スパニッシュ・アパートメント

L'Auberge Espagnole
スパニッシュ・アパートメント

「エリートとして将来の仕事のために留学せよ」とそそのかされ、スペイン留学を決意する青年グザヴィエ(ロマン・デュリス)。医師夫妻宅の居候を経て各国留学生たちとの共同生活へ。「猫が行方不明」のセドリック・クラピッシュによるEU統合型青春映画。

スパニッシュ・アパートメント

エラスムス計画というのは、EUとEEAおよびEU加盟を希望している国々の学生流動化を促進する計画で、言ってみれば各国留学への助成などを行う高等教育運営の枠組みのことです。
主人公グザヴィエはこのエラスムス計画を利用したスペイン留学に赴くわけですが、フランスに恋人(オドレイ・トトゥ)を残し、不安でいっぱいです。飛行機の中で泣いていたりします。
最初に登場する面倒見の良い医師を「こいつ馬鹿」と心で罵るくせに、困った時にちゃっかり世話になったりします。
いろいろな経緯を経て各国学生がルームシェアするアパートに入居することになり、男女混合7カ国の若者たちの共同生活が始まります。

軽快なテンポで描かれる異国での暮らし。
各国の若者たちも個性的で、短いシークエンスの中で彼らの魅力もびしっと描かれます。
下手すればいくらでも臭く作れたであろうこの設定この物語、しかし「スパニッシュ・アパートメント」は小気味よくてハイセンス、細部の懲りようも見事で、青春映画としての青臭さや稚拙さ雑さ恥ずかしさなど負の側面が全くないたいへんな良作です。

まず各国の若者ですが、ある程度は各国人の特徴をカリカチュアライズした類型として設定されているものの、それ以上に個人として描いていることに注目しなければなりません。例えば「ドイツ人は真面目、フランス人は愛に生きる、イギリス人は神経質」みたいなそういう認識からの脱却です。
ある愚かな人物が表面的で稚拙なお国ネタのギャグを披露するシーンがあります。聞いているメンバーは白けきっていて「なぜ一般化するのか」とたしなめられるんですね。
映画を観ているこちらも同じ感覚を得られます。「フランス人は『ぼにょぼにょぼにょ』アメリカ人は『へーいうぇーいうぉーえ』わははは」それのどこが面白いのか。お前アホだろう。みたいな。
重要なことは「国の差より個人差」です。これが人間の基本です。このことをちゃんと感覚で理解できる仕組みがこの映画にはあります。

シナリオ的に娯楽映画としてこの愚かな発言をした人物にもちゃんと活躍の舞台を用意します。単に「馬鹿」という安易な設定では終わらせないあたりも、一本筋が通ってます。彼がイタリア人を一般化して茶化したことをたしなめられたのと同じ理屈で、彼を単なる馬鹿な若者という一般化した設定から解放するんですね。細かいことに気を配った良い脚本です。

エラスムス計画による留学生たちというのもいい設定です。何がいいかというと、彼らはある程度のエリートで頭が良くインテリなわけです。ただの不良でもないし馬鹿ではないのです。同時にまた融通の利かない堅物でもないし、無駄と非合理を嫌いマイノリティを差別する権威主義者でもありません。
マリファナを吸っても飲み過ぎてゲロ吐いても不倫しても、それは彼らの血となり肉となります。
無駄にだらだら過ごす時間、育ちも考えも違う人間とのコミュニケーション、羽目を外すことの重要性、個人の多様性やカテゴライズの愚かさ、そういう大事なものごとを彼らエリート予備軍が体験していきます。
彼らのサロンから未来の希望が垣間見れます。

さてそんなこんなで「スパニッシュ・アパートメント」は、バルセロナで繰り広げられる若者たちの暮らしをテンポよく面白可笑しくそれでいてきちんと描き倒しまして、青春映画としてかなりの良品だと思っています。
頭の良い若い人たちには特にお勧めです。こういうのを観てから大人になってほしいところです。前向きになれる元気映画。
エンディングはちょっとだけ恥ずかしい青臭いオチになりまして、せっかくカテゴライズからの脱却に成功した本作なのに最後はお役所仕事やエリートの存在をカテゴライズして単純化してしまいます。個人的には好きな終わり方ではありませんがそれはまあサービス的な締め方というか、些細なこととして気にしないでおきましょう。

さて出演者の中で特に注目がイザベル役のセシル・ドゥ・フランス。この作品でセザール賞助演女優賞を受賞しました。
セシル・ドゥ・フランスは後に「ハイテンション」でも壮絶演技していました。そのまた後は「モンテーニュ通りのカフェ」でこれまた全然違う役で可愛かったですね。最近では「ヒアアフター」に出演しておられます。
「スパニッシュ・アパートメント」では主人公が大学で知り合いとっても仲良しになる個性的な女性の役です。
「ハイテンション」ではオチが賛否両論でしたが、「スパニッシュ・アパートメント」での役柄を踏まえると、もしかしたら洒落た設定だったのかもしれないな、なんて思ったりしますが真意はわかりません。

主演のロマン・デュリスは街角でスカウトされて俳優になった人らしいですね。セドリック・クラピッシュ作品の常連です。エキゾチックな部分や男前な部分や情けない感じの部分やいろんな面を持っています。

恋人役のオドレイ・トトゥは比較的地味な役で、観る人の多くは未だに大ヒット「アメリ」の呪縛から逃れられていないようです。怪作「愛してる、愛してない」や「堕天使のパスポート」「ロング・エンゲージメント」などを経て、駄作「ダヴィンチ・コード」でハリウッド初出演。どうなるかと思ったら2009年には「ココ・アヴァン・シャネル」でココ・シャネルを演じられたそうです。

人気作「スパニッシュ・アパートメント」は続編も作られました。「ロシアン・ドールズ」ですが、未見ですのでどんな映画か知りません。

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