悪魔を見た

악마를 보았다
悪魔を見た

復讐の連鎖。悪魔は誰でしょう。

悪魔を見た

復讐の物語です。
数少ない韓国映画を観た経験からして、韓国の痛いシーンはほんとに痛いです。暴力シーンはほんとに怖いです。
そうであるから期待に満ちて「さぞ痛かろう、さぞ辛かろう」とわくわくです。
期待しすぎていると若干気落ちしますが、痛さの描写は面目を保っています。
ただ、世紀の大天才ポン・ジュノや「オールドボーイ」と比較すると、それはまあそこまでは到達していないかもしれません。全体的に。しかし突出したトップレベルとの比較も野暮ですし、突出したトップレベルとの比較の土台に上がれるかもねという意味ではレベルの高い作品と言えるかもしれません。

恋人を殺された男が復讐を目論み実践していく話です。
これ、冷静にお話だけかいつまんでいくとコメディかドタバタみたいなストーリーです。復讐の連鎖と身の破滅です。
物語の早い段階で殺人鬼が主人公を見て呟きます「サイコ野郎」
はいそのとおり、いったいどっちが殺人鬼でサイコなのかわかったものじゃありません。悪魔はどっちなんだいという、そういうテーマも内包していますし、復讐の無意味さなども表現します。
が、しかしそれでもやはりメインのストーリーはパワーアップしていく復讐合戦にあります。
拷問と残虐、非道と猛進、脇目もふらず暴力が連鎖します。もはや殺人鬼と復讐男は同業者で大親友です。この二人の闘いを前に一般庶民はどん引き、他所の世界で好きなだけ殺し合いでも何でもやってくれとすら思えてきます。

さてそんな感じで観ていて思い出したのが「毟りあい」という筒井康隆さんの短編小説です。
「毟りあい」は妻と子を人質に自宅に立てこもる犯人に逆上した主人公が、その犯人宅に押し入り犯人の妻と子を人質に立てこもるというお話です。警察やマスコミを利用しつつお互いに脅しあい、嫉妬しあい、人質を痛めつけあうというとんでもない小説です。

「悪魔を見た」は「毟りあい」ほど面白い展開にはなりませんが、根底に似たテイストを感じます。

この映画が突出したトップレベル映画に今一歩なりきれないのは、全体的に盛り沢山で娯楽作品色が強すぎる点にあります。
復讐連鎖の無意味さを説くのか、復讐連鎖そのものを楽しませるのか、ヒーローものにしたいのか、ヒールものにしたいのか、どれということなくすべてぶちこみまして、おかげでみんなが楽しめるたいへん面白い映画に仕上がっていますが、超絶個性というものからは一歩退いた感じです。
いえそれが目的だろうから全然文句があるわけじゃありません。

いろんなものをぶち込んだその一例ですが、まずは「オールド・ボーイ」でも強烈だった怪優チェ・ミンシクの魅力ですね。この人の優しいのやら怖いのやらよくわからない恐ろしさは逸品です。
で、このチェ・ミンシクの役柄にはいくつかの名作映画の香りが忍ばせてあります。
最初に気づくのは「ノー・カントリー」のハビエル・バルデム風味ですね。演出面でもシナリオ面でも「ノー・カントリー」的なるものを何度も感じます。
チェ・ミンシクが演じる殺人鬼には「悪魔のいけにえ」的な野蛮な怪物の面と「ノーカントリー」的な理屈っぽい怪物の両面があります。
じつはまだあります。ご存じ「セブン」のケヴィン・スペイシー風味です。
後半のあるシーンで、まったく「セブン」的な展開に目が釘付けになるところがあります。いやはや、怖い演出ですねー。堂々とね、両手を挙げてね、まいいか。
じつはまだあります。ハネケ「ファニーゲーム」風味です。こちらは唐突に出現するので、真面目に映画を観ている人には「なんで唐突にこの展開になるねん」「これはやりすぎやろ」「相方おったんかい」と不快に思われるかもしれません。この「ファニーゲーム」仕立ては、制作的には若干ギャグかパロディのつもりがあるとも取れます。というのも、直接的な描写はなく、単に「ファニーゲーム」を感じさせるだけだからです。「あ、こいつら夕べここでファニーゲームやっとったんか」と観ているこちらが勝手に合点するような演出です。
このシーンを制作側がパロディでやっていると確信するのは、ほとんど大真面目なこの映画の中で、ここにだけギャグシーンが紛れ込まされているからです。
というわけで殺人鬼をめぐるだけでもこれだけの名作映画のタイトルが思い浮かびます。

映画全体を見渡せば、それこそ残虐描写は「ホステル」などの強烈映画並みに過激だし、ヒーローに見えてその実、被害者がそこそこ被害を受け始めなければ動かない悪党ぶりを秘める主人公の二面性や、正義と悪の問題も感じさせてくれるし、「SAW」ばりの装置でお仕置きを完了したりするお茶目さなど、ほんとに盛り沢山です。
決して、復讐連鎖のむなしさだけをテーマにしているわけではないのです。

名作映画からいろんなシーンを拝借しまくった映画にあまりよい映画はありませんが、「悪魔を見た」はなんと、それでも尚おもしろい映画なのです。
ここは素直にすごいです。
一つずつの要素を手抜きしていないし、表現力もびしっとあるし、これはやるからには徹底的にやるぜという情熱と志の結果であろうことは明白です。

チェ・ミンシクの力に依るところが相当大きいとはいえ、壮絶パワーのある映画でございました。

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