フューネラル/流血の街

The Funeral
1930年代、ニューヨークで頑張るマフィアの家族、固い結束の三兄弟を描きます。ただし三男は冒頭から死んでいます。その三男のお葬式(funeral)、長男宅に次男を初め家族が集います。弟に何があった。弟はなぜ死んだ。
フューネラル/流血の街

濃いです。ひたすら濃いです。
イタリアから渡ってきたマフィアの息子たちは立派なチンピラに育ち、ものすごく濃い三兄弟となっています。

まず長男がクリストファー・ウォーケンです。いかつさが半端じゃありません。こんな厳つい怖い顔の俳優がいていいんでしょうか。でも実際はダンサーとして舞台で踊ったり大学時代は英文学を専攻するなど厳ついイメージとは全然違う人のようです。でも厳ついものは厳つい。目の奥に宿る知性が怖さをさらに引き上げるのでしょうか。

次男はクリス・ペンです。「レザボアドッグス」でも強烈な印象を残した俳優一家の三男坊。「フューネラル」ではたっぷり肉がついた一見コミカルな風貌とは裏腹に、秘めた狂気を感じさせる強烈な役割です。少年の頃からスポーツしまくりのアホタレ坊主で映画デビュー後は勢いあったのに麻薬に手を出し迷走、長男ショーンに救いの手を差し伸べられたこともあって復帰後の「レザボアドックス」以降は特に個性を発揮、しかし残念ながら2006年に亡くなってしまいました。

そして死んでいる三男はヴィンセント・ギャロです。マフィアなのに社会の理不尽や資本主義の暴走を憎む共産主義にもかぶれているアウトサイダーです。「アリゾナ・ドリーム」の4年後、「バッファロー’66」の2年前に当たる年の本作です。若々しさとインテリジェンスが同期したまことぴったりの役割、でも冒頭から死んでいます。

と、役柄と役者を完全に混同しておりますが、三兄弟のこの濃さが如何に強烈かおわかりと思います。

さらに長男の嫁と次男の嫁が重要な役割で登場します。この奥さんたちが凄く大事なシーンを紡いでいます。

で、「フューネラル」はいったい何の映画かいなとお思いでしょうが、世に言われているような「ニューヨークマフィアの抗争映画」とはひと味もふた味も違う映画です。ある程度抗争はしていますが、かつて70年代に隆盛を極めたマフィア映画の抗争劇とは全然種類が違います。

マフィアであるところの、三兄弟を描いた家族映画です。ようするにファミリー映画です。そして舞台は葬式です。
三男の死の理由を探したり、回想として彼らの生活が描かれたりします。

マフィアファミリーの得意先でもあり微妙な敵でもある抗争相手を演じるのはこれまた強烈個性のベニチオ・デル・トロ。「21グラム」や「チェ」の彼です。なんとなく日本の俳優みたいな顔にも見えるラテン顔が躁病的怖さを秘めています。
三兄弟だけじゃなく、ここにも濃すぎる男が配置されていて、まあようするに濃いのです。

この濃い連中に濃いお話の濃い演技をさせたアベル・フェラーラがこれまたイタリア系の怪作撮りまくる濃すぎるぐらいの強烈監督。79年の「ドリラー・キラー」も最近の「4:44」も観ていませんが強烈っぷりは聞き及んでおります。

いつまでも濃い濃い言うとりますが、お話を紹介するでもなく何となく紹介するとこうなっていまします。
で、これ何で観たかったのか忘れましたが、多分「4:44」を観ようと思ってたときに、アベル・フェラーラ観たことないと気づいて、それでどれか観ておこうかなと思ったのかも知れません。ギャロも出てるし、初心者だし、いいかな、と。

で、てっきりマフィアの抗争映画と思ってたんですが全然違うファミリー映画で、なんか撮り方も役者のとらえ方も、普段あまり見ないタイプですが、これがめちゃいいんですよ。ずっとタイトルすら知らなかった「フューネラル」ですが、これってわりと歴史に残ってもいい名作なんじゃなかろうかとまじ思いました。

死んだ弟を前に復讐を誓う長男、弟への愛が深すぎて怒りも悲しみも宇宙規模で膨張する次男、そしてそれぞれの奥さん、そして何かむかつくタイプのあいつ、死んだ理由は何なのか、誰が殺したのか、もうね、そんな感じで、映画自体は静かな映画ですけど、胸騒ぎやマフィアに対する恐怖感や、いろんな感情が押し寄せてきましてじっと見ていても忙しくざわつきます。

ぜんぜん知らなかった意外な名作、96年の濃すぎる一本「フューネラル」でした。初めて知りました。

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