ピナ・バウシュ 夢の教室

Tanzträume
ピナ・バウシュ 夢の教室
公開年:
2010
製作国:
監督:
脚本:
撮影:
  • ライナー・ホフマン
主演:
出演:
  • ベネディクト・ビリエ
  • ジョセフィン=アン・エンディコット

舞踏家ピナ・バウシュの演目を演じるために指導を受ける10代の少年少女たちを追うドキュメンタリー。

ピナ・バウシュ 夢の教室

2009年に急逝したピナ・バウシュに関する映画が2010年2011年に二本ありまして、ヴィム・ヴェンダースの「Pina」と、本作「夢の教室」です。日本では2012に公開されました。

「ピナ・バウシュ 夢の教室」は、ダンス未経験者の少年少女たちが、ピナとピナ直属の二人のベテランから指導を受け、「コンタクトホーフ」を演じきるまでの10ヶ月間を追ったドキュメンタリーです。

数十人の子供たちは毎週土曜日に集まって舞踏の練習に励みます。わずか10ヶ月後には上演の舞台が決まっているという、そんな状況です。数十人が猛特訓し、最後には抜擢された精鋭が出演できます。

少女漫画のバレエものでは、こうした抜擢に関して妬み嫉みが発生してトゥ・シューズに画鋲を入れる事件が発生したり上演直前に不幸が舞い込んだりしますがこの映画ではそんなことにはなりません。まず演目が普通のバレエ作品ではなくピナ・バウシュのぶっ飛び作品です。タイプが全然違います。それにドキュメンタリーですから、画鋲を入れたりなんかしたらカメラに収められて末代まで笑いものです。

10代の彼らがどのように集まってきたのかはよくわかりません。「ピナ・バウシュ 夢の教室」の中では状況の説明は一切ありません。「先生に勧められて」って言ってる子が確かいましたので、割と軽い気持ちで入ってきた子もいそうな案配です。「ちょっとやってみようかな」とか。
全員が舞踏未経験者で、幼稚園の頃からバレエを習ってたベテランダンサーとか、そういう子もいなさそうです。賢くて優秀な子ばかりであることは一目瞭然ですが、何人かは「ピナ・バウシュって誰」と思いながら来たそうですから、ここまですると集めたほう、つまりピナ・バウシュの何かしらの意図で「わざと素人を集めた」と判断出来そうな気がしますが実際どうなのかは知りません。

映画はいきなり指導風景から始まります。特にナレーションや状況説明はありません。時々、少年少女たちの個別インタビューが挟まれます。インタビューシーン以外は、淡々と指導風景を撮っています。余計なお節介がないので、これは良いドキュメンタリー映画です。

「はて。これはいったい、何をしてるんだろう」と、私のような素人は思います。皆さんも思うでしょう。何故10代の素人たちが集まったのか。何故彼らが「コンタクトホーフ」を演じるのか。この企画は誰の企画なんだろうか。何かのイベントだろうか。町興しだろうか。市町村の要請だろうか。

そこで色々ぐぐってみましたら何となく意味がわかりましたので、他人の受け売りでご説明します。

「コンタクトホーフ」という作品は、ご覧の通りたくさんの男女が群れをなして舞台上舞台で踊ったり演技したりする演目です。ピナ・バウシュ1978年の作品だそうです。
で、この作品のバリエーションのひとつというか、登場人物が全員60歳代の「コンタクトホーフ」ってのを2000年か2001年にやったことがあるんですって。で、それの「全員10代バージョン」をやろうってのが企画の根っこだそうです。なるほどそういうわけだったのか。
だからこの映画における少年少女への指導は、舞踏団の日常的なルーティンでもなく、ボランティアでもなく、小銭稼ぎの舞踏塾でもなく、町興しの色物企画でもなく、ヴッパタール舞踏団としての立派な演目をやり遂げるための集中練習なのであるというわけです。決して片手間に子供たちを指導しているのではなく、舞踏団としての本気の取り組みであるという点を合点しておいたほうが、より緊張感が味わえるかもしれません。

というわけで、10代の子たちが猛特訓する様子をご覧になれます。
「ピナっていう人を知りませんでした」とか何とか言っていた彼らが、どんどん成長していきます。才能を持った子が目立ってきたりします。最初頼りなさそうな演技をしている子が目を見張る顔つきに変貌していきます。

いわゆる、10代の彼らが最終目的である上演の日を迎えるまでの「努力と根性のスポコンもの〜ダンス編」みたいな見方も出来なくはないです。ひとりひとり個性的で、彼らにもドラマがあり、辛いこともあり、でも頑張って晴れの日を迎えて感動じ〜ん、です。そういう要素ももちろんあります。だから特に舞踏やピナ・バウシュに興味がなくてもドキュメント青春映画として多くの人が楽しめるだろうと思います。

しかしながら、やっぱりなんと言ってもピナ・バウシュの作品「コンタクトホーフ」の魅力が凄まじいです。
演じる少年少女たちの成長する姿は、青春なんてちょろいものではなく、アートの領域に踏み込みます。彼らの身のこなし、顔つき、全身の力の入れよう、これらが完成して行くに従って「Pina」でも見たあの芸術的感動を覚えずにはおれません。
優れた芸術作品に触れたときに涙が出るということがあります。芸術的感動は他のどんな感動よりも大きく深いものです。
10代の素人たちには、見るものにそういった芸術的感動を与える力が完璧に備わります。
彼らも凄いが、彼らにその力を植え付けることに成功したピナと二人のコーチの、その指導力の凄さを実感できます。

例えば比較的序盤に、狂ったように笑って走り回るという演技を指導するシーンがあります。最初、なかなか上手くできない生徒です。彼女にコーチがヒントを与えるため「手を握って、さあ一緒にやってみましょう」と、ふたりで笑いながら駆けるんですが、まあさすがコーチ、その力は半端じゃありません。二人が手をつないで笑いながら走り回るのを見た瞬間、私は全身さぶいぼぼー(訳註:鳥肌が立った)で、さらに目頭がぶわっと熱くなりました。なんですかこの途方もない力は。

というわけで、芸術的感動の理由は「コンタクトホーフ」そのものの力、その中のピナの振り付けの完璧さがまずあります。そしてそれを演じる人間の力、演じる人間に指導する力があります。さらに映画に関して言うなら、その場所のロケーション、光や空気があって、それをびしっと収める撮影の技術があります。
それらすべてが合わさると、奇跡のような芸術が生まれます。
例えば、DVDのカバーにもなっているこのスチール写真を見てどうですか。この奇跡的なショットをじっくりご覧ください。

これはいったい、どこの古典絵画の名作ですか。
この構図、この人間たち、動き、形、顔つき、指先、衣装のしわ、光と影、この写真はすでに異常事態です。こんなのが「コンタクトホーフ」の中のほんの一瞬の出来事なのですよ。もう恐れ入りました。ごめんなさい。すいません。堪忍してください。

そういえば「Pina」の写真もとんでもなく力のこもった写真でしたね。
Pina / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち コレクターズ・エディション [DVD]

 

スチール写真はどれもこれもいいですね。どこを切り取ってもこれほどの構図を維持してるんですね。

 

というわけで、凄いものを教え込まれて凄い人になっていく高校生たちのドキュメンタリー、見応えあります。
Pina」とセットで堪能してください。

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“ピナ・バウシュ 夢の教室” への 2 件のフィードバック

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