パレス・ダウン

Taj Mahal
インドの高級ホテルに家族で泊まってたまたま一人留守番をしているとホテルがテロ攻撃に遭ってしまうという、その場に居合わせた少女の緊迫した一夜を描く映画「パレス・ダウン」です。「ニンフォマニアック」のステイシー・マーティンが実際に事件に遭遇した少女を演じた実話の映画化。
パレス・ダウン

実際のテロ事件

2008年11月26日、ムンバイで起きた同時多発テロです。10件の立てこもりテロで、翌朝終結したものの、170人以上が死亡し230人以上が負傷するという大変なテロ事件でした(サイドメニューにWikipedia貼っておきました)

あらすじ

インドを訪れていたフランス人家族がいて、両親が出かけて少女がひとりホテルで留守番をしていた夜、大規模なテロ攻撃が付近各所で起きて、ホテルも攻撃されます。恐怖の一晩を生き抜く少女の映画です。実話であり、演じるステイシー・マーティンも事前にその少女にあったそうです。

中心のお話はテロ攻撃の恐怖と火事の危機から生還するこの少女の緊迫した夜を描く部分となります。しかし映画ですからそれだけなわけないのでして、事件の前と事件の後の様子も描きまして、そうですね、全体像的には少女映画っぽい仕上がりになっていました。

序盤のモンタージュ

序盤、インドにやってきた家族を描きます。街を描き豪華ホテルを描き家族の食事を描きちょっと退屈だなと感じている少女のアンニュイを描きます。

正直なことを言いますと、この序盤の出来栄えがあまり好みではなく「これはあれだな、尺を引き伸ばしてるな」と怪しんでみていました。

というのもですね、家族と少女とインドを描く序盤がほとんど全部モンタージュで出来てるんですよ。

モンタージュっていうのは映画技法で、時間の経過を省略したり、ドラマを省略して観客に空想で補ってもらおうとする技法です。音楽だけが流れ、ぱっぱっぱっとシーンを断片的に写していく技法ですね。

普通の映画ではモンタージュは映画の中ほど、あるいは終盤の手前でよく用いられます。刑事が聞き込みをしているとかロッキーが訓練してるとか恋人の楽しい日々みたいな感じですね、そんなふうなシーンはお馴染みです。昨今ではモンタージュという技法が一般に知れ渡っているので逆手に取ってギャグにする使われ方もしています。それぐらい陳腐な技法なんですね。

この技法を延々とやるわけですよ。しかも問題なのは、それが出てくるのが映画の冒頭から序盤にかけてということです。

映画が開始して、観客はまだ登場人物にも慣れていないし、人となりもわかりません。いわば知らない他人で記号です。この状態なのにモンタージュで家族や観光地を延々と見せられてもただ退屈なだけで何も感じません。せいぜい「インドだなあ」と薄らぼんやり思うぐらいです。

序盤こそ登場人物を記号から人間へと昇華させる要、ちょっとした会話にキャラクターを忍ばせる場所です。良質の映画では序盤の僅かなセリフとふるまいでキャラクターを表現しますよね。

そんなんで、延々とモンタージュを見ながら「かつて見た別の映画を参考にキャラクターの想像をさせるつもりか」とだんだん腹が立ってくるわけです。会話による人物造形を放棄しモンタージュに逃げて雰囲気だけで良い映像と感じてもらおうとは無礼千万。まあでもちょっと雰囲気いいしステイシー・マーティンの「あたしインドで退屈なの」っていう感じくらいは伝わりますからいいとしましょうか。

中盤 テロ

心配しながらモンタージュ羅列が終わる頃、事件が起きます。両親に「あたし一人でDVD見てるから二人で行っといで」と一人ホテルで「ヒロシマ・モナムール」を見る少女です。なぜここで「ヒロシマ・モナムール」なのか、実はこれもやや引っかかっておりますが。

物音がします。はて何の音?と気にする少女です。ここらあたりからテロ事件モードとなります。

序盤の雰囲気だけモンタージュはつまらないですが、テロ事件が始まってからは「パレス・ダウン」、がぜん面白くなります。

怖くて緊張感漂う演出がキラキラ輝き出しますね。サスペンスの演出は一級品です。照明を落とし声を潜めます。インドの高級ホテルで味わう理不尽で不条理な恐怖に包まれます。こんな悪夢をときどき見ますね。少女は怖くてたいへんです。両親に助けを求める携帯の声だけが頼りです。

この少女、アンニュイでツンとしていましたがほんとは素直ないい子で、電話でパパに「バスルームに隠れてなさい」と言われればバスルームに、次の電話でピエールに「戸棚に隠れなさい」と言われれば戸棚に、そして再びパパに「いや戸棚はダメだバスルームのほうが安全だ」と言われればバスルームに向かいます。恐怖に半泣きになりながら大人の助言を頼りいちいち言うことを聞くこの少女が不憫で可哀想で見ていて胸が詰まりこちらが半泣きになってしまいました。

ママ

映画が面白くなってくると何でもかんでも面白く感じます。モンタージュのせいで無個性なままの両親でしたが、だんだん味わいが出てくるママの演出が秀逸です。ママ、変すぎます。

ママのおかしいシーンは全部で3つあります。ひとつは電話越しの歌、次はパパと娘の緊迫した電話の後方で姉に電話している様子、そして最後のほうのシーンのキッチンで誰かに電話をしている3つの電話シーンです。3つも面白いシーンを用意してもらって、最初無個性だったママのキャラクターは最終的に立ちまくりました。映画的にはもしかしたら極めて真面目に受け取ってほしいシーンだったかもしれませんが、私と映画部の相棒は吹き出しましたよ。

こんなに面白く撮れるのにほんとに序盤がもったいなかったなーと思いました。

アルバ・ロルヴァケル

さて、サスペンスのクライマックス近くにはホテルの他の部屋にいる女性と出会うシーンがあります。このあたりの出来栄えも秀逸でした。「そこから夫が見える?」ってシーンでは呻ります。で、それはそれとして、この他の部屋の女性なんですけど、アルバ・ロルヴァケルが演じてますね。わぉ。

アルバ・ロルヴァケルはイタリアの女優で「ボローニャの夕暮れ」などに出てた女優さんです。最近は妹さんが監督した「夏をゆく人々」っていういい映画でもお見かけしました。この方、特にファンでも追っかけてるわけでもないんですが映画に出てるのを見ると一瞬で「あっ、この人」って思ってしまうという自分にとってだけ不思議な存在の女優さんです。

そんなこんなでフランス人とイタリア人がインドのホテル、しかもテロ攻撃受けてて火事であるという状況で出会います。言葉が通じないので英語で会話しますね。

言葉が通じないので英語で会話する、こういうシーンをいろんな国のいろんな映画で見てきました。「迷子の警察音楽隊」もそんなのでしたね。私は人生に後悔があるとすれば外国語の習得ができなかったことが筆頭に上がります。英語にもイタリア語にもスペイン語にも頓挫して何もしゃべれないし日本を出たら不便の極みです。

青春映画

さて、序盤モンタージュで中盤サスペンスフル、では終盤がどんなのかというと、「パレス・ダウン」は甚だへんてこりんな映画でして、最後はキュートな青春映画で〆ます。

「コーヒー、紅茶、オレンジシュース」「わかんない」

といういかにもフランス映画っぽいアイドル青春映画になります。これが意外でまた驚きます。これを面白がれるかどうかにかかっていますね。

あまりネタバレしすぎてもいけませんが、全体を通してテロの被害を受ける話だけどテロについては何も描きません。まるで自然災害か事故のような空気のような存在です。あるいは映画的に単なる悪役という風にも感じます。実話をベースに丹念に描いた映画なのにリアリティはまったくありません。

何でもかんでもリアリティが良いとは言えませんから、これはこれでいいと思います。何しろメインは中盤のドキドキサスペンスです。

監督・脚本 ニコラ・サーダ

監督・脚本のニコラ・サーダ氏はどんな人でしょう。ここまで来るともう半分バレています。念のために確認してみます。日本ではパレス・ダウンを含めて三本紹介されていますね。
「ザ・スパイ 裏切りのミッション」「スリープレス・ナイト」そして「パレス・ダウン」です。ほらやっぱり。ほらやっぱりそっち系の監督でした。どおりでサスペンスドキドキシーンや銃声やアクションのシーンばかりやたら面白かったはずです。

ステイシー・マーティン

最後にステイシー・マーティンです。「ニンフォマニアック」でもかなり頑張りましたよね。今回の役も相当頑張っていると思います。実は演技も上手です。少女のきょとんとした目をしたり、恐怖に怯えるか弱さも表現できました。
最近見た「アナザー(The lady in the car with glasses and a gun)では社長夫人の役でしたね。大人に見えました。今回ちゃんと10代に見えます。

この女優は美しすぎてただのモデルですかと思われがちかもしれませんが実力もかなりあります。そうでないとトリアー作品で主人公ができるわけありませんものね。

ステイシー・マーティンのインタビューが公式サイトにも載っていました。

その中で「ヒロシマ・モナムール」にも少し触れています。

私自身がこの状況でレネ監督の映画を見たため、政治に敏感になりました。
タージマハル・ホテルの襲撃は2008年の出来事ですが、イギリスではすでに1988年に襲撃事件があり、今日もなお、世界中にテロの脅威があります。
このような試練を体験することは何を意味するのでしょうか。
映画の現代的なテーマを通じて政治や社会に関心を持つようになり、私たちの暮らすこの世界がもたらす問題に、以前よりも強く反応するようになりました。
公式サイト ステイシー・マーティン インタビュー

「パレス・ダウン」は政治やテロリズムについては全く何も描きません。私個人としては少し残念ですが、だからこの映画が良くないとは思いません。

原題はシンプルに「タージ・マハール」です。邦題「パレス・ダウン」って、なんだかアクション・バイオレンス映画みたいなタイトルだなと思いました。しかし本編を見て妙に納得。こんな納得の仕方、監督もステイシーもきっと本意ではないはず。そう思うと、作り手が想定していた仕上がりに果たしてなっていただろうか、と少しだけ心配になりますがそんな心配は余計なお世話ですね。

このエントリーをはてなブックマークに追加

[広告]

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA