残酷メルヘン 親指トムの冒険

Le Petit Poucet
残酷メルヘン 親指トムの冒険
公開年:
2010
製作国:
監督:
製作:
  • シルヴェット・フリードマン
  • ジャン=フランソワ・ルプティ
脚本:
原作:
撮影:
  • ヴァンサン・マチアス
音楽:
主演:
出演:
  • ラシェル・アルディティ

鬼才マリナ・ドゥ・ヴァンによる童話「親指トム」の物語。「親指トム」の原作としてペロー版を採用、ややダーク、でもしっかりファンタジー。

残酷メルヘン 親指トムの冒険

マリナ・ドゥ・ヴァンは不思議なひとで、どうにも特徴がつかめません。じつはこの方の仕事には描くべき事柄に一貫性がないことが特徴なのかもしれません。強いて言うならば、描く内容には一貫性がないものの「変わった面白いことがしたいの」という姿勢に一貫性があるのかもしれません。どうにも目が離せない監督です。

さて「親指トム」はイギリスの民話だそうで、これを童話作家が作品として後の世に伝えました。書物にまとめた最古とされるリチャード・ジョンソン版の他、グリム版、ペロー版などいろいろあります。世界中に似たような小人の物語も伝わっております。普遍的な童話です。
本作はフランスの詩人シャルル・ペローがまとめた「親指トム」を原作にしております。ペロー版「親指トム」がどういう内容か知りませんが、映画「親指トムの冒険」のトムは小人ではありません。普通の少年で5人兄弟の末っ子です。

ダーク・ファンタジーってことで、奇妙な人マリナ・ドゥ・ヴァンがこの物語をどう料理したのか、興味津々で拝見いたしました。

最初はどう見ていいのか、ちょっとだけ掴みにくくなっています。というのも、このファンタジーを「残虐なホラーテイスト」で描くのか「とことんリアリティ」で描くのか「社会性を帯びさせる寓話」で描くのか「ぶっ飛びファンタジー」で描くのか、まったく予想できないからです。

マリナ・ドゥ・ヴァンの作品に無理矢理共通点を見つけ出すとすれば、それは冒頭のテイストが後の本編のテイストとまったく異なっていたりして、展開の予想がつきにくい点かもしれません。

「親指トムの冒険」の冒頭は、ファンタジックでもあり、ナンセンス系のギャグ風でもあり、シリアスなヨーロッパファンタジー風でもあり、貧困をリアルに描いている風でもあり、真面目に見ていいのか、多少怖がってみるべきなのか、なんか全然わかりません。かといって不思議な雰囲気でもないし、まるで普通です。いえでもよく見れば普通じゃありません。
貧乏な夫婦と5人の子供たちのやっている芋掘りも、馬鹿馬鹿しいのか笑うところなのかシュールな光景なのか、どれもあたってるしどれでもないという風にも取れます。

最後まで見てもしこの映画が気に入ったら、この序盤の撮り方の面白さを再認識できるはずです。

物語の中盤、子供たちが人食い鬼と出会うあたりから本作は本領を発揮し始めます。

最初に親指トムであるべきトム少年が「普通の少年」であったように、なんと恐ろしい人食い鬼も人食い鬼というかなんというか、まあその、人食い鬼だけに人を食ったような描き方です。

恐るべき事はこの人食い鬼を演じているのが「ポンヌフの恋人」のドニ・ラヴァンという、とんでもないキャスティングであることでしょう。

ドニ・ラヴァンの人食い鬼こそ本作のキモ。これは堪能できますよ。この人の演技のシーンで、いきなり画面がびしっと締まります。

序盤の貧乏夫婦のシーンが中途半端だというわけではありませんが、マリナ・ドゥ・ヴァンの弟であるアドリアン・ドゥ・ヴァンとくりくりお目々の庶民的ラシェル・アルディティの夫婦のシーンは、まあ、その、ちょっとあの、この映画にどう対峙していいのか決めかねてる風な演技だったので、ドニ・ラヴァン登場を境に突如として面白さが爆裂する本作の構成上の秘技を感じずにはおれません。

さて結論から言いますと極めて真っ当なファンタジーでした。

なんせ「イン・マイ・スキン」や「ダブルフェイス」の人ですから、最初ちょっとだけ予想していたんですが、ホラーテイストや残虐テイストはほとんどありません。さほど「残酷メルヘン」でもないです。

童話の映画化ってことで、近年ハリウッドでも白雪姫などいろいろありましたが、そういったタイプのCGフル稼働のジェットコースタームービーでもありません。

まぼろし」で見せたリアリティや心理描写もまったく関係ありません。

画面の美しさを強調しまくった芸術気取りの映画でもないし、もうなんというか、ほんともうまったくもって童話です。

何もかもが適度に地味で適度に奥ゆかしく、そして適度に美しいのです。この適度ってところがぐっときます。

たとえば主人公トムもかなり適度です。この少年の大活躍を情感たっぷりに描くなんて事はしません。
画面の美しさは取り立てて騒ぐほどの芸術性を帯びているわけではありませんが、それでも心の奥底にフィットする美しさを感じます。特に鹿や鳥たちが出てくる最後のほうのシーンは実によろしいです。

ラストシーンも適度に変です。ここで、普通のお客さんはどう思っていいのか、どう感じていいのか、冒頭と同じように少なからず困惑するでしょう。

この捻くれ具合こそが、我らがマリナ・ドゥ・ヴァンの真骨頂かもしれません。
まったく、面白い作品を作る人です。

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