ナイト・オン・ザ・プラネット

Night on Earth
ナイト・オン・ザ・プラネット

五つの都市、それぞれのタクシードライバー物語。

ナイト・オン・ザ・プラネット

うっかり観るのを忘れていた「ナイト・オン・ザ・プラネット」を観てみました。90年代に入るとちょっと忙しくなってなかなか映画を観ている時間が取れなくなっていった個人史などはまあどうでもいいんですが、特にこの「ナイト・オン・ザ・プラネット」は「どういうふうに面白いか観なくても想像できるわ」という舐め腐った安心感から劇場に出向くことなく、ビデオをレンタルすることもなく、20年経ってしまったのですね。

20年経ってみると、出演者の皆さんの若さにも驚きます。ウィノナ・ライダーもジーナ・ローランズもロベルト・ベニーニもマッティ・ペロンパーも、記憶に一番強く残っている年齢のままこうしてフィルムに固定されていて、「若いなあ」と思うより「まさにこの人はこの感じ」と言えるお姿です。

さて感傷に浸ってないで「ナイト・オン・ザ・プラネット」ですが、これはタクシードライバー物語です。ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市の同じ時刻、それぞれのタクシードライバーと乗客との会話劇が繰り広げられます。
それぞれの国のお話に関連性はなく、独立した5つのお話になっていまして、彼らの会話や仕草は「わびさび」「ずば抜けたセンス」「間合い」「コミュニケーションの妙技」「とぼけた可笑しさ」に満ちています。ジム・ジャームッシュ節炸裂です。「どんな面白さか観なくてもわかるわ」と若いときに生意気思っていたとおり、期待を裏切らない身もだえする面白さです。どんな面白さかわかっていても、その面白さに触れたい時には最高の選択肢となります。

最初の舞台はロサンゼルスのウィノナ・ライダーです。乗客はジーナ・ローランズ。世界一かっこよく煙草を吸う女優ジーナ・ローランズの前でチェーンスモークを続けるウィノナです。そして絶妙なタイミングでいよいよジーナが煙草に火をつけるこの一瞬の素晴らしいことと言ったら。うなるぜ。

ニューヨークではジャンカルロ・エスポジート演じるヨーヨーがアーミン・ミューラー=スタール演じるヘルムートという名の頼りないタクシーに乗り込み、漫才のような大笑いの会話劇を繰り広げます。多分一番笑えるシークエンスでしょう。面白さと優しさに満ちています。

パリではイザック・ド・バンコレとベアトリス・ダルが絡みます。イザック・ド・バンコレがジム・ジャームッシュ映画の常連になる最初の作品かもしれません。ベアトリス・ダルもまだ若く、しかし強烈な演技をかまします。この変わり者の女優が後に「屋敷女」を演じたのも納得です。

ローマではロベルト・ベニーニが喋りまくります。「ダウン・バイ・ロー」でも即興の饒舌を披露しましたが、さらにパワーアップして饒舌の鬼と化します。イタリア語の流れるような旋律です。ローマの細い道をくねくね走り回るシーンは「悪魔の首飾り」をちょっとだけ彷彿とさせるかもしれません。

そしてヘルシンキです。アキ・カウリスマキとの親交が目立っていたころですね。「アキ」とか「ミカ」とか楽屋落ちに近いネタもまぜながら、北欧っぽい素直で単純ないい人たちの会話が楽しめます。急逝が惜しまれた世紀の怪優マッティ・ペロンパーが絶頂期のままの姿形で登場し、三人の酔っ払いに話を聞かせます。

というわけで「ナイト・オン・ザ・プラネット」はタクシー内での小さな短編集仕立て。街と会話とドライブと煙草、軽くて素敵で優しくて妙、後の「コーヒー&シガレッツ」と繋がっているかようなテイストの作品です。

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