ダブルフェイス

Ne Te Retourne Pas
精神を病んだ女を描かせたら天下一品、才人マリナ・ドゥ・ヴァンが二大女優を病んだ女に貶める妙な映画。ひっそりとっくにDVD化されていた2009年カンヌ出品作品。 ソフィー・マルソーとモニカ・ベルッチが共演します。大人気二大女優です。アイドルです。国民的女優です。気狂い女をありったけの力を込めて描き込むマリナ・ドゥ・ヴァンがいったいこの二人に何をしたのか、そこんところがたいへん気になる映画であります。
ダブルフェイス

この作品、個人的に大ヒットオンパレードの2009年カンヌに出品されていまして気になっていたんですがまさか「ダブルフェイス 秘めた女」なんていう泥臭い邦題が付けられてDVD化していたとはつゆ知らず、で、知ってからも何となく放置していたんですがこないだ「まぼろし」を観てマリナ・ドゥ・ヴァンの名を思い出したのでこれは観てみましょうということで観てみました。

えー。こほん。この「ダブルフェイス」ですが、ジャンルはと言いますと営業的に「エロティックサスペンス」ということになっているようです。こりゃまたひどい扱いですね。売れなさそうなスリラーにはとりあえず「エロティック」と付けておけ、という仕事不熱心な会社員の適当加減がうかがえます。
しかしこれ、ソフィー・マルソーとモニカ・ベルッチの共演ですから、いくらでも売り方はあったと思うんですけどね。
それでですね。えー。こほん。
で、拝見したんですが、こりゃまた困った映画です。
たいへん紹介しづらいです。

まず登場するのはソフィー・マルソーです。
ソフィー・マルソーって女優さん、知ってますか?とても有名な女優さんなのですが、そもそもはアイドル系で大人気、日本でも大人気、アイドルの可愛子ちゃんで名をはせました。名前だけ知っていてご本人を知らない方は画像検索でもして若い頃の可愛らしいお姿をとくとご覧あれ。
とんだアイドル女優かと思いきや、本国では今でも人気トップを誇る大スターです。何年か前のダニー・ブーンによる「ようこそシュティの国へ(
Bienvenue chez les ch’tis )」が史上空前の大ヒット、大騒ぎの余波を受けてフランスで最も人気のある女優に選ばれました。

と、そういうソフィー・マルソーが「ようこそシュティの国へ」の翌年にこのような映画に出演して、そんなのでいいのか、なぜこんな映画にこんな役で出るのか、それがマリナ・ドゥ・ヴァンのやり口か、おんなをくどくおんなのどろどろか、というそんな思いを捨てきれません。

で、そのソフィー・マルソーが冒頭いきなりお風呂っぽいシーンでエロティックに登場(←なんだエロティックサスペンスであってるじゃん)でもちょっとお疲れの様子です。二児の母です。
人の言葉によって自分を制御しきれないほど傷ついたりします。昨日と同じ位置のテーブルを見て「動かしたでしょう!」と家族をなじります。
イン・マイ・スキン」を観た人なら冒頭から半分くらいまでこの「病んだ女」をぞくぞくぞわぞわと楽しめます。
マリナ・ドゥ・ヴァンって人は、病気女を描かせたら世界一の腕を誇る大変態ではないのかと言いたくなる鋭い神経描写のオンパレード。
ソフィー・マルソー演じるこの主婦は、だんだんと記憶や認識を司る回路がおかしくなって、被害妄想も少し入ってきて、怖がったりイラついたり悲しくなったりします。
多分思うのですが、女性がこれを見ると絶対に何某か思い当たる節があったりして感情移入しまくるでしょう。誰しもが経験したことがある自律神経系あるいは超絶鬱症状あるいは分裂系のちょっとした気狂い状態をあまりにもリアルに描写します。
私は男ですがどちらかというと女なので(どちらかというとヒゲのフランス女優なの)この繊細なる精神系の病については多少思い当たる経験もありますし感情移入の想像をすることが出来ます。
そっち系のそういう系の人は、この映画の病気シーンを堪能しまくり「凄い。。」と呻るでしょう。はっきり言って、ここだけでこの映画を見る価値があります。
逆に言うと、この繊細なる女性性的発狂状態に感情移入できない所謂男性性の強い情緒発育不全つまり野蛮人の人にとっては、このあたりのシーンは言わば「前振り」としか映らず、むしろ退屈に思うかもしれません。

さて話は飛びましてモニカ・ベルッチです。
イタリア人ならではの熱いまなざしと美貌、よくあるガリガリ骨皮モデルにはないふくよかで健康的なモニカさん。「イタリアの宝石」と呼ばれたこの女優さんも今ではすっかりおばはん大人の女です。時代の波を感じます。この方、私と同い年でございます。
ヴァンサン・カッセルの奥さんで、夫婦で出演した問題作「アレックス」見事でした。「ブラザーズ・グリム」驚くべき役を演じて舞台のような美しさでした。「シチリア!シチリア!」も素敵でした。

で、そのモニカ・ベルッチ。もはや彼女は体当たり系ど根性女優になったのか。この役はすんごいです。ほとんどおばけです。いや失礼。いやでもほんと。いやあの。
モニカ・ベルッチの描き方を見るにつけ、マリナ・ドゥ・ヴァンの変態性にまたしても呻り倒す羽目になります。
映画での役作りを本気でやると美女も美女を捨てます。それが本気映画というものです。おいそこいらの洟垂れアイドル、聞いてるか。

モニカに悪いと思ったのか、あるいは撮ってみたら凄すぎて削れなかったのか、またあるいはサービスシーンか、モニカ・ベルッチがパーティで踊るシーンがあります。
ここは一瞬、役を離れて「イタリアの宝石」に戻ります。きらきら輝きます。美しい。
この踊るシーンだけでもこの映画を見る価値があります。
逆に言うと、モニカ・ベルッチなんかに興味がなく、美女と言えば骨川筋子みたいなカリカリ人間でしかも表情が欠落した無機質顔、二十歳過ぎれば女はおっさん、と思っていそうなロリコンの変態人間にとっては退屈なだけかもしれません。

さてこれでだいたいどのような映画かおわかりになったと思います(←わからねえよ)

今回このお題にはまだ内緒にしている点がひとつあります。
ネタバレとも言えますが、もしこの内緒事項を知らぬまま期待してこの映画を見てしまった人から怨まれるのも厭なのでちょっとバラしますね。
バラされたくない方はここまでにしておいてください。ではごきげんよう。

はい。というわけで内緒にしていた点をもうしあげます。
この映画の全体像は・・・・やっちまった系です。
安っぽいです。若年層向けのような安易でちゃらけた展開です。「今更」系の見覚えのあるシーンも続出です。
若干のエロティシズムと、ストーリーの子供っぽさが相容れません。
おまけに登場人物のセリフがほとんどすべて薄っぺらで表面的です。
たいへん、残念な仕上がりとなっていますことを、正直申し上げておきます。
マリナさん、一体全体、どうしたんでしょう。ジャパニーズホラーのビデオかなにかを見て影響受けたのか、いままで文学的すぎて、初めて大衆向けの娯楽作品の面白さを知って「これやりたい」とでも思ったのか。それならそれでちょっと可愛い。
どうかまた気を取り直して「イン・マイ・スキン」とか「まぼろし」で見せた壮絶な病気女の映画を撮ってください。お願いします。期待してます。

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