薬の件やクレアを前にした二人の掛け合い、サンダーシーンは最高。
ネタバレでストーリーを追いながら全ての面白い会話を抜き出して解説したい誘惑に駆られますが堪えます。 出演者たちとその設定もいいですね。後述しますが「ターミネーター2」のコンビを実に上手く使っています。
ヒロインもいいし、もうひとりの女の子もかわいいし、「血を飲んじまった」の彼なんかはとても美味しい役をやってます。緊迫したシーンで横手から普通に登場するあの素晴らしいシーンは歴史に残ってもいいくらいです。
ロシアから来た彼は「6人兄弟の末っ子で甘やかされて育った」感がとてもよく出ていて、そういう彼だから「じゃ内蔵を頂くか」という細かい病院側の理屈も変に筋が通っていて素晴らしい。ちなみにヒロインは元医大生で頭が良いから「脳味噌頂くか」とか、マリファナ好きの青年は役に立たなさそうだから「適当に殺しとくか」ということでそれが仇になったり、そういう見過ごしそうな細かな設定が貫いています。こんなところは細かいのに、大筋がいい加減で、他の患者のシーンなどはシーンさえあれば理屈なんかどうでもよいというその姿勢が勇ましいです。

期待し過ぎてはいけませんし決して名作映画じゃありませんし、グロすぎて気分が悪くなる人もいるだろうから多くの人にはおすすめしませんが、思わぬ収穫系です。ダリオ、ジャームッシュ、フレンチホラー、ホステル、梅図、そういった言葉にピンと来る人、大筋を許して細かい部分に価値を見いだす人にはお勧めの掘り出し物と言い切ります。

本作の監督アダム・ギーラッシュはダリオ・アルジェント「サスペリア・テルザ」の脚本を書いている人です。本来脚本家で、幾つかのホラー映画に出演もしています。脚本家らしい丁寧なシナリオが見どころなのも頷けます。もしかして初監督作品かも。
厭な予感がしてまだ観ていない「サスペリア・テルザ」観てみようかなあ。

ヒロイン、エイミーを演じたのはジェシカ・ロウンズ。テレビドラマ「新ビバリーヒルズ青春白書」と同2に出てるそうな。ビバリーヒルズ青春白書って人気ですよねえ。昔見てました。
その前は2005年、「ダンス・オブ・ザ・デッド」(トビー・フーパー)に出てたあの女の子なんですねえ。へえ。

医師役ロバート・パトリックは「ターミネーター2」の、あの溶ける金属ロボットの人。あのパンキーな人がこうなりましたか。へえ。「音楽を止めろ」のシーンとか最高です。

看護婦役のジャネット・ゴールドスタインは「エイリアン2」の女兵士や「ターミネーター2」の義母役のあの人ですって。へえ。へえ。 この二人の使い方は、ある世代の人間にとってはツボでしょうね。

死体の指にサンダーをあてたり、同僚の気違い職人をなだめすかしたり、病院の引っ越しの際の残務処理の心配をしたり、とことん職人肌のあの男を演じたのはテレビドラマの仕事が多いロバート・ラサードという人。この人のアジア顔、現場や飲み屋やライブハウスで会ったことがあるようなそういう馴染み深い顔です。

唾吐きまくりのあの男を演じたのは「ジャッキー・ブラウン」「マグノリア」なんかに出ているマイケル・ボーウェンという人です。この人荒くれ者の役ですが実はとても優しい顔をした俳優さんですよね。

患者の血を飲んだ彼はロス・マコール。テレビドラマやホラー系の映画に出ている人。ドラマでは主演もやってますね。

もうひとりの女の子クレアはアシュレイ・シュナイダー。この人の見せ場はあの腸どろどろ男との対決、それと脚気の診断シーンですね。いいですね。オープニングクレジットにて可愛さ満開です。「キューティー・バニー」なんて映画に出てます。 というわけでこんな映画を絶賛して呆れないでください。

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